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第四十四話:杖と魔法とちょっとだけ過去話。(後編)

 手にとって見せてもらったり、あわよくば振ってみたり、ゲームとかの呪文を適当に試したりしたいところだが、まぁ食事中だし流石にその辺は自重しよう。


「杖は人によって、使いやすいものが違う…。

 楽器なんかでも、重さ大きさや見た目と音、どれでも自分に合うわけではないのと同じ。」

 そんな私の心中を知るわけもないコクウは話を続ける。

 ちなみにこんな私の心中を知っているニコはさっきから温かな目でこちらをみている。


 ニコにも今の私みたいな時期があったのか…。

 十歳になって杖を持てるようになると言っていたし、幻獣たちでも杖を持つのに憧れる時期があるのは想像に難くない。

 まぁ、一般の人間で言うところの早く大人になりたいとか、中高や大学に入りたい的なノリだろうか?


「なるほどね…。」

 しかし、コクウから楽器の例えが出てくるとは思わなかったな…。

 まぁじゃあどんな人なら楽器のイメージがある?って聞かれても、そういう人種と関わりなさ過ぎてわからんけど。


 強いていうなら派遣機構のメンバーじゃなかったら、ミサキちゃんはバンドとかやってそう。

 あと、甘原先輩とか、楽器やってなくても作曲とかできそう。

 完全に勝手なイメージというか、偏見だけども…。


 最近できた交流の輪の中で、読書家は異常に多い割には、音楽に詳しい人が少ないイメージだな。

 現代人ならとりあえず暇さえあればイヤホンとかつけてなんか聞いてるもんじゃないのか?


 …ってこれも偏見だけど。

 いやでも、周りに誰もいない状態で大学に通っていた頃は自分もそうだったので、これに関してはどちらかというと経験則か。


「でも、どの杖と相性がいいとかって、何でわかるの?」

 なんかこう、やっぱり運命的な感じなんだろうか。

 持った瞬間に何かを感じるみたいな…。


「そうね…。幻獣の場合は種族によってある程度、素材とかは相性のいいのがわかるかしらね…。あとは長さと重さとかの微調整…。

 人間の場合は…そもそもあんまり例はないんだけど…、基本的には契約した幻獣と近いものを選ぶ。」


「じゃあ私の場合は、ニコのに近いやつになるの?」

「そうなんですね…。」

 なんだかんだ黙々と食べていたニコがそうつぶやく。

 ニコも知らなかったのか…いや、これは特殊なケースだからむしろ知っている方が珍しい?


「<同化>の能力を持つ幻獣の契約者は、魔法を使えるようになる例が多いから杖を持っていることもあるそうよ。

 でも基本的には<同化>の場合、二人で杖を振るより二人で殴りかかった方が強いし、どっちにせよそれなりに練習も必要だから、持たないペアの方が圧倒的に多いわね。」


「あぁ…あの…チャイナ服と運動着のペアみたいに?」

 私はあの巨大な火の玉を打撃で吹っ飛ばした二人組を思い出しながらいう。

 確か彼女たちは<同化>の能力という説明を受けたが、確かに杖は使っていなかった。


「そうね…まぁあの二人はそれにしても脳筋すぎるけどね…。」

 まぁハクア一人に完封されてたしな…。


「でも、コクウさんは<憑依>ですよね?ハクアさんも…。」

「確かに…コクウはなんでそのことを?…誰かから聞いたのか?」

 ニコの言葉で私も疑問に感じはしたが、考えてみると、サトミさん、ミサキちゃん、ツキヨと、コクウの、というよりはシノブの周囲には<同化>の能力者が多い。

 少数派とは言ってもいないわけではないのだから、そのうちの誰かが杖を使っていたとしても、何ら不思議ではないと言葉の途中で気がついた。


「いいえ。」

 しかし、コクウの答えはノー。

「じゃあ…。」


「シノブが、魔法を使えたからよ。」

「「…。」」

 私とニコは、コクウの言葉に顔を見合わせる。


 「稀なケース」だって話してなかったっけ?

 でも、その話を聞くとシノブがあんなんでも稀代の天才だと言われる理由がわかる。

 つまりシノブは、特に何かの例えとかではなく本当に「生まれながらの」才能の持ち主だったということか…。


「ただ、魔道具や魔法陣の補助もなく、ただの人間が魔法を使うのは特殊。

 それができる血筋の人間は、幻獣や魔法と関わるものの中でさえ敬遠される…。」

「どういうこと?…結果的に魔法を扱うのは一緒なのに?」


 魔法と関わりがある人と全くない人で軋轢が生まれるのはわかる。

 みている世界が違いすぎるから…。

 それは私自身が感じてきたことでもある。


 でもそれは、生まれながら魔法と隣り合わせで生きてきた人同士では、関係のない話だと思っていたんだけどな…。

〜次回予告〜

カナコ:「何だかまた面倒な話に…というか、面倒な話の時だいたいシノブの名前が上がるのはなんで…。」

コクウ:「そうね。面倒ごとに巻き込まれることもあったし、特務隊の時は、踏み込むしかない時もあったし…。」

カナコ:「要は不器用なだけで根はお人よし主人公系ってこと!?」

コクウ:「何で怒ってるの…。まぁ確かに、わかりにくいだけでお人よしかもしれないけど…。」

カナコ:「まぁでもあそこまで不器用というかコミュ障というかだと、流石に主人公って感じじゃないな。うん、安心安心。」

コクウ:「それブーメラン刺さってない…?」

カナコ:「それにしても、どんだけ設定を詰め込まれれば気が済むんだあのシノブとかいう男は…。」

コクウ:「それもブーメランだったりしない?…とはいえ次回は『第四十五話:異種婚類譚っていいますけども。』をお送りする。」

カナコ:「お楽しみに。」

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