第十一話:見た目は似ていても別人だから関係ないよね!
今回の授業は必修ということもあってか、初めからほとんど余談なく内容に入った。
時代は古代から、というか猿人とかそういう話から。
中学でも高校でも習っている部分だが、美術に関する内容が取り上げられるので、かなり内容が違う。
炎の扱い、道具や言葉の扱い、そして芸術の誕生。
…まぁ正確にはそれが「芸術だ」と思って彼らがそれを創作したかはわからないわけだが、と教授が補足する。
技術の誕生と発展、というおおまかなテーマでいうと期せずして私が今考えていたことと一致する内容だった。
時代も場所も大きく違う彼らも、同じようなことを考えていたのだろうか…。
いや、多分シノブが聞いていたのはもっとこう、心構え的なもので、そんな壮大な話じゃないのはわかっているのだが。
流石に、ハクアがいう通り、考えすぎな感じがするな…。
授業のノートを取る傍らでそんなことを考えていると、案外時間は早く進む。
昨日の今日で心配だったが、なんとか授業中は何事もなく終わる。
相変わらずハクアは授業中ずっと机に突っ伏して寝ていたが、それはつまり安全ということなのだろうと良い方に解釈することにした。
終業のチャイムが鳴る。
どうやら授業毎の小レポートとテストの総合評価らしい。
今年度初めての宿題か…シノブのやつの方が先だったけどな…。
結論としては、得てして宿題とはめんどくさいということだ。
長い自主休校と春休みのせいですっかり忘れていた…。
思い返すと、伊藤さんにもマナにもその他知り合いの方々にも会わないのはむしろ久々な気がする。
違う学科なので当然と言えばそうなのだが、なんというか残念な気持ちの私もいる。
というか伊藤さんは八重さんもいるのであれだが、マナは無事なんだろうか?
誰からも何も言われていないということは無事だと信じたい。
「行かないわけ?」
「あぁ、隣の教室にね…。」
南棟二階は私の学科のスペース。
故に、移動教室も最小で済む。
そして次の授業は「美術史学」で、まさに私の専門なわけだが…。
私はおそるおそる教室を覗くが、まだ生徒もまばらで教授もいない。
「あんた、なんでそんな挙動不審なのよ?」
「いやーなんというか、ね?」
とりあえず一安心で、私が一番後ろの窓際の一番目立たない席に向かおうとした時。
「あ…。」
か細い声で背中から声をかけられた。
おそらく、その声の主を知らない人であれば、それが幽霊か何かではないかと背筋が凍るレベルだ。
まぁ今の私も別の意味で背筋が凍っているのだが。
「角谷さん…きて…くれたんですね?」
「…はい、すみません。」
無意識にどんな言葉よりも先に謝罪の言葉が口をついて出る。
振り返るとそこには、若い女性の教授が立っている。
癖毛で黒髪の長髪、背もそんなに高くなくて、コクウと少し雰囲気が似ている。
「心配…していたんですが、よかったです。」
カラノミヤでは、一年次からすでにちょっとしたゼミ体験みたいなものがある。
通常授業の一環としてだが、何人かの教授の中から一人を選択し、その教授の専門に沿って軽い研究をする、というものだ。
そして私は、その授業を半年ほど欠席していたわけで…。
「はい、すみません。」
一応、ゼミそのものではなく通常授業の一環なので、最終レポートが評価基準だったのが幸いしてなんとか単位はもらえたのだが。
まぁ、正直、この授業だけは、出席しないと意味はまるでないと言っていい。
何せ教授とのコミュニケーションの中で研究を進めていく練習としての授業だからだ。
「きてくれたのならいいんです。本当によかったです。」
どうやら、怒るとかそういう次元じゃなく心配されていたようだ。
まぁ他の教授とはほとんど話したこともないが、このひと…トキノ教授とだけは、前期の授業でそれなりに喋ったからだろう。
「あぁ。授業が始まりますので、席にどうぞ…。」
教授が私とハクアを教室の中に導く。
教授の方はそのまま教壇で授業の準備を始める。
改めて席に向かう私を見てハクアが眉を顰める。
だが、特に何かをいうわけでもないまま、私たちは授業が始まるのを待った。
〜次回予告〜
カナコ:「授業の内容が、考えてることと一緒だったりってあるよね…それを共有できたことは一度もないんだけどさ。」
リエ:「角谷さんは、面白い着眼点を持ってますからね…。」
カナコ:「…教授!?」
リエ:「はい、土岐野リエです。苗字は『トキノ』と読みます。以後よろしくお願いします…。」
カナコ:「よろしくお願いします。…こういう時何を話していいのかわからないんですが…。」
リエ:「お気遣いなく…どうせ私は今後出番はそうそうないと思うので…。」
カナコ:「うーん否定できないのがまた悲しい。…とはいえ次回は『第十二話:専攻だからって得意とは限らないでしょう!』をお送りします。」
リエ:「確かにそうかもしれませんね…。」
カナコ:「いや、サブタイトルに普通に共感せんでくださいよ…。」
幕




