第四十五話:異種婚類譚っていいますけども。
「でも確かに、聞いたことがあります…。
幻獣と人間の子どもやその子孫では、見た目や身体的特徴は人間でも、魔法を使えるものが生まれることがあるって…。でもそれは…。」
「そう、道徳的な話以前に、生物的に普通はありえない。
人間界で学ぶことからでもわかると思うけど、別種の動物から子供が産まれることは稀だし、仮に子供が産まれても、子孫を残せる能力がないものがほとんど…。」
それは確かに覚えがあるな…。確かライガーとか何とか。
でも、理科の授業かなんかで生殖能力はないって習ったような?
クローンとかに近いものってイメージだけど…。
考えてみるとそういうはまさに魔法と区別つかない魔法って感じするよな…。
まぁ倫理的な問題は一旦置いておくとして…。
というか何の話だっけ?
「じゃあなんで…。」
「それは、あくまでそう『言われてる』だけで、実際はわからない。
突然変異なのか、人間が元々持っている能力が現れているだけなのか…。
ただ、事実と違っても、魔法が使える能力自体はなくならない。
だから、畏怖と共に敬遠されるのも変わらない。
原因が今でもわからないのも恐れられる要因。」
コクウがこんなに長く喋ってるの初めて聞いたな…。
しかし要は、人間は正体不明なものを恐るってことか…。
派遣機構の人間は魔法がどんなものか知っているからこそ、恐怖を感じるという面もあるのかもしれない。
まぁ能力を生まれ持ってしまった側からするとたまったものではないだろうが…。
「ミコト伝承や、死霊術を生み出した始祖の影響も大きい。
彼らも人間なのに魔法を使えたから…。
特に死霊術師の中では、始祖は一種の信仰の対象だったから…。」
「死霊術への忌避感もあって余計にってこと?
でもその二人は後天性なんでしょ?私と同じで…。」
確かに彼らや私の能力も謎に包まれているのかもしれないが、<収束点>の一種であることに変わりはない。
そうなると「正体不明のものを恐れる」というのとは違う気がするし…。
何より、シノブのような生まれながら魔法を使える人とそれでは全く別物だ。
「それは一般には公開されてない内容。私たちも、予想はできても、事実は昨日初めて知った。」
「…つまり?」
「派遣機構の皆さんからすると、歴史上の彼らも、シノブさんもカナコもみんないっしょくたに見られるってことですか?」
「そういう可能性もある。実際、ミコトは幻獣と人間の子供という説もある。」
「…なるほど?」
一般の人間の説話にも、動物や怪異と結婚したり子供を残して、その子孫がどうのこうのという話は結構あるのは知っている。
何なら現代でも、鶴の恩返しとか葛の葉狐的な伝承が元になったラノベとかアニメとかも枚挙にいとまがない。
そういう話って、英雄譚的な部分だけが切り取られてるだけで、案外裏にはそういう敬遠や差別があっても不思議はない…。
というか、コクウの話が事実なら、現実にそういうことが起こっていた可能性が高い。
…いや、実際に異種婚だったのかはわからないけど、少なくとも異能を持った人が虐げられてきた歴史が…。
それも、本来仲間のような気がする同じ異能を扱うものからさえ…。
何となく納得いかないような気もするけど、同時にそういう話は確かに現実にあってもおかしくないと思う自分もいる。
他人を恐れる気持ちは、私にもわかるから…。
とはいえ、一つ合点がいったのは、ツキヨが昨日、私が魔法を学ぶことに反対した理由だ。
昨日ははぐらかされたが、彼女はこの辺の事情を察して私を案じて止めようとしたのかもしれない。
正確には、事情を理解した上で話を進めようとするシノブを止めようとしたのか…。
何か、だんだん話が込み入ってきたな…。
〜次回予告〜
カナコ:「何というか、二個に初めて会った時からずっと思ってたけど、ちょくちょくすごい暗いよね。派遣機構の歴史って。」
ニコ:「派遣機構が、というよりは、それができるまでの歴史がって感じかもですね…。でも人間さんの間でそこまで諍いがあるなんて知りませんでした…。」
カナコ:「ニコは人間で魔法が使える人がいるっていうのは知ってた?」
ニコ:「噂程度には…でもそういう情報って幻獣のコミュニティーというか、私が過ごしていた環境では入ってこなくて…。」
カナコ:「何というか、境遇が違うだけで、世間を知らない理由は私と似てるよね、ニコは。」
ニコ:「そうですか?って、頑張って勉強してますよぅ、これでも!」
カナコ:「そうだね、私は頑張らないからそこは違いか…。」
ニコ:「変なところで威張らないでください!…ということで次回は『第四十六話:気まずい時間ほど長く感じるもの。』をお送りします。」
カナコ:「いやー第五章もそろそろ終わりですね。…お楽しみに。」
幕




