アナザーサイドストーリー33(シノブ)
※:第一話、第二話ごろ、カナコとニコに合流する前のシノブ視点のお話です。
本棚以外はほとんど家具がない殺風景な部屋の窓から、シノブは太陽が昇っていくのを見ている。
今回の任務について以来、夜はこうしてローテーションで番をしている。
今日はシノブが朝番だったわけである。
昨日の一件で、向こうも手を出しずらくなったと言う予想はされる。
だが、だからと言って気が抜けないのも事実だ。
それが仕事というものだとも思う。
つい最近まで、和尚の元にいた頃は、ここまで気を張る必要はなかった。
追放処分とはいえ、新しく首領となったミクニには事情に対する理解を得ていた。
だから誰かに襲われるとかいう心配もなかったのだ。
単純に早起きなコクウからの情報では、ツムギは安心して眠っているようだ。
大犯罪者の監視役ということで気を張りすぎてしまう様子が不安だったが、今やすっかりシノブたち三人に馴染んでいた。
自分も寝ずの番をすると言い出したりしたらどうしようかと思っていたが、今では半ば諦めというか呆れというような感じで、シノブたちとも接してくれている。
逃げる気も誤魔化す気もないシノブたちにとっては、向こうも気楽にやっていてくれた方がありがたい。
欠伸をして、読んでいた本を閉じる。
派遣機構にいた頃は厳しい任務もあったので、徹夜には慣れているつもりだったが、久々だと若干眠い。
それゆえか、寝ないようにという意味を兼ねて読んでいた本も、数時間で数ページしか進んでいなかった。
だが、ページが進まなかったのは、物思いに耽っていたからというのもある。
今日は書物庫に行く。
シノブのかつての仲間だったツキヨとキララが働いているはずだった。
「はず」というのは、シノブは自身が追放になってから、彼女たちとの連絡をとっていないせいでミクニから間接的に聞いた情報しかないからなのだが。
キララはともかく、ツキヨは読書家だった。
まぁ漫画が主だったが、総量が一般の人々とは桁違いなので、本も相当量読んでいた。
チームを組んでいた頃は、よく任務の合間に読書談義をしたものである。
そんな彼女たちにおそらく今日、久々に会うことになるわけだが…。
シノブは無頓着で鈍感なようでいて、別に気まずいとかそういう感情がないわけではない。
それゆえにサトミやチサト、ミサキに流教授にも会うのがなんともなかったわけではない。
だが、ツキヨは特に気まずかった。
任務失敗の責任を自分一人で背負うようなマネをしてしまった手前、今更どのツラさげて会うのか、という話である。
だが、あの時のシノブにはそれ以上の選択肢は思い浮かばなかった。
状況証拠だけだったとはいえ、シノブが犯人であるという風潮が強いのは明らかだった。
それに、失敗したのは自分のせいだという自責の念もあった。
ツキヨを司書に推薦したのはせめてもの罪滅ぼしのつもりだったが、正直それが裏目に出ているような気がしてならない。
殴られるんだろうなぁ…。と、シノブはぼんやりと昔を思い出しながらため息をつく。
世間では自分たちが有能な術士であると言われていたのは知っている。
だが、シノブ自身としては全くそんなつもりはなかった。
いつだってなすべきことを必死でこなしてきただけだ。
少なくとも自己判断では、シノブは天才型ではない。
だからこそ本を読んだり魔法の研究をしたり、できることをしてきたまでのことだ…。
だがそれでもアイツには勝てなかった。
あの九尾の狐には…。
思考がそこまできて停止する。
今は今のことを考えることが先決だ。
だが、この事件はおそらく四年前の事件とどこかで繋がっているはず。
ミクニは詳しく教えなかったが、そうでなければシノブを呼び戻すはずがない。
カナコの<収束点>も気がかりだった。
穢れが周囲にないという点で、カナコが普通の<収束点>たちとは違うのは明らかだ。
そもそも、それなら彼女が狙われる理由がない。
<収束点>は殺しても次の人物に移るだけだし、脅威になることもない…はずだ。
だが狙われるのだからそのうち何かが誤解なのだ。
もしカナコが何らかの障害、あるいは脅威になりうるのだとしたら?
シノブは派遣機構にいる頃に読んだ派遣機構ができるよりはるか以前の記録を思い出していた。
死霊術を生み出した術士は<収束点>だった、というのを読んだ記憶がある。
「死霊術」と「収束点」という二つのキーワード。
この任務についてからずっと気になっていたことだ。
偶然にしては具体的すぎる。
こんな特殊なキーワード、仮にサイトか何かで検索したとして、二つ以上サイトがヒットしたら驚きなレベルだ。
ミクニはシノブを起用したぐらいなので、何かを知っているはずだ。
禁書の内容だとすると、任務の初めに説明がなかったのも納得がいく。
禁書の多くは、巫術者協会との決別の際に当時の彼らに公開を禁じられたものだ。
もちろんさまざまな危険等を加味して、派遣機構が後から加えたものもあるが…。
前者の特徴は、その内容を知るためには、「当事者」が、それを知っているものにその内容を尋ねる必要があるということだ。
シノブは自身が<収束点>でもなければ死霊術師に狙われているわけでもない。
ましてや少なくとも表向きは、つい先日まで追放されていた身だ。
内容を公開できるはずがない。
「まぁ、聞いてみるしかない、か…。」
蛇が出るにせよ邪が出るにせよ、まずは書物庫に行ってみるほかないのである。
〜次回予告〜
シノブ:「まぁ、だいたい予想通りだったよな…。」
サトミ:「殴られとったし、ザマァないわな。」
シノブ:「そんなに嬉しそうにしなくても…?」
サトミ:「いやーうちも殴ってやりたいぐらいやったし?満足やわ。」
シノブ:「…扱いが酷いのは今も昔も変わらないよな…。」
サトミ:「というわけで次回は『アナザーサイドストーリー34』視点はうちや!」
シノブ:「あれ?サトミって出てきたっけ?」
サトミ:「出てきとったやろうが!?…いやまぁ後半のインパクト強かったから印象薄いんはわかるけどな!?楽しみにしとけや!」
シノブ:「脅しのセリフみたいになってるぞ…?」
幕




