第十二話:イングリッシュ使えばスタイリッシュだと思ってるだろ!
デザイン入門の授業の教室にたどり着く。
教室はおそらくデザイン学科の新入生らしい、初々しい印象の人たちが多くいた。
よく調べていないのでわからないが、デザイン学科に入っている人は一年次の必修とかなのかもしれない。
飛び交う自己紹介や、受験の頃の話や受講する授業の話など、当たり障りのない会話。
時間割の関係でこの授業をとっているけれど、この教室の雰囲気はシラフでは厳しいかもしれない…。
なんというか、眩しすぎて…。
まぁ私飲めないんですけど。
未成年っていうのもそうだけど、アルコールに、文字通り「死ぬほど」弱いのがわかってるからな…。
とりあえず、ハクアがいてくれてよかった。
おかげで百パーセントアウェイの中戦う必要はなくなっている。
273号室は西棟七階の一番奥で、おそらく一番大きな教室なのだろう。
現時点でそれなりの収容人数だが、それを差し引いてもまだ席に余裕がある。
私は、とりあえず若干前の方だが二人で並んで座れそうな机を見つけて、そこに着席する。
ハクアもすぐ横に座ってくる。
美術学科の人たちもそうだったが、デザイン科の新入生たちも、ハクアの容姿に一瞬びっくりしたのち、関わってはいけないと理解したように顔を背ける。
私もその「ヤバいやつ」の当たり判定にギリギリ入っているのは気に食わないけれど…。
それでも、まぁ変に話しかけられたりするよりはマシだろう。
…いや、違うな?
思い返すと、ハクアが横にいなくても、私は生まれてこの方話しかけられたことがない。
そもそも私も話しかけづらいタイプのオーラを出しているのかもしれない。
何その悲しい発見…。
…とは言え、授業が始まってさえしまえば、カラノミヤは治安が悪い大学でもないので、私語も自然となくなる。
遠い教室からの移動だったことが幸いして、居た堪れない気持ちで席に座っているだけの時間は数分で済み、そのまま授業が始まる。
教授はいかにも「できる人」という印象を受ける女性。
見た目は流教授や土岐野教授と同じか、少し上くらいだろうか?
喋り方もハキハキしていて、情報量も多いので、受けがいのある授業にはなりそうだ…。
というか、専門用語らしいカタカナ語が多く、意味を理解するのにやたらと時間がかかる。
まだ受験や卒業の興奮冷めやらぬ新入生たちからすると、慣れない授業ということもあり、余計に戸惑っている様子だ。
周りの生徒たちの圧倒されたような姿が、面白いような、明日は我が身のような…。
とは言え、ある意味部外者の私は、単位さえ取れればいいという程度なので、特に気負うこともなく、それなりに楽しく授業を受けることができた。
いつもとっているノートだが、この授業が今までで一番メモの量が多い。
…案外自分の学科の授業よりもこういう他学科の授業の方が、前提知識が少ない分、ノートとる量が多かったりするよな…。
というわけで、カタカナ語のマシンガンにちょっと焦りつつも、この授業も消化。
終業のチャイムがなり、出席カード?出席票?を出したら、昼休みである。
去年から、出席はオンラインのことがほとんどだったので、出席カードって書くの初めてなんだよな…。
同じく初めて出席カードを書くのであろう新入生たち以上にオタオタしながらなんとかカードを書き終える。
ハクアも上手く出すフリだけして何事もなく教室を出る。
当然と言えば当然だが、昨日の土岐野教授の授業の時のように呼び止められることもなく。
デザイン学科の知り合いは一人もいないので、誰かに出会うでもなく。
…あれ?
そういえば、昼休みってどうすればいいんだっけ?
〜次回予告〜
カナコ:「なんというか、昨日もそうだったけど、こうも何もないと、逆に不安になるよね…。」
ハクア:「そう?平和が一番でしょ?」
カナコ:「まぁ確かに…でもなんというか、平和だった時に自分がどうしてたか、逆に忘れちゃったよね、なんというか。」
ハクア:「なんというかほんと、流されるがままに生きてるわね、あんたは…。」
カナコ:「そんな、現代の若者に文句つける年長者みたいなこと言われても…いや、実際そうなのか?」
ハクア:「…最近あんたの中で、その絡み方流行ってるの?」
カナコ:「というわけで次回は『第十三話:何にもない昼下がりのお話。(前編)』をお送りします。」
ハクア:「お楽しみに。」
幕




