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第八話:それでも私はマップのピンを信じることにした。

 地図通りでは18分とのことだったが、結局家の周辺までたどり着くのに20分ほどかかった。

 思った以上に、時間が経てば経つほど疲労していることを実感する。

 契約の疲れなのか、あるいは単に知らない人間に出会いすぎた結果の心労なのか。

 どちらにせよ、時間がかかるのは仕方ないだろう。


 ニコも先ほどから反応にキレがない。

 疲れているのは、どこからともなく漂ってくる雰囲気から十分伝わる。


 それに考えてみれば、ニコの明るい対応で忘れがちだが、この子は他人の心が読めるのだ。

 私だけでも相当うるさいだろうし、他の人がどれだけ閉心しているのか知らないが、常に何も聞こえないというわけではないだろう。

 感知範囲はわからないが、もしかしたら今前を通っている家の中の人の心もわかったりするのか?


 だとしたら疲れて当然だ。

 シブヤにいる期間も結構あったが、あれだけ人がるわけで、そして当然一般のピーポーじゃ閉心なんて出来ないわけで、相当大変だっただろう。

 …そう考えると、生きづらい性である。


「まぁそうでもないですよ?雑念ってテレビのノイズみたいな感じで、意味を持った言葉に聞こえないですし。」

 私のこれは雑念ではないのだろうか。

 私こそがまさに雑念まみれの人間という言葉を具現化したような存在だと思っていたが。


「カナコの心はむしろはっきり聞こえますよ?まるで話しかけられてるみたいな感じなので、正直、口で言っているのか心で思っているだけなのかわからないくらいですよ!」

 それはいいことなのか悪いことなのかわからないが。

 どっちにせようるさくて申し訳ないとしか言いようがない。


「いや、そんなことは…。今のところは賑やかで楽しいですし。」

 ニコがはにかむ。何が恥ずかしいのかはわからないが。

 何その表情めっちゃ可愛いんですけど!?

 優勝。


「で、でもその突然褒めるのやめてもらっていいですか!本当に照れるので!」

 照れてる…可愛い。

 これが尊みの暴力というやつか。

 我が人生に一片の悔いなし。

「だ、だから〜。」


 今度は呆れのような焦りのような困った表情。

 美人とか美少女の描写でよく「表情がコロコロ変わる」みたいなことを言うが、ニコはまさにその典型だ。

 私は特に仏頂面と苦笑い以外の表情をしないが、私以外の人たちでも日常的に表情が多様に変化する人をあまり見たことがないので、新鮮でもある。


 人間の表情筋の動きに感心する。

 私なんて昨日からの苦笑いの連続で顔が筋肉痛気味だと言うのに。

 まぁニコはユニコーンなんだけども。


 そんな話をしながら、家の近くまでやってきたのだが、そこで、ふとニコの足が止まる。


「…ここに入るんですか、もしかして?」

「え、うん…。」

 ニコが露骨に嫌そうな顔をしている。


 しかし私の部屋が、と言うならまだしも、ここはまだ私が住んでいるアパートの前でしかない。

 ちょっと古いとはいえ、ボロいわけでもない。

 二階建てで、同じ方を向いて十二部屋分の扉が並んでいる。

 一般的な普通のアパートのはずだが…。


「いや、見た目とかでなくて…。ここはやばいですよ。」

 ん?それはつまり?

「エネルギーを見るって言うのは、魔法少女でも難しいんですよ。見えるのは、特に優秀な魔法少女か、あるいはエネルギーの方が強すぎる場合。ここは、多分強い方です。私は基本的に見えないですし。つまり、やばいです。」

 すごく早口で説明してくれた。

 ニコにもオタク話法の素養があるな。

〜次回予告〜

カナコ:「なんかだんだん雲行きが怪しくなってきたんだけど?」

ニコ:「いや、むしろ昨日の方がずっと雲行き怪しくなかったですか?」

カナコ:「…それは、確かに。」

ニコ:「でも、あんなに陰の気がたまることなんてあるんですかね?」

カナコ:「いや、私に聞かれても…。」

ニコ:「ううむ。とはいえ、次回はそんな謎を解くためにもまずはカナコの部屋に潜入します!」

カナコ:「潜入じゃなくて普通に入ってきてください。」

ニコ:「わ、分かってますよ。言葉のあやですよぅ。」

カナコ:「でも、魔法少女が部屋の窓ぶちわって入ってきたらそれはそれで面白いかも?」

ニコ:「へ、変なこと言わないでくださいよぅ。ということで次回は第九話:『この世の果てかと思ったら自分の部屋だった件。』をお送りします!」

カナコ:「珍しく何が起こるのか分かりやすいタイトルだぁ。」

ニコ:「そ、そうですか…?」

カナコ:「お楽しみにって感じでもないけど。」

ニコ:「えぇ…なんの前触れもなく新しい終わり方ですね…。」

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