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第十五話:迷惑をかけること心配をかけること。(後編)

「あ、でも、あたしはいない方がいい話だったでしょうか?」

「それは、角谷さん次第ですね…。」

「それは…どういうことですか?」


 私の方がハクアよりも敬語ができていない現実を受け入れられないまま、私は尋ねる。

 まぁ私の場合は、敬語じゃなくても会話自体がぎこちないから仕方ないよな…。


「え…いえ、そんな深刻な話ではないんですよ?」

 私の様子を別の意味で受け取ったのか、トキノ教授は慌てて訂正する。


 そういえば、私はなんでここに呼び出されたのか結局わかっていなかった。


「これ、本当は最後の授業で返して総評ってことになってたんですが、角谷さんはその…いらっしゃらなかったので…。」

 そう言って教授が取り出したのは、去年度の終わりに私が出したレポートだった。


 タイトルと名前が書かれた簡素な表紙から、それが自分が提出したレポートだと気づくのに、結構時間がかかった。

 かけた時は、授業に出ていないわりには、いい出来だと正直思ったのだが、結構間が空いているのですっかり忘れていた。

 そういわれてみれば、そんなふうだったような…?


「お返しして、よろしければ少しだけお話しできればと…。」

 つまり、必要以上に私が警戒してしまっただけだったということらしい。

 まぁ、魔法関係者でもない以上、その用事は、想像の範囲内なわけだから、当然か…。


 というかむしろ、去年の授業で終わっているはずの課題のフォローを今年になってしてくれるというのは非常にありがたい話である。

 何せ、卒業や修了研究ならまだしも、一年生のレポートである…。


 なんだかまぁ申し訳ない気持ちになってきたな…。

 世の中まかりならないものだ…。


「あ、ありがとうございます。」

 私はとりあえず頭を下げる。

 これは確かにハクアがいるとちょっと羞恥心で死にそうな気持ちになるが、だからと言って、追い払うわけにもいかず。

 結局流れ的にこのまま話を進めてもらうしかないのである。


 私はそもそも目立たない方なので、公開処刑みたいなことにはあまりなったことがなかったのだが。

 これが噂のなんとやらである。


「いえ、角谷さんのレポートはよく書けていたので、教授の間でも評判だったんですよ。

 なので、せっかくですし、お話ししておこうと…。」

「そうなんですか…。」

 こういうとき、どこまでお世辞を踏まえて話すのかは、コミュ障の私にはわからないが…。

 正直そう言われて悪い気はしない。


「はい…。やはりどの学科でも当たり障りのないものが多い中で、角谷さんのレポートは自分の考え方がはっきりしていましたし。

 レポート慣れしていない人が陥りがちな感想文のような文章にもなっていませんでしたし…。

 まぁ、書き慣れていないので、フォーマットなどはもう少し改良した方がいいと思いますが、それは慣れていけばすぐにできますので…。」


 そんな教授の言葉を聞きながら、私は、レポートに何を書いたか思い出そうとしていた。

 よく書けたとは思ったが、正直、誰に書かせてもこう書くだろう、という範疇は出ていないものにしたような気がするのだが…。


「話の筋は皆さん一緒になりがちなんですが、角谷さんは特によく考え、よく書けているという印象でした。特に…。」


 と言って、教授は私のレポートの内容について話始める。

 確かにそんなことを書いたような気がするな、と思いながら私はそれを聞いている。

 ハクアはそんな様子を、何気なく聞いている。


 そんな時間がしばらく続いた。

 当然しばらくそんな時間が続くと、教授の悪い癖が出て、話が脱線し始める。

 なので、途中からは授業を受けているような気持ちになってきた。

 だが、いわゆる座学と違って、ノートを取る必要もなく、内容も興味のある内容なのであまり嫌ではない…。


「すみません、私ばかり話してしまって…。」

「あ、いえ。面白かったです…。」

 どれだけの時間が経ったのか、視界内に時計がないのでわからないが、結構話してもらった気がする。


「すみません、ご迷惑おかけしました。」

 私は、唯一心に引っかかっていたことを口にした。

 ここを逃すといえないで話が終わりそうな気がしたのだが、間が悪すぎて教授には一瞬キョトンとされてしまった。


「いえいえ、大学は、特に学部時代は、かなり自由ですからね。何か得るものがあったのなら、それでいいと思いますよ。

 別の学科だと、自主休学して一年間丸ごと来なかった学生さんもいらっしゃったらしいですし…。」


 なんでだか知っているような話な気がしたが、まぁ聞かなかったことにしよう。

 …やっぱりマナも目をつけられてるんだな…ってそれは私もか?

 聞かなかったことにするんじゃなかったのかよ、と、ニコがいないので自分でつっこむ。

 …虚しい。


「そういう意味も含めて、別に迷惑ってことはないですよ。

 心配ではありましたが…でもまたこうして来れるようになってくれたので、安心しました。」

「あ、ありがとうございます…すみません…。」


「大学は研究機関ですからね。研究のペースは人それぞれです。

 もちろん、公的機関なのでルールも大事ですが、ルールに縛られない研究で後世に残る結果を残した人もいます。

 重要なのは、何を残したかだと思いますし、その意味で、今回の角谷さんのレポートは時間をかけた分の成果は出ていると感じたので、評価しました。」

「ありがとうございます…。」


 なんといえばいいのか。

 胸のつっかえが取れたような、というのは言い過ぎだが。

 …というのは、引きこもりとは別の問題がすでに複数発生しているからなのだが…。

 とはいえ、彼女の言葉で、過去の自分がなんとなく救われたような気がした。

〜次回予告〜

ハクア:「唐突のいい話でついていけないんだけど…。」

カナコ:「でも、最近特に色々ありすぎてるから、これくらいのインターバルは欲しいよね、正直…。」

ハクア:「まぁ、あんたの問題はあんた自身にしか解決できないからね…。」

カナコ:「ハクアらしいセルフだね…。」

ハクア:「誰に言わせても結局はそうだと思うんだけどね…。」

カナコ:「というわけで、次回は『第十六話:そんな雰囲気をぶっ壊す!』をお送りします。」

ハクア:「お楽しみに。」

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