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第三話:まだ昼だってのに起きないとならんとは?

 目が覚めると、太陽がかなり高く登っているのが、カーテン越しにも分かった。


 豆電球も消えていて、完全な自然光。

 電気代が勿体ないと誰かが消してくれたのかもしれない。


 そう思って、顔だけ動かして前に目が覚めた時にハクアが座っていた辺りを見ると、今度はそこにハクアが座っていた。

 彼女は私が目覚めたのをチラッと見ると、読んでいたちょっと引くくらい分厚い本をバタンと閉じた。


「おはよう。ちょうどいいくらいの時間かしらね。」

 コクウがそう挨拶しながら立ち上がる。


「今何時?」

 私も上体を起こし、体の重さがだいぶ取れていることに感動しつつ尋ねる。

 疲れていたからなのかなんなのか、夢は見なかった。


「十一時くらいかしらね。」

 それだけいうと、コクウはリビングの方へ姿を消した。


 改めて状況を把握するために辺りを見渡すと、一時はシノブたちにケセパサまで放たれていた私の部屋には、私とニコだけになっていた。

 ニコもまた善意の何者かによって床に敷いたままになている布団に移動されており、ゆっくり眠っている。


 正確には布団もどきなのだが…。というかベッド届くのまだかよ。

 変に休日をしてしまったせいで、こっちはその数日間で人生変わっちゃってるんだけども?

 まぁ過ぎたことにとやかく言っても仕方ないか…。


 起こすのも申し訳ない、でももう昼近いしな、学校もあるしな…。

 という感じで脳内が反復横跳びしている。

 なんというか、まだ眠い。


 体の不快な感じはだいぶなくなっていたが、それでも正直全然学校行きたくない感じだ。

 昨日の夜のハクアとの会話は夢で、今日一日ぐらい休ませてくれよと思う。

 それに正直、昨日の今日で学校に行けるほどメンタルも強くない。


 危険を感じる、というのもある。

 切り替えられない、というのもある。


 ぼんやりしていると、開いた扉から何やらかちゃかちゃと物音。

 そして、人生でほとんど感じたことがない「美味しそうな匂い」というやつが漂ってくる。

 もういえばコクウがキッチンに向かったのかもしれない。


 これは新妻チャンスかもしれない。

 説明しよう新妻チャンスとは(以下略)…。


「なんですかぁ…その…おかしな…。」

 声の方を見ると、ニコが眠そうにグラングランと揺れながらも上体を起こしていた。

 振り子のように、見ていたらこっちの方が眠くなりかねないレベルの規則的で大きな揺れである。


「とに、かく…お元気、そうで…何よりです…よぅ。」

 と言ってばたっと倒れそうな感じだが、起き上がり小法師のように、なんだか倒れない。

 いや、昨日のダメージもあるだろうし、倒れないで欲しいんですけどね?


「だーい丈夫ですよぅ…。」

 だいぶ大丈夫ではなさそうなのだが…。

 一方で、ニコの方も命に別状はなさそうで安心する。

 てっきり本当に…。


 いや、それこそ過ぎたことを気に病んでも仕方ないか…。

 過ぎたるは及ばざるが如しである。いや違うな。


 だが、ニコの胸元には、切り傷の痕がちらりと見える。

 それだけは夢であって欲しかったんだが…。


「あぁ、これですか…。まぁでも見た目よりも深くないので…。

 そんなに悲しそうな顔をしないで…ください。」


 先ほどまでより少しはっきりした調子で、ニコがいう。

 自分がどんな顔をしているかわからないわけだが、そうか私は今悲しい顔をしていたのか、と思う。


 派遣機構のみんなが、時折見せる真剣な表情を思い出す。

 個性さえも吹っ飛んでしまったかのような、切実な様子。

 シノブの「自分のせいだ」という言葉の意味が、私にも少し分かった気がした。

〜次回予告〜

カナコ:「なんだかなぁ…、これまでみたいにこれからも、のらりくらりやっていけると思ってたんだけどなぁ。」

コクウ:「生きている以上は、変化はどうしてもあるわ。」

カナコ:「まぁそうなんだけど、周りが傷ついたり、もっと酷い目にあったりっていうのを、変化の一言では割り切れないじゃん?」

コクウ:「ここはそういう真面目な話をするコーナーじゃないと思うのだけど、まぁそうね。」

カナコ:「自分からそういう流れを作らなかった!?」

コクウ:「そうだったかしら?」

カナコ:「…とはいえ、大学もあるわけで、また日常に戻る…今日は休んじゃだめ?」

コクウ:「だめ。」

カナコ:「おにー!」

コクウ:「仮にも大学二年生の抗議じゃないわね…というわけで次回は『第四話:美味しいご飯が全てを解決する。』をお送りするわ。」

カナコ:「お楽しみに。うぅ。スパルタめ。スパルタクスめ…。」

コクウ:「それ似てるの音感だけだからね?」

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