第三十一話:そうは言いつつも図書館ではお静かにお願いします。
「でも、ここに来るまで普通に人前歩いてましたよね…?」
「だから身勝手だていうのよ。あいつなりに気を遣ってるのはわかるんだけど、なんというか、ズレてるというか分かりずらいというか…。」
「あれは単純にボケてるんじゃ…。」
「久々だったから…?」
事情を知ると余計にそれで済まないと思うんですがコクウさん?
シノブのあれは天然なのか、ただの向こう見ずなのか。
未だによくわからない。
サトミさんは周りが見えなくなると言っていたが…。
そういう次元のお話なのだろうか?
話題もとうとう一番重いところからはなんとか脱出し、ちょっと場の空気も緩和される。
あえてなのかなんなのか、ニコの一言がきっかけなので、正直感謝しかない。
シリアスな話はシリアスな雰囲気でするものというのはわかるのだが、魔法少女界隈の一般人代表である私には荷が重すぎる…。
「シノブのあれは相変わらずよね…第一種の契約を二人分だから、ボケるのも無理はないけど。」
「あぁ…なるほど…。」
いつからか失念していたが、ずっと一緒にいたツキヨがいうのだから、そうなのかもしれないと思う。
単純に一人分の思考ですら、ぐるぐる回って始末に追えないのだから、三人分で処理しきれないのは当然と言えば当然だ。
ニコがシノブたちの感情を読めないのは、シノブたちは一人で三人分なので、感情を読もうとするとオーバーフローするからだという。
だとすれば彼ら自身でも同じ状況が発生していないとは言えない…。
「日常生活では、不便な面もあるわね。」
コクウが案外素直に肯定する。
やはりいくら謎の強者感だけを漂わせているシノブといえど、無理なものは無理なのだ。
安心するような、むしろ今後が不安なような?
「戦闘中はいいんだけどね。
やっぱり日常の方が無駄なことを考えるから。」
「それは昔から言ってるわよね…。なんかこう、修行とか特訓とかでなんとかならないわけ?」
そう言ってツキヨは野球バットを振る真似をする。
それだけでも、彼女の思考を形成しているものの一環が見えるというものだ。
「お互いの思考が介入しないようにはできる。でも、容量は変わらないから…。」
「いくら区切っても全体の面積が変わらないから、容量の問題は解決しない?」
「そう、流石ね、カナコ。」
ん?
んんん?ん?
なんだか初めてコクウから名前で呼ばれたような?
素直にめっちゃ感動した。
ハクアに続き、なんというか、交流関係にやっと割って入れた感じ。
いや割って入るというのは言い方が悪いけども…。
でも、私の今の状態って、派遣機構組に対してもオカケン組に対しても、いうならばゴールデンウィークも過ぎてクラスの人間関係が出来上がってしまったところに転校してくる、とかそういう感じだ。
まぁ私は、無遅刻無欠席だった中高時代でも友達いなかったですけど?
あと、案外萌え要素多めのコクウにそういうことされるとときめいちゃうよね?
いやでもダメだ、私にはニコがいるから…。
「いやそれはなんの、判断基準なんですか…。」
ニコがもはや半分諦めといった表情で私を見上げる。
そんな様子も最高に可愛い。
やっぱりうちの子が一番ですね分かります。…という脳内会議は前もやった気がするが…。
「さっきから時々あるけど、その能力って、ユニコーン族の読心よね?」
「あ、はい。すみません、不快でしたか?」
ニコが驚いて頭を下げる。
その流れるような所作からは、普段から自分の能力が他人の気に障らないか常に気にしてきた気苦労が偲ばれる。
ニコはニコで、私が知らない多くのものを抱えてここにいる。
能力もそうだが、シノブの話でもわかった通りやはり派遣機構はある程度身分社会…。
となると、貴族は貴族の辛さがあるに違いない。
「そんな大袈裟なものじゃ…ってあ!?」
「いや、そんな気にしなくていいけどね…。
単純に珍しくってさ。やっぱり幻獣の貴族ってあまり出会う機会もないし…。人間と契約するのがそもそも稀だしね。」
「あれ?そうなの?」
ツキヨは何気なくいうが、それは初耳なような…?
いや、ツムギちゃんが契約をしていないという話は聞いたが、それがなぜなのかは聞いたことがなかった。
「第三種は希少だし例外なんだけど、大勢いる第二種の契約だと、人間側と幻獣側の相互性が大事なのよ。
で、一番初めの問題として、人間の魔力の器みたいなものが、幻獣側の魔力を受け止められるっていうのが最低条件なわけ。
それで、なんとなくわかるとは思うけど、幻獣の貴族は基本持つ魔力も規格外だから、釣り合う人間がそういないのよ。」
「なるほど…。」
強過ぎて倒せないラスボスが、主人公の力を吸い取ろうとして自滅するみたいな話か?
まぁこの場合は味方同士でそれが起こるわけだからより問題か…。
「あはは…いやいや…。」
ニコがそう言って両手のひらを小さく振って謙遜する。
その辺の勘違い系女子がやったらイラっとくる仕草だが、ニコがやると本当に素直に可愛い…。
「しかし、ヤミさんもあれよね。どうせこの説明をさせるために私をカナコちゃんと一緒にいかせたのよ?」
いつの間にちゃん付け呼びに昇格したのかすごく引っかかったが、それよりも話の内容に引っかかった。
服だったらほつれてボロボロである。
「あえて?どういうこと?」
「シノブと話があったのも事実なんでしょうけど、あの流れで私とカナコちゃんを一緒に生かせる理由って、それしかなくない?」
「はぁ…。」
それが事実だとしても、確かに納得感はある。
何せ、人数が多い時の話の進まなさは私が身をもって知っているからである。
「でもあんまり喋ってるとめんどくさいのよね…。」
「え?」
ツキヨのため息混じりの言葉に聞き返すよりも先に、辺りが急に濃いモヤに包まれた…。
〜次回予告〜
キララ:「我が名は緋川キララ!偉大なる吸血鬼族の末裔だ!」
カナコ:「なんとなく予想はしてたんで、驚きませんけど、オタクの契約相手が厨二病って…?いや、言ってることは今のところ事実か?」
キララ:「反応が悪いのう。これだから最近の若いもんは?」
カナコ:「いや、かくいうあなたは何歳なんですか…って、確かに吸血鬼だから…?」
キララ:「二十歳だ。」
カナコ:「ほぼ同い年じゃねーかこのやろう!…というかそれって特務隊にいた時、十歳とか…?」
キララ:「まぁ、吸血鬼族は子供でも並の幻獣どもより強いからな。はっはっは!」
カナコ:「いやそういう問題…?というわけで次回は『第三十二話:オタクの友達が厨二病ってね?』をお送りします。」
キララ:「次回予告で伏線回収するやつがあるか!お楽しみに!」
幕




