第四十二話:正夢の交差点と夢違え。(前編)
初めに動いたのはシノブとハクアだった。
ゲートから出てすぐの私とニコを抱えて飛ぶように何かを「避けた」。
同時にツムギちゃんとコクウも私たちと同じ方向に飛び込む。
それは黒い大きな弾丸のようなもの。
だが違う。
勢いと影でわからなかっただけで、それはトラックだった。
それは私たちが潜ってきたゲートを、正確にはそれを形成していたドアのスレスレを通り過ぎて、何かにぶつかって止まった。
「あーあ、残念。」
と、背後から声が聞こえた。
シノブが何かを言おうとしたが、それよりも先手を取るようにして、指を鳴らす音が聞こえる。
なんとなく展開が予想できた私は、シノブに小脇に抱えられた状態で顔を顰める。
当然、空間が灰色に染まる。
陰影のない、立体感のない世界。
幽界である。
「コクウ、ツムギ、頼む!」
とシノブが言ったかと思うと、私の身柄はコクウの方にボールか何かのようにパスされる。
いや、緊急事態なのはわかるけども流石にその扱いは…。
さらにコクウになんとかキャッチされた私の方にニコが投げ渡される。
私がそれをキャッチして、その反動をツムギちゃんが後ろから支えてなんとか四人ともことなきを得る。
だいぶ無茶苦茶だが、逆にいうと、それだけ余裕がないということか…。
さっきの声の主は?
「ハクア!」
「フッ!やっとあたしの出番のようね!」
「「憑依!」」
間髪入れず、シノブとハクアの声が響く。
刹那、色のない世界に白い閃光が走った。
初めてみる、シノブのハクア憑依バージョン。
基本的な見た目はコクウの時と同じだが、尾の数が一本少ない代わりに一本一本のボリュームはこちらの方がかなりある。
耳は相変わらずカチューシャをつけたような取ってつけたような感じ。
だが、一番目を引いたのは白くなった髪。
さらに目つきや顔立ちもなんとなく中性的かつキツくなっているようだった。
そんなシノブは、気がつくと先ほどまでいたはずの場所にはいない。
そしてその場所には、ニンジャがアニメや漫画でよく使っているようなクナイ?というのか、短い刃物の飛び道具が数本刺さっている。
「氷崎…。」
コクウが呟く。
人名のようだが、当然なんの思い当たる節もない私に対して、驚くべきことにニコもツムギちゃんもその言葉に反応する。
「氷崎家って、死霊術師のなのですよ?」
「最も高い技術と強い権力を持っていたと習いました…。」
「そう、その中でも特に、最後の当主とその妹は稀代の天才と言われた。」
「御名答。」
すぐ後ろで声がしたのに驚いて振り向きそうになるがそれよりも先にコクウが私たち三人を突き飛ばし地面に伏せた状態にする。
そしてコクウ自身はいつの間にかどこからか取り出した杖で、何かをしようとしたようだが、すでにその場所にその氷崎という人物の姿はない。
正確にはそもそも私はまだ彼の姿を見てもいない。
だがその見え何者かは確かにこの近くにいて、シノブと戦っているのだろう。
その証拠として、シノブは目で追うのが難しいスピードで移動しながら、何かを狙っているようだった。
さらにそんなシノブがひとときとどまった場所には、次の瞬間にはクナイが刺さっている。
時々それらは私たちの方にも飛んでくるが、コクウがその多くを弾き飛ばしている。
ツムギちゃんやニコも杖を取り出し、私の両脇に立って、私を守ってくれる体制。
年下の子に守られるのが情けないとか、そんなことを言っている場合ではない。
明らかにこれまでで一番やばいということは、戦闘が専門外もいいところな私にでもわかる。
最近、毎日一番やばいというのを更新してる気がするんだけどな…。
〜次回予告〜
ニコ:「なんだか最近、だんだん巻き込まれることの深刻さが増してますよね…。」
ツムギ:「そうなのですよ…私も戦うのですよ!」
ニコ:「そういえば、ツムギちゃんが戦うのって見たことないかもですね。」
ツムギ:「あはは…まぁ戦わなくて済むならなるべく戦いたくないのですよ。」
ニコ:「本当にそうですよね…。カナコにはなるべく平和な世界で生きていてほしいんですけどね…。」
ツムギ:「それは、シノブさんたちもなのですけど、彼らの場合はこの件に巻き込まれてなくても、何かに足を突っ込みそうなのですよ…。」
ニコ:「あはは…ということで次回は『第四十三話:正夢の交差点と夢違え。(中編)』をお送りします。」
ツムギ:「乞うご期待なのですよ!」
幕




