第十五話:Cパートはトゥルーエンドでお願い!(前編)
暗い階段に一歩足を踏み入れると、小さな火の玉のようなものが無数に現れて、辺りを照らした。
それらは足元を中心に、上下左右いたるところを照らしており、私たちが階段を降りるごとについてくる。
その様子はまるで、より明るい蛍というのか。
私は小動物的なその動きを見て、ケセランパサランたちを思い出した。
こういうのって松明にひとりでに火がつくとかがよくある感じだけれども、これはこれでそれっぽいなと思う。
「これは?」
「この階段を案内するためだけの術だ。」
「こんな術も編めるんだという力の誇示も兼ねてるのよね。」
「そうだったのですか?」
「私も知らなかったです。」
なんで私はともかく、ニコやツムギちゃんも知らないのか。
「まぁ、やってる側がムキになってやってても、それを見る側はそれに気づかないなんてよくあるわよね…。」
「何その、浮かばれない話は…というか力の誇示って誰に対して?」
「まぁ、この書物庫は派遣機構関係の人間にしか使えないから、主に契約していない在野の幻獣たちや、時折くるカナコみたいな一般人に対してよね。」
ハクアにしては珍しく、詳しく説明してくれた。
いや、いつもそうあってくれよ。こちとら関係者初めて一週間もない初心者ですけど?
「まぁ確かに、これだけの火の玉を自動で制御するのはめんどくさそうなのですよ。触れても熱くないですし。」
とツムギちゃんはその辺にフヨフヨ浮いていた火の玉を素早い手つきで一つ手づかみする。
意外な度胸だな…というか火の玉なのに掴めるのか…。
「まぁ、それぐらいの認識よね。」
コクウは失笑している。
事情を知っている誰しもに馬鹿にされるっていうのも可哀想だな…。
声が反響するのを聞きながら、さらに階段を降りていく。
先ほど背後で入った時と同様の引きずるような音がしたので、おそらく背後にある扉はすでに閉まっているのだろう。
あるで魔法式の認証付き自動ドアだ。
暗い中で辺りを見る。
ぼんやりと照らされているのは相変わらず石積みの壁だが、外のなんの装飾もない不恰好なものに対して、中には絵が描かれており、それが見える限りずっと続いているようだった。
石を削るように描かれたそれは、思いつく限り全ての某仏が描かれているのではないかと思うような、言うなれば「鳥獣図」だった。
昔話に登場するようなお馴染みの動物はもちろん、麒麟や竜のような想像上の動物、中にはユニコーンや吸血鬼のようなこの国のものではないものも含まれている。
いや、吸血鬼はどちらかというと人間寄りではないのか?
そんなこと言ったら、ニコたちも幻獣だが今はほぼ人の姿だから?
逆に吸血鬼もコウモリの幻獣の可能性があるのか?
「あはは、いや、吸血鬼は蝙蝠の幻獣とは別ですよ。」
心を読んだニコが答える。
なるほどな、と思っている私の横で、シノブが何か言いかけてやめたのがわかった。
一体何を言いかけたのだろうか。
そこからさらに降り続けること数分間。
そろそろ登りが大変だろうなと思い始めた辺りで先頭のシノブの足が止まった。
「ついたな。」
という言葉通り、そこは踊り場のようになっていて、目の前にもう一度先ほどくぐってきたのと同じような扉が設置されている。
今度の扉は何か話しかけなくても、シノブが手をかざしただけで開いた。
前回が下に降りていくタイプだったのに対して、今回は上に上がっていく。
どちらかというとこっちの方がそれっぽいな、うん。
扉が開くとその向こうは白い蛍光灯のような光で照らされた空間で、炎の光はあったとはいえ暗闇に慣れ始めていた私は、すっかり目が眩む。
そして目をしばしばさせながらもとりあえず室内に進むと、最後尾だった私とニコが入ったと同時に扉が閉まり始めるのだった。
〜次回予告〜
カナコ:「なんというか、町の風景といい壁画の内容とか、色々とチグハグな場所だなぁ。」
ツキヨ:「この町はここまで流れ着いた人たちが、それぞれ勝手に作っていったものの集合体だからよ。」
カナコ:「うわスッゲー久しぶり。この新しいキャラが出てくる感じ?いやそうでもない?」
ツキヨ:「自分で話し始めておいて私の話はガンするなのね!?」
カナコ:「それはまぁいつものことなので…。」
ツキヨ:「あんた、友達いないでしょ。」
カナコ:「いーまーすー今はえぇっと…両手で数えられるくらいは!」
ツキヨ:「あぁ…そう?…というわけで次回は『第十五話:Cパートはトゥルーエンドでお願い!(中編)』をお送りするわよ!楽しみにしてなさいよね!」
カナコ:「このセリフ全部持ってかれるのも久々な感じだぁ。…っていうか『なさいよね』ってきょうびあんまり聞かんよな。」
幕




