第三十九話:宿題は助け合いでしょ!(後編)
「私は、自分の身を自分で守れるようになりたい…かな。」
これは、私のためであるが、同時に身の回りのすべての人たちのためにもなる。
なぜなら、私の周りでこれができないのは私だけだからだ。
昨日のようにシノブたちと六人で行動しているとして、問題は私に身を守る術がないため、それを守るのに人手が余分に必要なことだ。
弱くて自衛力もないものは淘汰されるのみというのは自然の掟だ。
そしてそれを守るのは理に反する。
野生動物の動画なんかでも、群れの弱ったものを見捨てるのは当然だ。
それをしないのが人間や幻獣の社会性なのかもしれないけど、それにしたって、守られている側が努力しない理由にはならない。
もっと簡単にいえば「もう守られているばかりは嫌だ」ということだ。
無意識にやったらしい昨日の何かを仮に意識的にできるならそれはそれでいいのかもしれない。
でももし私が、魔法少女たちの常備技らしいあの白い盾だけでも出せれば、昨日の結果も違ったに違いないのだ。
この場合重要なのは、何かすごいことができるようになるとかではなく、基本的でもなんでも身を守る術を手に入れることのはずだ。
これが私の宿題への答え。
悩んでいた割にはすっきり答えが出たのは、ニコの言葉のおかげなのか、ハクアたちの助言のおかげなのか…。
というよりは、答えはすでに私の中で出ていた、それだけの話か。
堂々巡りして、結局ここに戻ってきたというだけだった。
「それは、あの能力を使わずに?」
「使わなくても。」
「武器も?」
「…多分そう。」
正直武器も能力も私がやったことながら、朧げにしか私の記憶にないので、どうしても返答が曖昧になる。
だが、シノブは納得したように頷く。
まぁそうだよな、という感じ。
私もそう思う。
これ以上無難な回答はない、多分。
トキノ教授に出したレポートと同じだ。
「重要なのは基礎ってことね。」
「うっ。先生にもよく言われました…。」
コクウがまとめると、ニコは苦い記憶を思い出したように呻く。
ツムギちゃんも苦い顔をしているので、「学校」に通ったかどうかは関係なく魔法を教える人は誰でも口酸っぱくいう言葉なのだろう。
まぁ、魔法に限らずどんなことでも言われることな気はするが…。
「まぁどちらにせよ、全くゼロからだと難しいことはできないからな。
魔法は論理的にも理解できるが、イメージさえ掴めれば理屈で理解していなくても使えるものがほとんどだ。
…例外はあるし、物によってはそれが危険につながるが、そういうことは今のところ教えるつもりはないし…。」
「つまり、基本が大事ってことだよね?」
「まぁ、そうだな。」
シノブも大概考えすぎなところあるよな…。
というか、そもそも割と話が長いがちな派遣機構の人たちの中でも、チサトとシノブは特に話が長い。
仲が悪いっていうのも、案外同族嫌悪というか、似た物同士なだけなのではって気がするけどな…。
そうこう言っている間に、私たちはアパートに到着する。
話しながらなのでかなりゆっくり歩いてきたと思うが、それでもやっぱりすぐに着いてしまう。
とりあえず、この話をするためにも、マナとツキヨが越してきたのが私の部屋の隣じゃなくて本当に良かったと思う。
まさかここまできて実は隣でしたというドッキリみたいな展開はない…よな?
「でも、この宿題ってどういう…意味があったの?」
アパートの階段を登りながら、少し声のトーンを落として尋ねる。
不必要にうるさくして、また怒鳴られるのは嫌だからな…。
「簡単にいえば、イメージトレーニング、かな?」
「イメージトレーニング?」
「魔法は、他の術よりも想像力が重要だ。」
「そして、想像するためには、まず状況を整理すること。」
「誰が何のために、何をするのかってことね。」
「だからこれから自分が何をするか考えさせたのです?」
三人の言葉に、ツムギちゃんが感心したようにいう。
流石に三人でミサキちゃん…以外は知らないが…を教えていただけあって、三人の言葉には澱みがない。
素直に教え慣れてるっていう感じがする。
シノブたちに教わったミサキちゃんの彼らに対する好感度があれだけ高いわけだから、無能ではないのはわかっていたが。
案外本当に信用できるのかも…?護衛としてはちょっと頼りないところあるけどね?
でも確か、私たちに「教えることになる」ことまで込み込みで、派遣機構はシノブをこの任務に選んだのだから…。
彼らが指導者として有能である可能性は確かにある。
だとしても、話長いのは勘弁してほしいけど…。
〜次回予告〜
シノブ:「ひどい言われようなんだけど…。」
ニコ:「カナコは心の中では誰に対しても割と厳しですからね。でも、一番厳しいのは自分に対してだと思いますよ?」
シノブ:「いや、そうなのかもしれないけど…。でも、誤解されないようにって思ったら、自然と話って長くならないか?」
ニコ:「そうですね…言葉だけで伝えるとなるとそうなのかもしれません。」
シノブ:「というと、ユニコーン族は感情をそのまま伝えられる?」
ニコ:「いえ、少なくとも他種族相手では無理ですね…。そういうことではなくて、もっとこうフィーリングで?」
シノブ:「まぁ言いたいことはわかるんだけどな…。ということで次回は『第四十話:魔法の杖で全て解決!?』をお送りします。」
ニコ:「お楽しみに!」
幕




