第十一話:不摂生に天誅を掃除には準備を!
「いや、これくらいは…覚悟はしていました。」
いやいや、明らかに覚悟ができてる人の反応ではなかったが。
「いやいやいや、こんな程度で人を嫌いになったりはしないですよ?」
なんだこの会話は。
いや、相変わらず私は言葉を発していないので正確には会話ではないが。
なんなんだこのハイテンションは。
もしかしたら、他人を初めて自分の家に招いたので、テンションが上がってしまっているのかもしれない。
ニコにしても、他人の家に招かれたことでテンションが上がっていたりするのだろうか?
それはないか。ゴミのせいか。流石に。
流石に?
にしても、これで私を嫌いにならない人は、相当な聖人だろう。
ニコはその相当な聖人ということか。
性格がいいとは思っていたが、予想以上である。
「そんなことは…ないと思いますよ?重要なのは、外面ではなく、中身だと思いますし…。」
なんだその聖人発言は…。尊すぎる、本来の意味で。
しかしユニコーン族が心を読める故の深い発言でもある。
「まぁ確かに、純真な人を直感的に見分けられるのは、ユニコーン族の特徴かもしれませんね…。」
ニコがなんともいえない顔でいう。
なんともいえないのは、何か事情があるからか。
それともこの部屋に充満する異常な臭いのせいか。
正直、引きこもっていた時期は鼻がなれていたので何も感じなかった。
しかし、久々にほとんど丸一日外に出て、肺の空気が一新されている現在では、この場所の空気がどれだけ澱んでいるかがわかる。
そうだ。成り行きとはいえ、これからはニコとともに生活していくのである。
生活する環境は、彼女のためにも整えねばならない。
むしろ自分だけならどうでもいいが、ニコにこんな薄暗い地上の地獄のような環境で生活させられない。
「じ、自分のことも気にしてくださいね…?」
とは言ったものの、どこから手をつけていいか分からない。
「この地域は、ゴミの分別って、どういう感じなんですか?」
「厳しくはないかな…。」
確か、燃えるゴミの範囲が広く、割となんでも燃えるゴミで捨てられるな、と思った記憶がある。
もちろん環境のためにはより細かく分別すべきなわけだが。
現状それが明らかに難しい。
「うぅん…それだったら確かにこのまま全て明日に…でもゴミはちゃんと分別しないと…。」
それでもなお、聖人ニコはどうやらゴミを分別せずに捨てることに抵抗があるらしい。
だが、このゴミの山を分別し直すということは、ダークマターに手を突っ込むことを意味する。
虫が沸いているかもしれなければ、かびているかもしれないし、その他、想像だにしていない異常事態が発生していることもないとはいえない。
「うぅでも…やるしかありません!これが共同生活の第一歩です!」
いつの間にか声のトーンも口調も元に戻ったニコが宣言する。
だがそれは当然私もこの闇に身を投げることを意味していた…。
自業自得、因果応報。
天誅とはまさにこのことである。
「まずは、ゴミ袋をなるべく一箇所にまとめましょう!」
ニコが素手で先ほど踏ん付けた袋を掴もうとしつついうのを、私が止めた。
「まった!」
「え?」
出鼻をくじかれたニコの手が空を切り、体勢を崩す。
あわあわと倒れそうになるニコは可愛いが、ここで倒れるとおそらく袋に生身でダイブして致命傷を負うので、気をつけてほしい。
自分で生み出しておいてなんだが、このダークマターを整理していくのに当たって、生身ではおそらく危険すぎる。
相応の準備が必要だ。
「じゅ、準備ですか…?」
だからまず私たちがすべきは、買い出しである。
「買い出し、ですか?軍手とか?」
「そう。他にも色々…。」
「確かに…そうかも知れませんね。」
ニコが先ほどまで掴みかけていたゴミを見下ろしながら、目元をひくつかせる。
その物体のヤバさに改めて気がついたのだろう。
改めてごめんなさい。
〜次回予告〜
ニコ:「この二人での会話もだいぶ慣れてきましたね。」
カナコ:「会話というか、私は喋ってないんだけどね?」
ニコ:「あ、うぅ…。」
カナコ:「まぁ別に、喋るのが苦手なのでありがたいんですが。」
ニコ:「そう言ってくれると助かりますが…。」
カナコ:「でも、魔法少女の契約って、どうやって決まるの?共同生活とか、結構大変だよね?ミサキちゃんと子もチサトさんとこも異性同士だったりするし?」
ニコ:「え?あぁ…うぅそうですね…短く話すのは難しい話というか、なんと言いますか。契約の種類によっても違いますし…?」
カナコ:「次回はそんな契約の時のなんだかんだの話。」
ニコ:「掃除の準備からなぜそんな話に!?」
カナコ:「次回、第十二話:『始まる時点からすでに契約は始まっていたんじゃよ!』をお送りします。」
ニコ:「お楽しみに!」
幕




