第十五話:この世は割り切れないことばかり。(前編)
サークル棟までの時間は、それほどかからない。
話していたら本当に「あっ」という間に辿り着いてしまう。
「さて、これからどうしようかな?」
「何その少年漫画のナレーションみたいなのは?」
逆になんだその極めて狭い層にしか通じなさそうなツッコミは…。
「おはよう、角谷さん!…て、あれ?入らないの?」
突然、少し遠い位置から聞こえてきた声はマナのものだった。
今回は特に驚かなかった。遠い位置からの挨拶だったからだろう。
…逆にいうと、派遣機構の人たちって意外に距離感が近い人が多いのかな?
マナの声、とはいうけれど、マコト…では流石にないか。
そうだったとしたら、ハクアが先に反応するはずだ。
「えー…。」
振り返るとそこには、コンビニの袋を下げたマナと、ツキヨにキララもいる。
ツキヨもキララも今日は着物や黒ゴスではなく、普通に可愛い普通の服を着ている。
普通に可愛いってずるいなって思います。
しかし、私が気になったのはそこではない。
キララが、なんか違う?
「なんか、デカくなってない?」
私は、キララの様子を見て驚いたてずねる。
彼女は、確かにあのキララなのだが、身長も違うし、元々整っていた顔もさらに大人びている。
というか、普通に大人になっている。
せいぜい高校生…いや、普通に大学生か、成人くらいに見える。
ただ、身長は私が高すぎることもあってか、高くなっているとは言っても、それほど成長したっていう感じはない。
マナやツキヨと比べても、少し低いくらいか…。
「あぁ、吸血鬼族の特殊能力は、身体年齢の任意変更だからね…。」
「ふふん。どうだこの美麗なキララ様の大人の姿は!」
確かにめっちゃ美人だけど、なんというか…。
「前の姿の方が可愛いかな。」
「な!?」
「そうなのよね…まぁ美人なんだけどね…。」
ツキヨも首を縦にふる。
どうやらこれは、キララのこの姿を知っているものの共通認識のようだ…。
「なんだその、残念なものを見る目は!
いいではないか、美人なのだから!」
しかも、見た目の年齢が上がったばかりに、こういう厨二病発言が普通にイタイ感じになっちゃっている。
なんだろう、お人形さんみたいに可愛い女の子って珍しいけど、美人って周りに結構いるからかな。
それとも服装?発言?
わからないけどなんだろう、この夢破れた感じは…。
ロリ声声優が声当ててるキャラが普通に大人のかっこいい女性だった時の妙な残念感というか。
長期連載の漫画で、幼少期編が終わって、十年後とかのキャラクターを見た時の、憂愁というか。
そういう気持ちになった。
「まぁ、大学に入るならこの方がいいしね。」
「確かにそうだよね。」
しかも、考えてみると、キララは今の見た目くらいが、実年齢なんだもんな。
なんだかなぁ…。
さて、一方のツキヨだが、こちらも昨日から今日にかけてだけで、ずいぶんやつれているように見える。
…まぁマナとキララが両隣にいるのだから無理もないか…。
どう考えても一緒に生活するのに向いてないもんな、二人とも…。
キララとは長い付き合いだろうけれども、マナもいると、単純計算二倍だもんな…。
あの二人、気も合いそうだし。
「シノブたち、中にいるんじゃないの?」
「いや、他の会員の邪魔にならないようにって、移動してるらしいで…じゃないらしいよ。」
敬語を使わないように、とツキヨに言われたのを思い出したのでなんとか途中で言い直した。
「まぁ、私たちも入ってますます大所帯だものね…あの階段下じゃ狭いか…。」
「そうだよね…。」
「じゃあ、私たちも、そっちに行く?」
「え?」
マナが何を言い出すのかと思ったら、思った以上におかしなことを言い出した。
せっかく大所帯になって邪魔になるのを回避したのに、なんで自分から集まりに行くのか?
というか、なんでナチュラルについてくるつもりなの…?
そりゃまぁ、マナももはやこちら側の人間なのに違いはないけどさ…。
〜次回予告〜
カナコ:「なんというか、大学にいると遭遇は避けられないんだよね…。」
マナ:「そんな、未知のものと初めて出会ったみたいな反応されても…。」
カナコ:「なんでちょっと嬉しそうなの…。というか、加賀美もほんと、順応早いよね。」
マナ:「まぁ、これくらいはオカケンでもないことはないし…というか、その呼び方固定なの!?」
カナコ:「というわけで次回は『第十六話:この世は割り切れないことばかり。(後編)』をお送りします。」
マナ:「お楽しみに!」
幕




