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第三十三話:いつもと違ういつもと同じ道。(前編)

 マナの旅の話から、いつの間にかその場は怪談話というのかオカルト話というのか、そういうものの応酬となっていた。

 怖い話だけでなく、不思議な話とか、話というレベルにまでは至っていないような噂の又聞きのようなものもあった。


 私は特に強制参加でもないそれをぼんやりと聴きながら、授業で出された方の課題に何を書こうかぼんやりと考えていたが、それもしばらくすると面倒になってやめた。

 週明けまでにオンライン提出なので、なんとでもなるだろうし、正直誰かが話しているところで何かを考えたりするのは得意ではない。


 なんだかんだでずっとパソコンをカタカタしている甘原先輩や、話に混ざりつつも宿題を始めたエレナちゃんはすごいと思う。

 音楽聴きながら別のことするくらいならできるのだが、ラジオを聴きながらだともうダメなので、おそらくしゃべっている言葉というのが私の思考を停止させるのだろう。


 その場がヒートアップしてうるさくなってきたのも、考えるのが面倒になった理由の一つだが…。


「だ、だから、説話や伝承を読むときに、その内容が何を暗に示しているかを考えるのが重要なんですよ!ね、シノブさん!」

「えぇ…まぁ確かに、例え話として説話を読む場合もあるな…。」

「でも、伝えられたものを伝えられたままに受け取る姿勢も重要じゃないですか?ねぇコクウちゃん!」

「まぁ分野によってはそういう考え方もあるわね…。」

「ほら!」


 どうやら伝承を「解釈する」のか「そのまま受け入れる」のか、という言い争いらしい。


 主に話の中心となっているのはユウトとマナで、オカケンのメンツはいつものことなのか、特に反応なし。

 シノブとコクウも完全なとばっちりで、微妙な表情をしている。


 まぁそもそも言い伝えられた怪異そのものを相手どって仕事をしているシノブたちからすれば、そもそもこんな会話自体がちゃんちゃらおかしいというか…。

 というか、マナはある程度こちらの事情を知った上でなおもこの話題で盛り上がれるの逆にすごいな…。


 いやむしろ、「そのまま受け入れる」派閥のマナからすると、伝承からそのまま抜け出してきたような幻獣や魔法の数々が自身の主張の根拠となっているのか…。

 まぁ、仮に派遣機構なりなんなりその方面の組織が世間に露呈すればそれだけでこれまで信じられてきた社会常識の八割型はひっくり返るだろうからな…。


「まぁまぁまぁ。その辺にしておきなよ。これからいくらでも話す時間はあるだろうしさ。

 …今日のところは、この辺でお開きにしようか…。」

「っ!…ま、まぁそうですね。新歓でする話題ではなかったです。す、すみません。」

 円谷先輩の仲裁にも一瞬盾突きそうな勢いのユウトだったが、結局は納得したようで、私たちの方を向いて謝る。


「…まぁそうねぇ。オカルト道初心者にはあんまり面白くない話題だろうし…。」

 なんだそのすごく怪しい道は…そもそも武道でも芸道でもないし…。


「なんなんすかその道は…。」

 私が思っていたのと同じことを甘原先輩がぼそっと口にしたが、誰もその言葉を拾うことはなかった。

 甘原先輩の方も特にそれを気にするふうでもなく、またパソコンに目を落とすだけだ。

 独り言…。まぁ私もあまり他人のこと言えないか…。


「ご、ゴミはゴミ箱にお願いします。後で捨てておきますので…。ペットボトルだけ分けて置いてくだされば…。」

 ユウトが片付けの指示を始めると、みんなが大体その指示通りにゴミをまとめたり荷物を準備したりし始める。

 私も目の前にあったゴミや手渡された紙コップをまとめてゴミ袋を持っているエレナちゃんに渡す。


「きゅ、休校日以外、特に連絡のない限り一応休みはないので、各自予定が会う時には参加してくださいね。

 は、入ってまもなくは、難しいと思いますが、各自で研究のテーマが決まるといいですね。…い、一応オカルト研究会ですし…。」


 それは確かにな…。

 でもそもそもオカルト研究ってなんなんだ…。


「はい、じゃあ解散解散!」

 大体片付けも終わり、ゴミをまとめたものはユウトが持ってみんなで部屋を出る。


 まだ時節は春であり、ここにきたのがそもそも四限終わりから寄り道した後だったこともあり、外は暗くなっている。

 案外あっさり解散するな、と思っていたが、どうやらかなりいい時間になっているようだ。


「じゃ、じゃあ、俺はゴミを出してから帰るので…。」

 ゴミ袋を持ったユウトとペットボトルを抱えたエレナちゃんがそういってサークル棟を出たところで別れを告げた。


 さらに、どうやら甘原先輩だけは家が裏門方面らしく、同じくその場で別れた。

 そうなると、伊藤さんと割と近所なのか…。

 つまりアサヒノモリ方面ということでもあるが…。


 さて、後に残ったのは駅に向かう面々。

 問題はツキヨとキララだが…。

〜次回予告〜

モモカ:「しかし、これだけ新入会員がいれば、このサークルも安泰だな…。」

カナコ:「あはは…そう…ですね?」

モモカ:「今はよくわからないかもしれないけれど、まぁ慣れてくれば楽しいサークルだからさ。って前にもこの話したかな?」

カナコ:「そうですね。この前の帰り道に…。まぁでも、なんとなく居心地がいいのはわかるような気がします…。」

モモカ:「そうだろうそうだろう。まぁこれで私も安心して引退できる…ってまぁまだ一応一年はあるんだけどね…。」

カナコ:「が、がんばります…ということで次回は『第三十四話:いつもと違ういつもと同じ道。(中編)』をお送りします。」

モモカ:「お楽しみにね!」

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