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第四十七話:水の音と考え事。

 順番的に次は私が風呂に入る番か…?

 と思っていたのだが、皿を洗っている間だとシャワーの出が悪くなるということがニコの発言から判明。

 結局、洗い物が終わるまでは待つことになった。


「面白いですか?」

 洗い物の音を聞きながら漫画をよんでいると、ニコがそう尋ねてくる。


「そうだね。でも、読めなかった期間が長かったから、ピンとこないかな…。」

「あー。途中まで読んだ小説とかで、間が空いた後に読むと世界に入っていけなかったりしますよね…。」

 ニコから読書あるあるが出てくるのは意外だったが、言っていることには共感できるので、頷く。


「いや…流石に、人並みくらいには本も読みますよ…。」

 …そういえばそんなことを前にも言っていたような記憶はある。

 他ならぬニコのことだというのに、忘れているなんて切腹ものだ…。


「そんなに!?やめてくださいね…。」

「いや、流石に私もハラキリの勇気はないかな…。」

 あれ、作法通りやると死ぬほど痛いらしいしな…。


「「…。」」

 しばし、二人で黙ったままの時間が続く。

 読んでいるのは漫画なのに、気づくと同じ行を何度も読んでいる。


「「あの…。」」

 そして、綺麗に話始めがかぶる。

 なんだその告白シーン直前の男女みたいなの…。

 普通に気まずいからやめてほしい。


「すみません…。」

「いや、別に…、で、何?」


「えーやー…たいした事ではないんですけど…。何だか、初めは想像もしなかったところまで来てしまったような気がして…。」

「そうだね。」


 初めは私はただの<収束点>で…ってまぁそれも意味わかんないんだけども。

 そんな私を浄化して生活をサポートするために魔法少女のニコがやってきて…。


 それだけのはずだったし、少なくとも、ニコも私もそれだけのことだと思っていた。

 まぁ仮にそれだけでも、人生を通してもほとんど他人と関わってこなかった私からすると大きな変化だったが…。


 だが、問題はそれでは終わらなかった。

 理由はわからないが私を狙う死霊術師の集団<黄泉の妃>の襲来。

 彼らから私を守るために派遣されてきた、派遣機構を追放中だったシノブたち。

 さらにそんなシノブを監視するために派遣されてきたツムギちゃん。


 それでも、初めはちょっと変わった新生活が始まるだけだと思っていた。

 でも、そうじゃなかった。


 大学で出会ったマナや、伊藤さんも死霊術師たちに襲われた。

 マナに関しては、死別したはずの姉が現れ、今は私と同じ護衛される身…。

 そしてとうとうサトミさんやニコまで…。


 なんでこんなことになっちゃったんだろう?

 私はあの日シブヤ町でトラックに轢かれかけて…。


「終わったわよ。」

「え?あぁ。ありがとう。…色々やってもらっちゃって…。」


「どうせ、シノブたちと一緒でも、二日に一回は私が当番だから…。」

「あぁ、そうなんだ…。」

 何というか、シノブはあんなんなのに、意外に生活感あるよな…。

 それでもしっかりしてるって印象はないのは、日頃の行いかな…。


「お風呂、入らないの?」

「あ、あぁ…うん。」

 なんか風呂入るのを急かされるのは微妙にいかがわしいような、一方で妙な実家感というか…。

 コクウはほんと、いいお嫁さんを通り越していいお母さんかな?


「何?」

「いや…何でも…。」

 流石に口に出して言えるはずもなく、私はコクウに促されるままに風呂に向かう。


 パジャマがわりのジャージをその辺に置き、脱いだ服を洗濯機に投げ込む。

 そういえば、今日は、何もなかったな…ってこれフラグかな…。

 口に出してないからセーフかな…?

 だといいんだけど…。


 これまで考えたことなかったけど、風呂入ってるときに転移とかさせられたらめっちゃ嫌だな…。

 様にならないとかいう次元じゃないぞ、それはもう、ただの放送事故だ…。


「…さっさと入るか。」

 そんなこと心配しても仕方ないし、ニコだけでなくコクウもいるので流石に風呂に入らないわけにも…。

 というか、それこそシノブが今朝言っていたことだ。

 「いつどこでも危険」だからこそ「普通に生活する以外にない」のだ。


 風呂場に入り、シャワーの栓をひねる。

 ついさっきまでニコが入っていたからか、出始めのシャワーもすでに温水だった。


 お湯の感覚と共に、体の疲れを実感する。

 まぁ、私に記憶がないだけで、昨日も色々あったらしいしな…。

 いや、昨日に関しては、記憶にある部分だけで言っても相当色々あったけど…。


 明日には魔法の杖を手に入れてるかもしれない。

 我ながらなんだそれは…一週間前の私だったら鼻で笑って流してしまっていたかもしれない。


 こんなことで真剣に悩むことになろうとは…。

 ローファンタジーの作品って今時結構あるけど、その中の主人公も、こうやって悩んだのだろうか?


 だがいくら思い悩んでも結局は「できることをする」しかない。

 正直、これだけいろんな可能性を知ってもなお、魔法を使えることに対する期待感がないわけではない。


 「やらなら楽しく」見たなのって本当は最終回間際で主人公の先輩とかがいうもんじゃないのか、とは思うけど…。

 まぁでも、そう思うしかないところもあるし仕方がない。


 …ちなみに、私が風呂から上がった後、洗面所の出口で静かに本を読んでいたコクウに驚かされたのはまた別の話。


 そんなに距離感を必死で保たなくても…。

 この調子だと、そのうちトイレとかも一人で行かせてもらえなくなりそうな予感がするな…。

〜次回予告〜

カナコ:「…と言いつつ次回で今回の章は終わりなんですけども…。」

コクウ:「いやにぬるっと終わるわね。」

カナコ:「まぁそういう日があってもいいじゃん…というか、普通の人の一日は大抵ぬるっと終わるものなの!私の最近が異常なだけ!」

コクウ:「そうなのかしら…?」

カナコ:「まー生まれながらに派遣機構員のコクウさんにはわからないかもしれないですけどねぇ。」

コクウ:「いえ…確かに私は危ない目にも遭ってきたけど、派遣機構の中でも、安全な場所でも役職もあるから…。」

カナコ:「役所の職員さん的な?って、役所も色々だけどもさ。」

コクウ:「研究員とかかしらね…司書もそうだけど…。でも、今回のツキヨみたいに、駆り出される時もあるしね…。」

カナコ:「そうだね…誰にも迷惑をかけないようにって思ってたはずが、いつの間にかこんなことに…というわけで次回は『第四十八話:夢でお会いしましょう!』をお送りします。」

コクウ:「お楽しみに…。」

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