第十七話:どんなことでも並べて比べると大差がない。
「加賀美はどうなの?」
「その呼び方は固定なの?」
ハクアとのやりとりを思い出しそう呼んでみたのだが、微妙な顔をされた。
まぁ確かに今は姉もいるということがわかってしまったしな…。
私としてはなんとなく気が引けてしまうのだが、女子同士って必要以上に下の名前呼びに「ちゃん」付なイメージあるよな。
なんでなんだろう?やっぱり仲間意識?仲良しアピール?
あるいは牽制とか?「私たち友達だよね(圧)」的な?
いや、まぁどうでもいいけどね。
「…マナは。」
「そうね、カナコ。ちなみに私は二限の民俗学入門だけ。あぁ、種族じゃない方の『民俗』ね。」
そういえばさっきまでマナも私のことを苗字呼びだったじゃないか?
なんで私の方から名前で呼ばなきゃかけないんだ…。
いや、別にこの際呼び方とかどうでもいいんだけどさ。
ニコやシノブたちは呼び捨てだし。ツキヨやキララもそうだからな。
「ややこしいね…で、その三人で?」
いつまでも名前の呼び方一つで止まっているのもアレなので、話の方向を変える。
「そうね。大学って聴講っていうのもあるらしいし、人数が多い授業なら二人くらい増えてても目立たないわね…。」
「ふんっ。キララ様を一時間半も退屈に座らせておくなど、いい度胸だ。」
そういえばキララの異常な記憶力を考えると、勉強ってあまり面白くないのかもしれないよな。
今日は一日目だからあれだけど、今後もずっとってなると、学校の授業って内容の重複とかもあるし…。
いや、そんなこと関係なくハクアは暇そうにしてるけど…。
「あんたはそうやってなんでもかんでも記憶力頼りで適当にやるから、肝心なところで応用効かないんでしょ?」
「な!?貴様こそ何もかも適当で、重要なことも覚えとらんじゃないか!」
「私はシノブとコクウが覚えてるからいいのよ。」
「な!?このチート野郎が!」
「女は『野郎』って呼ばないのよ。」
「揚げ足とるな!」
なんだその低俗な会話は…。
とても一千年生きてる狐と、永遠の命を持つ吸血鬼の話す内容とは思えない…。
いやむしろ、時間の感覚がバグってるから、無駄話をちょっとするくらいの余裕は常にあるのかな?
「はぁ…ここでもやっぱりこうなのか…。」
ツキヨが半ば諦めたようにため息をつく。
「ハクアとコクウは、キララと仲悪いの?」
いくら気を遣っても耳のいいハクアには聞こえてしまうだろうが、それでも一応小声で尋ねる。
「そうね…。コクウはキララのこと苦手かもね。ハクアはまぁ、遊んでるだけだと思う…。」
まぁ、そうだろうな。
クロハもいじられてたし。
デパートの階段が増えるとかなんとかの原因になってたすねこすりも酷い目に遭ってたし…。
ハクアには時々そういうサイコというのかSっ気というのか、幼い嗜虐性みたいなのが垣間見れるよな…。
ライオンとかイルカとか捕食者側の動物の子供は、獲物で遊んで狩りを学ぶみたいなことは聞いたことあるけど、それに近いものなのかもしれない…かな?
「でもまぁ、こういうの見るのも久々なのよね。」
「そっか、四年前までは同じチームで活動してたんだっけ?」
マナがそう尋ねる。
どうやらその辺の事情は一通りマナも知っているようだ。
その方が都合はいいけれど、なんかちょっと癪に触るような気もする。
新しい発見をしたと思ってたら、実はみんな知ってたみたいな。
新しい技を開発したと思ったら、実はみんな使わないだけで普通に使える技だったみたいな。
そんな気持ちである。
「…大変そうだね、そっちも。」
懐かしさと同時に疲れも感じる表情のツキヨに、ねぎらいの言葉をかける。
「まぁ、四年間好きにやってきたしね…ちょっとは貢献しないとね。機構員として…。」
派遣機構員として、か…。
そういえば派遣機構って、結局何を目的にした組織なのかわかってないな、とふと思う。
慈善事業みたいな感じ、とも言ってたけど、シノブやツキヨは働いてもいないのに生活できてるわけだし、ボランティアとは違って、一応賃金は発生してるのかな?
「そういえば、杖を持つことになるんでしょ?」
ぼんやりと考え事をしていた私に、ツキヨが問いかける。
「え?…あぁ…まぁそういうことになってるらしいんだけど…。」
「杖!?」
その話に一番食いついたのは、当然というかなんというか、マナだった。
〜次回予告〜
カナコ:「結局こういう話も戻ってくるんだね…。」
ツキヨ:「まぁ、それが日常になってきてるってことかもね?」
カナコ:「平均一日一回くらい死にかける日常は嫌なんだけど…。」
ツキヨ:「でも、杖を使えるようになれば、死にかける機会は減るかも…。」
カナコ:「ほんとかなぁ…とはいえ次回は『第十八話:力の幻影と幻影の夢。』をお送りします。」
ツキヨ:「楽しみにしてなさいよね!」
幕




