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第十七話:それは一瞬の出来事すぎたので私は見逃した。

 ここまで展開が読みやすいとうんざりである。

 いや、うんざりしている暇はないわけだが。

 何せ、でしゅ野郎(仮称)がナイフか何かを持って急接近してきているからだ。


 私が死ぬか、ニコが私を庇って死ぬか?

 奴はすぐそこまできている。元々そんなに距離はなかったのだ。

「カナコ…。」


 ニコも覚悟が決まりきっていない不安を隠しきれてない声で、私を呼ぶ。

 それはそうだ。さっきまで和やか朝ごはんタイムするつもりで、今は死にかけている。

 昨日から突然に、私の人生に雪崩のように押し寄せる転生チャンスはなんなんだ…。

 転生チャンス逃し続けるとかいう新手のラノベか何かなのか?


 んなわけないじゃん!


 死の瞬間は、全てがスローモーションになって感じるという。

 私はこれまで、そしてこれから、どれだけの時間をこの浮遊感のある低速度の世界で過ごすことになるのだろう。

 つくづく時間が相対的な概念でしかないと言う事実を痛感する。


 無駄なことを考えている間にも、しかし刻一刻とでしゅ野郎とその手に握られたナイフは迫り来る。

 このまま死んだら、あんな語尾からバカ丸出しのやつに殺されたことになるのか?

 おいおい。そいつぁないぜ?

 …。

 とはいえ、覚悟だけはした方がよさそうだ。

 黒い煙の塊も、心なしか距離を詰めてきているようだ。


 だが、瞬きの刹那、不思議なことが起こった。


 迫りきていたはずのでしゅ野郎は、ほんのコンマ何秒の合間にどこかへ消えていた。

 同じく浅黒い人型も、暫くの間に霧散した。


 そして、でしゅ野郎が先ほどまでいたあたりに、青年と少女が立っていた。


 青年は黒髪。腰には五本の漆黒に輝く絵筆の先のような形の尾。頭の上には三角に尖った耳。

 理想主義的ケモ耳のビジュアルである。しかも立ち姿から察するに、四つ耳。

 というよりも、耳も尾もまるでアクセサリーのように、肉体から生えていると言うよりは、後からつけたような?

 彼はこちらに背を向けているため、顔までは見えないが、私より若干年上な印象を受けた。


 一方で少女の方には青年についているのと同じような尾と耳。

 ただし、色は純白。尾の本数は四本。耳は頭頂部ではなく、ニコと同じ人間と同じ位置にある。

 そんな彼女は髪も白ければきている服も白いワンピース。

 つまり何もかもが白い。


 ニコも白ゴス銀髪でだいぶ白いが、それをはるかに凌ぐ白さ。

 背景が全て白いハコニワの世界では、ともすればそのまま溶け込んで消えてしまいそうなほどだ。


 そんな二人が向いている先には、だいぶ離れた位置に、さっきのでしゅ野郎が、無様に、まるで石にでもつまずいて転んだように、うつ伏せている。

 かと思えば、誰もに嫌われる黒光りする昆虫のような素早さでこちらを向き直る。

「な、管原シノブ!?派遣機構から除名されたはずではないでしゅか!?」

「あぁ…まぁ事情があってな?」


 青年が余裕の声音で、頭をかきながら答える。

 さっきまでの私の死にかけの緊張感からは、えらい違いである。


「と、とにかく、に、逃げるでしゅ!」

 ガサゴソと手足をばたつかせながら、でしゅ野郎がこちらと逆方向に逃げ出そうとする。

 それを見た青年が少女に一言告げる。

「ハクア、よろしく頼んだ。」

「はいはい。」

 ハクアと呼ばれた白い少女は、青年に呼びかけられるとさも嫌そうに返事をしながら、懐から杖を取り出し、一度くるりと振るった。


「あた!」

 すると、逃げようとしていたはずのでしゅ野郎の方から、何やら悲鳴が聞こえる。

 見ると何もない場所で、まるで何かにばったりぶつかったかのような仕草で、仰向けに倒れていった。


「これが、猫騙しならぬ狐化かしってね!」

 少女が杖をもう一振りすると、仰向けに倒れたでしゅ野郎の前に、壁のような透明な何かが一瞬浮かびあがり、そしてまた消えた。

 おそらくあのでしゅ野郎は、勢いよく逃げようとしたところを、あの透明な壁に勢いよくぶつけたのだろう。


 なんて無様なんだ…。

 いくらかませ感の否めないキャラとはいえ、流石にギャグかと思うほどの呆気なさであった。

 あるいは、そんな小物が見た途端恐れ慄き逃げ出すこの青年がやばいのだろうか?


 その件の青年、そして少女は、一部始終が終わると今度はこちらを向き直った…。

〜次回予告〜

ニコ:「だいぶあっけなかったですね…でも私一人では…。」

ハクア:「あんたね?収束点の契約した魔法少女ってのは?」

ニコ:「は、はい!」

ハクア:「なんで魔法を使わなかったの?契約者を守るのがあんたの仕事でしょ?私たちが来ていなかったら…。」

ニコ:「すみません。すみません。でも、実は時間停止を昨日使ったばっかりで…。」

ハクア:「は?時間停止?なんで?」

ニコ:「えぇっと…。実はカナコ…契約者の角谷さんが?車に轢かれそうになっているのを助けまして…。」

ハクア:「え?…収束点とはいえ、死にかけるペースが早すぎるでしょ!?」

ニコ:「はい…本当に…なんでなんですかね?」

ハクア:「…ま、それが必然でも偶然でもあんたの仕事は変わらないでしょ?」

ニコ:「それはそうですが…。」

ハクア:「それより次回は、私とシノブのお話!もう、やっと登場できたわよ!というかどんだけ待たせんのよ!?」

ニコ:「それは誰に言っているんで…。」

ハクア:「と、言うわけで次回は第十八話:『狐かける狐でコンコンの二乗!』をお楽しみに!」

ニコ:「せめて最後まで言わせてください!」

ハクア:「お楽しみに!」

ニコ:「しかも仕事を全て取られた!?」

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