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第九話:眠い頭に入らないことほど朝にしかできない。

 結局、なんとなく気まずいまま、特に話が進展するわけでもないままに、大学の前までたどり着く。

 この六人で歩くのも慣れた道なので、体感的にも、前ほどは時間はかからない。


「じゃあ…。」

「また放課後。」

「また…。」


 気まずいままに形ばかりの挨拶をして別れる。


 だが、別れたところでハクアと一緒だ。

 先ほども声をかけてくれたし、他人に気を遣うくらいの余裕はハクアにはありそうなので、まぁ大丈夫だろうか…。


 というかどちらかというと不安なのはシノブとコクウを押し付けられたニコとツムギちゃんの方なのだが…。

 あの状況で何かがあったら…不安だ。

 死霊術師たちに襲われる、というよりは、またオカケンの誰かに変な誤解をかけられることになったら?


「で、今日はどこなの?」

 ハクアが大欠伸をしながら私に尋ねる。

 さっきは神妙な面持ちをしているように見えたけど、そんなことなかったかな?


「語学だから、この前と同じとこ。」

「めんどくさいわねぇ。そもそも普段使わない言語勉強して何になるわけ?」

「それ前回も同じようなこと言ってたよね?」


 よっぽどハクアの中ではこの授業に疑問があるのか。

 あるいは単純に朝の授業で早く起こされるのが納得いかないのか…。

 今の様子だけ見ていると後者の方がウエイトが重そうだけど。


「というか同じ授業が二回もあるわけ?」

「あー。うちの大学は語学二種類選択だから水曜日のとは別言語…。」

 って、シノブたちも通ってたんだから、わかるんじゃないの?」


「何でもかんでも全部、簡単にわかるわけじゃないのよ。

 今みたいな場合は、あんたに聞いた方が早いの。」

「へぇ…。」


 なんかシノブたちの契約って、便利そうでいて、あんまりそうでもないよな…。

 むしろ不便なことの方が多いような気さえしてしまうのは気のせいか?


 記憶や感情が混ざってめんどくさいとか。

 そこまでしてせっかく共有した情報も、引き出すのが面倒とか。

 まぁ三人で契約してるせいっていうのも余計面倒さに拍車をかけてるんだろうけど。


 戦闘で強くなるって言っても、三人で戦っているからこその強さって今のところ見たことないし…。

 それは、どうしても片方は私の護衛に回るせいで二手に別れなきゃらならないからなんだけど。


 …というか、第二種でも戦闘能力だけなら担保できるのでは、と思うのだが。

 第一種の契約は、確か古い契約の形を最も強く残していると、ずいぶん前に説明された。

 わざわざそれをやる意味なんてあるのか?


「そういえばさ、ハクアってなんで…魔力がなくなったの?」

 珠がどうのこうのというのは、このご時世変な勘ぐりを受けそうなので、言葉を選ぶ。

 いや、魔力の話もどうなのよってのはそうなんだけども。


「…あぁ、そういえば話してなかったわよね。」

「契約と関係があるの?」

「まぁ………そうね。」


 今だいぶ間があったな。

 なんとなくそんな気がして聞いてみただけだが、やはりそうなのか…。


「魔力は、幻獣の生命力そのものなのよ。つまり、ゼロになると死ぬわけね。

 魔力を分け与えるってこともできるんだけど、誰からでもっていうわけにはいかない。

 特に私は…、まぁ自分の体内に留めておける魔力が少ないから…。」


 ハクアが浄化の魔法を暴発させて倒れかけた時のことを思い出す。

 あの時は確かシノブがハクアの手に触れて、それで何事もなかったようになっていたが。


 狐の珠がないか魔力が少なくて活動が難しい。

 活動するためには魔力の輸血?移送?が必要だけどそれは誰とでもできるわけじゃない。


「つまり、第一種の契約だと、魔力の受け渡しができるようになるってこと?」

「簡単にいうとそうね。契約した魔力が融合して、別の性質に変化するんだけど…だから、副作用とか危険性もあるし、三人でなら尚更ね。」


「じゃあ、二人はハクアを助けるために?」

「………まぁ…そう?」


 こんなに歯切れの悪いハクアを見るのは初めてだ。

 ハクアからするとあんまり認めたくない事実なのか…。


 まぁこれっていうならニートがあまり親しくない人に「親の脛齧って生きてます」って宣言するようなもんだもんな…。

 いや、流石に違うか?


「でも、そもそもなんで…。」

「…シノブは、リンネに関する事件を追ってた。」

「…?」

 いきなり話が飛んだので驚いた私だが、ハクアは無視して続ける。


「私は、あいつに対峙して負けた。珠は、その時に根こそぎ喰われたわ。」

「喰われた!?」

 それはまたなんというか…。

 思った以上にハードな目に遭ってるな…。


 なんにせよ多分、これは朝っぱらからする話じゃなかった。

〜次回予告〜

カナコ:「実はずっと詳細が明かされてなかったハクアの身の上話だけど、なんだかあらぬ方向に…。」

ハクア:「まぁ、出会ったころにこの話しても、理解できなかったって、今ならわかるでしょ?」

カナコ:「確かに…単純に説明がめんどくさいから放棄してたわけじゃなかったのか…。」

ハクア:「まぁ前置きで事件とかリンネの説明するのがめんどくさかったからなんだけどね。」

カナコ:「おい…ってでもまぁ、それこそ、そんな話いきなりされてもってなった気はするか…。」

ハクア:「そうよ!全てあんたのことを思ってのことだったのよ!」

カナコ:「何その束縛系の粘着質キャラが言いそうなセリフ…というわけで次回は『第十話:そんな笑顔で呪文を聞かされても!?』をお送りします。」

ハクア:「お楽しみに。」

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