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第三十一話:他人のことを知らない以上に自分のことは知らない?

「うーん、美術に興味があったけど、作るより、理屈を学ぶ方が性に合ってると思ったからかな。」

 ハクアに話したときに少し考えてあったおかげで、思っていたよりはスラスラと言葉が紡がれる。

 受験中にも結構考えたことのはずだったのに、喉元過ぎればなんとやらで、あの時の会話がなければ今の質問だけでかなり困り果てていただろう。


「なるほどねぇ。まぁ漫画の趣味的にも、そんな感じはするよね。」

「…そうですかね?」


 ツキヨには何が見えているのだろうか?

 まぁ確かに、私からしても納得しないでもないのだが。

 あるいは案外、ツキヨと私が似ているのでわかるという話なのかもしれない。

 私サイドからするとツキヨのことはまだ未知数なことの方が多いけれど…。


 でもそれを言い出すと、ここにいる人の誰しもがそうなわけで。

 というか、少なくとも私の人生の中では、相手のことをなんでもわかるような相手には未だかつて出会ったことはない。

 ニコを筆頭に、シノブたちいつもの五人は、期間が短い中でかなり深く関わってきた方だが、それでさえ謎の方が多いのである。


「好きなことが勉強できるのは楽しそうなのですよ…。」

「そうですね…。」

 ツムギちゃんもニコも微妙に語尾が濁る。

 じゃあなんで引きこもってたんだって聞きたいんだろうな。


「あれ、でもカナコちゃんって大学行ってなかったんだよね?」

 でもまさか本当に聞かれるとは思わないよね。


 というか、意外とスッとボケてるね、ツキヨさん?

 まぁ、私にもそういうところあるのは自覚あるので、もしかしたら本当に似ているのかもしれない。


 一瞬場の空気が凍る。

 どうやら私が気づかないうちに、私たちの会話はサークル全体に注目されていたようだ。

 いや、そんなに私の話って珍しい?

 というか、私がいうのもなんだけど、そんなに興味ある?


「えー…。まぁなんというか…なんとなくとしか言いようがないんだけど…。」

「わかる!」

 食い気味に肯定したのはマナだった。

 いっちゃなんだが何がわかったんだろうか?

 マナが「わかった」という時は大体「わかってない」時なイメージなんだけど…。


「やっぱりこう、せっかくの大学生だし、パーっとね!そういう気分の時ってあるよね!」

 やっぱりわかってないな多分。

 というか、初めて会った時にもこの話になって思ったけど、研究旅行とただの引きこもりは流石に一緒ではないだろ…。


「でも、大学行ってると、時々整理する時間みたいなのは欲しくなるよね。私も今、すごい休みたいんだけど…。

 ね?いつも物置に閉じこもってるツカサちゃん?」

「なんで自分に振るんっすか…。まぁ、俺は単純に自分の空間に他人が入ってくるのが嫌なだけで…。」

 と、円谷先輩の接触に困りながらいう。


 まぁ普通に考えて、あの歳で異性にベタつかれて困惑しない奴の方がどうかしてる気もするもんんな。

 円谷先輩サイドはそういう認識以前の問題な感じするけど。


「まぁ私もそれはよくわからんだけどね。私も本と漫画があれば幸せだし…。」

 じゃあなんで聞いたんだよ。

 いや待て、これはいつもの自分にめっちゃブーメランじゃないか?


「私も。」

「俺も。」

「あんたらはほっとくとずっと部屋の中だもんね…。」

 すかさず肯定を挟んだシノブとコクウに呆れ返るハクア。


 というか、別に珍しくもない、とは言いつつそれはすごく広い視野を持った際のことで…。

 つまり、まさかこんな身近でしかもこんなに多くの共感が得られるとは思っていなかったのだが…。


 案外世の中、そんなもんなんだな。

 細かいことは気にしない、そういうこと…で片付けていいのか?…はわからないけれど。

〜次回予告〜

カナコ:「うーん。なんというか、これで大体私の過去は全てだな…。」

ニコ:「流石にそんなことはないのでは…。」

カナコ:「でもほら、それ以前ってやっぱり、特に大きなイベントもなかったし…。」

ニコ:「それは…まぁでも、人生の大きなイベントって、そんなにないですからね…。」

カナコ:「なんなら私の一番の人生の転換点は、ニコとあったことだからね。」

ニコ:「なんだか複雑な気持ちになりますね…というわけで次回は『第三十二話:いつの間にか仲間になっているのかもしれない。』をお送りします。」

カナコ:「お楽しみに!」

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