第三十八話:宿題は助け合いでしょ!(前編)
そうこうしているうちに明音稲荷の鳥居の前までやってくる。
駅前を過ぎると住宅地を歩く距離は意外と短いので、仕方がない。
「じゃあまた明日!」
「これかよろしくね。」
「うーむ。暇な家に戻るのか…。」
キララは納得いっていなさそうだが、とりあえずツキヨたちと手を振って別れる。
まさか、昨日別れたばかりなのに、こんなにも早く再開するとは思わなかった。
それも、こんなにも身近な形で…。
授業で習った内容をアニメとか日常生活で見つけた時の感動に近いものを感じる。
でもこういう感動って、案外わかってもらえないもんだよねぇ。
まぁ私の場合はそもそもそれを分かち合える仲間もこれまでいなかったわけだけど…。
「じゃあ。」
「また。」
…とみんなで別れを告げる。
これまで別れ際に感じたなんとなく寂しい感じも、もはやなくなってきている。
他人との行動が多くなくなってきているので、一時的な「別れ」というのも多くなる。
これは慣れというやつなのだろうか。
どちらにせよ、一人だった時には感じることがなかった感覚だ。
「じゃあいきましょうか?」
「足りないものとかないか?」
「ないですかね?」
「え?あーうん。」
明音稲荷の鳥居を眺めながらぼんやりしていた私は、ニコの言葉で現実に引き戻される。
普段から一ヶ月に数回の物資注文だけで生きてきたので、毎日買い物に行く感覚がよくわからない。
結局一昨日数日分と思って買ったのも、一回しか料理してないしな…。
朝はまだあの栄養補給バーがあるし、なんならカップ麺もあるし…。
「あんたはほんと、生活感ないわよねぇ。」
ハクアには言われたくないけどね。
「いや、ハクアには言われたくないけどね?」
おっとつい本音が…。
「言ったわね?」
「まぁまぁ。」
とはいえ、少しずつ歩き出す。
ここまできてしまえば、あとは家までほんの少しである。
「それで?何か答えは出たの、二人とも?」
ハクアに尋ねられて、一瞬立ち止まりそうになる。
言わずもがな、それはシノブが出した宿題のことだ。
色々無駄なことを考えたり、横から難しいこと言われたり、全く関係ない情報が飛び込んできたりで元々の問いがぼんやりし始めているので、改めて思い出す。
そう、初めの問いは「魔法で何ができるようになりたいか」だったよな。
「えぇっと…?」
私もそうだが、ニコも困っているのだろうか?
まぁこういうパターンってどう考えても一日で結論出すもんじゃないもんなぁ。
というか、具体的な答えを出すのには問いが抽象的だし。
だからと言ってこういうので抽象的な答えを出してお茶を濁すのもなんか違うし…。
ハクアは大事なのは「誰のために」だと言った。
ツキヨには「考えすぎだ」と言われた。
時間をかけて考えていいことがあるということも今日知った。
けれど今回は状況的にもそんなに答えを出すのに手間取っている場合でないのはわかる。
…というか、はじめにシノブも言ってたけど、これってそんなに考えることじゃないんだろうな…。
言うなれば子供に将来の夢を聞くようなものだ。
別に変身ヒーローでも何かのお店を開くでも動画配信者でもいいわけだ。
まぁ私は子供の頃から何かになりたいってものがない夢のない幼少期を過ごしてきましたけどね?
「私は、私一人でもカナコを守れるようになりたいです!」
私がごちゃごちゃ考えていると、ニコがちょっと戸惑ったようにしながらもそういった。
彼女が言い淀んだのは、悩んでいたのではなく、照れていただけだったのか…。
そうなると当然、全員の注目が私に向くわけですけども…。
私を見るな!と、心が叫びたがっているのを必死で抑える…。
「私は…。」
〜次回予告〜
カナコ:「なんか珍しく次に引っ張る感じで話が終わってますけども。」
ニコ:「これはまた清々しいまでのメタ発言ですね?」
カナコ:「あーなんかカッコ悪くて嫌になってきたわー。」
ニコ:「え?何がですか?」
カナコ:「だって普通さ、少年漫画の主人公とかだったらこういう時かっこよく自分の夢とかいうんだろうなと思ってね…。」
ニコ:「別にそういうものばかりじゃないんじゃないんですか?わからないですけど…?というか、考えて答えを出すのは大切なことじゃないですか?」
カナコ:「でもニコは答え出てたんでしょ?」
ニコ:「まぁ、この話が出た時、はじめに思ったのが、これだったので…。」
カナコ:「ありがたいような情けないような…というわけで次回は『第三十九話:宿題は助け合いでしょ!(後編)』をお送りします。」
ニコ:「お楽しみに!」
幕




