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第四十三話:杖と魔法とちょっとだけ過去話。(前編)

 とはいうものの結局、自分のサガには抗えず…。

 夕飯が「美味しく出来上がりました」した時には、私の課題はまだ終わっていなかった。


 数百文字だとせいぜい十数文くらいなのだが、それが書けない…。

 状況がどうこうっていうのもあるけど、単純に、書くのが久々で勘が鈍っているだけなような気もしてきた。

 いや、それにしたって、時々台所から聞こえてくる料理では本来、発生しないであろう破裂音などが度々聞こえるのは流石にね?


 そのわりに、出てきた料理は普通に野菜炒めだった。

 まぁ野菜炒めの材料しか買っていないので当然といえばそうだが…。


 野菜炒めとご飯が盛られた皿と、今朝の残りらしい味噌汁が入った茶碗。

 私とニコの分は今朝と同じ。

 コクウの皿だけは見覚えのない焼き物だが、おそらく先ほど部屋に戻った時に持ってきたのだろう。


 私はノートパソコンを閉じて席を立ち、いつもの定位置に戻ろうとしたが、その時に気がついた。

「そういえば、椅子が足りないよね?」


「「確かに?」」

 ニコとコクウの言葉がハモった。

 何というか、コクウって抜けてるところが時々あるよな…。


「じゃあ私は後でいいわ。」

「いえいえ、私が。コクウさんは今も任務でいらしてるわけですし…。」

「いや、私が後で食べるよ。課題も終わってないし…。」


 …。

 暫しの沈黙。


 これが譲りあいで逆に修羅場になるってやつか…。

 でも主人公の取り合いとかならまだしも、ただの椅子の取り合いでこんなことをしているのは馬鹿らしすぎる。

 というか、今更だけど、どう考えてもこのアパートも、私の部屋の家具も、多人数が共同生活するようにはできていない。


「じゃあ、私は杖の説明するから、先に食べて。」

 というコクウの言葉で、その場は丸く治った。

 このまま行っても馬鹿馬鹿しく時間が過ぎていくだけだし、食べながら喋るのも行儀がいいとはいえないのは事実だ。


 別にそこは食べ終わってから話せば良くない?とも思うのだが、椅子がない以上は仕方ない。

 流石に文明で育った私たちの中で、ちゃぶ台も座布団もないただの板の間で普通に皿に盛られたご飯を食べられる勇気を持った人はいなかった。

 というか、それを言い出す人がいても、他の二人の良心が結局それを許さなかっただろう。


 というわけで、私とニコがいつもの定位置の席についてご飯を食べ始める。

 コクウはニコ側の壁に寄りかかって、私と向かい合う形で立っている。

 何というか、改めて非常に申し訳ない。


「で、杖の話が聞きたいのよね?」

「まぁ、そうだね?」

 私は一口目をきちんと飲み込んでからそう答えた。

 行儀がどうとか言ってたけど、私たち食べながら真面目な話しがちな気がするな。

 何なら今朝もそうだったし…。


 というか、野菜炒め一つでこんなに味が違うもの?

 なんか、私たちが必死で作ったものとは雲泥の差なんだけど?

 とりあえず炭の味が全くしないだけですごい感動した。


 なんか隠し味的なサムシング的なサムシングの波動も感じるし…。

 舌がバカな私には、それが何なのかはわからないけど、またニコと二人で料理する時にでも聞けばいいさ…。


「料理が上手ですね。」

 びっくりし過ぎて敬語になっちゃったよ?


「まぁ、紆余曲折あったけどね…。」

「うぅ。すみません…。」

 ニコがうなだれる。


 いつの間にかポニーテールになっているニコの、ユニコーンの耳も一緒にうなだれている。

 控えめに言って可愛い。

 というか、今更だけど、銀髪ポニーテールって正義じゃね?


「何の話ですかもう…。」

「まぁでも、私と一緒で慌ててたのもあると思うから、慣れればああいうのは無くなるんじゃない?」


 ああいうのってどういうのだろうか?

 どうせドジっ子属性的なこういうのなんだろうな。

 そういうのいいよね。わかる。


 実際に見られなかったのは残念だが、まぁ想像で補ってあまりあるな。


「…。」

「杖の説明って、改めてするほどのことでもないんだけどね…。」

 ニコはもはや絶句しているが、コクウはそんな私たちを無視して続ける。


 コクウがどこからともなくすっと取り出したそれは、これまでも何度か見たことがある。

 とは言ってもまじまじ見たのはきょうが初めてだが…。

 というか…。


「色が違う?」

 これまでは基本的に緊急時にチラッとしか見ていなかったので気が付かなかったが、その杖は明らかにニコやツムギちゃん、それにハクアが持っていたものよりも色が濃かった。

 いうならば焦茶色である。


「木の種類とか、塗装の問題ね…。まぁ今だと、木製じゃない杖もあるみたいだけど…。」

「はぁ…。」

 それはつまり、プラスチックとか、金属とか?


 全くイメージできない。

 やっぱり魔法の杖は木製一択じゃないのか…。

 ロマン的にも。

〜次回予告〜

ニコ:「ロマンって…。」

カナコ:「だってそうじゃない?やっぱり魔法の杖って言ったらこう何というか…木製じゃない?」

ニコ:「まぁ確かに、歴史上その時代が最も長いですけど…。」

カナコ:「でも、杖って前に言ってた魔道具とは違うの?」

ニコ:「そうですね…広い意味では?でも派遣機構が回収する魔道具はそれ自体が魔法を使う能力を持っているもので、魔法の杖はあくまで魔法を使いやすくする媒体なので…。」

カナコ:「なるほどね…じゃあ杖を持っただけで魔導士になれたりはしないのね…。」

ニコ:「そうですね、特に人間の種族で杖で魔法を使えるのは特殊な例ですね。」

カナコ:「世知辛い…けどまぁこれに関しては、私は選ばれた側だからいいか。」

ニコ:「薄情ですね突然!?」

カナコ:「とか言っといて使えなかったらやだなぁ…ということで次回は『第四十四話:杖と魔法とちょっとだけ過去話。(後編)』をお送りします。」

ニコ:「お楽しみに!」

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