第六話:安全じゃなくても幸福な日々を。
「つまり、何してても危険なのは変わらないなら、普通の生活をしようってこと?」
「まぁ、そうだな…。」
私の言葉に、シノブは素直に頷く。
そう素直に頷かれてもね?
だが考えてみると、私の方が危険性を正確に把握していなかっただけで、言っていることはこれまでと変わらないのかもしれない。
向こうは初めから本気でこちらを狙いにくることもできたのだ…。
いや、こういう時、アニメとかでも思うけど、なんで初めから本気出さないん?
…とは言え。
「まぁ、そうね。そーね…。」
シノブが言っていることもわかる。
もはや、怖がっていては何もできない状態であるのはわかっている。
そしてこの状況で何が正しい選択かも…。
「わかったよ…。」
私の言葉に、全員が納得したようだった。
あるいは安堵したのかもしれない。
思えば初めから日常生活を続けることが、派遣機構の決定路線だったような気がする。
ヨドミノヌシにも大学に行きましょうと言われたわけだし…。
まぁそのヨドミノヌシも何を考えているのかわからないところはあるが。
ツキヨにも魔法の指導を受けるというのをだいぶ止められた。
派遣機構の人々は一般の人々に魔法を使えるようになって欲しくないのか。
まぁ、彼らには彼らの決まり事があるのだから、入ってきて欲しくないのかもしれない。
それに、こちらがそれによって苦労するというのがわかっているというのもあるのだろう。
どちらにせよ彼らは私になるべく普通の人間であって欲しいのか?
だがそれにしては、私が魔法の指導を受けることもまた派遣機構の決定事項のようだったが…?
様々な人の意思や思惑が絡まり合った結果こういう複雑なことになっているのか。
なんにせよ、やはり、なんで私なんだとは思うが。
まぁ、それをいうのも今更な感じがするな…。
「そういえば、魔法の練習?みたいな話もあったけど…。」
それこそまさに自衛のためにという話だったわけだが。
「あぁ、それなら今日は休みだ。」
「え!?」
私は驚きを声に出してしまう。
なんか昨日から驚いてばっかりな気がするな…。
オーバーリアクションでかわいこぶってるみたいで嫌だな…。
「そんなこと誰も思いませんって…。」
ニコがフォローを入れてくれる。
大学に行ってばかりだと忘れがちだけど、やっぱりこれだよね。
「まだ三回しか行ってないですよね…。」
むしろまだそれしか言ってないのかと思うと気が遠くなる思いだが…?
「…。」
ニコが返す言葉もないというふうに困ったような顔をする。
「おーい。二人の世界に入ってるところ悪いんだが…。」
シノブが申し訳なさそうにして、私たちの話を遮る。
あー私の唯一の人生の癒しが…。
「そんなにですか…?」
これまでは漫画読んだりアニメ見たりだったのが、最近はまるっきりできていないので、仕方がない。
「あぁ…いいかな?」
「はいどうぞ。」
シノブが苦笑しながら話ずらそうにしているのをこれ以上無視し続けるのも居た堪れないので、流石に話を聞いてあげることにしよう。
「確かに自衛のための魔法を覚えるのはかなり急を要する課題だろう。
向こうを足止めできると言ってもいつまで保つかわからないしな…。」
「だったら…。」
「でも、今すぐには危険。」
「どれだけ優秀で勤勉な術師でも、ぶっ倒れた次の日くらいは休むと思わない?」
「それは…確かに?」
コクウ、ハクアに言われて初めて、そう言えばついさっきまで私は倒れてベッドで寝ていたのだと思い出した。
これまで二十年弱生きてきて、人が倒れる瞬間なんて一度も見たことがなかったが、ここ数日での遭遇回数は異様だ。
しかも、最後には自分まで…。
「だから今日は休んでほしい。」
「そうですね。私もその方がいいと思います。」
シノブの言葉にニコも同意する。
どちらかというと私はニコの方にゆっくり休んでほしいが…。
「それはニコちゃんもなのですよ!」
「え…?」
ツムギちゃんが私の心の声を代弁してくれたのだった。
まぁ確かに、もう一週間、毎日なんだかんだと大変だったしな。
仮にゆっくり休めるのだとしたら、それもいいのかもしれないと思うのだった。
〜次回予告〜
ニコ:「カナコは自分のことを大切にしなすぎですよぅ。」
ツムギ:「まぁでも、それはニコちゃんもじゃないのですよ?」
ニコ:「え!?そうでしょうか…。」
ツムギ:「カナコが襲われた時も、確かにニコちゃんが守らなくちゃ、かなこさんが危なかったのですよ。でも、ニコちゃんが傷つかなくても…?」
ニコ:「いや、あの時は咄嗟にそれしかもいつかなくて…。」
ツムギ:「次からは、二人とも避けるようにしてほしいのですよ。」
ニコ:「そんな無茶なぁ!」
ツムギ:「うぅ…もうあんな惨状は見たくないのですよ…。」
ニコ:「うっ。まぁでも心配してくれてありがとうございます。というわけで次回は『第七話:考えてみてっていうのは宿題なのか?(前編)』をお送りします。」
ツムギ:「乞うご期待なのですよ!」
幕




