表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/455

第三話:それでもケモ耳オタクは納得できない。

「ま、まぁ何を言っているのかわからないのも無理はないですよね。」

 心を読んだのか、それとも私がよっぽど驚愕の表情を浮かべていたのか。ニコと名乗ったその少女は私の言葉を先んじる。


「ちなみに、近くにいる人の心を読むのはユニコーン族の性質のようなもので、ご容赦ください。悪意でやっているわけではないんですよ…。」


 そう言ってペコっと頭を下げる少女はやはり浮世離れして可愛いし、ユニコーン族というトンデモ設定も頷けはする。

 それに、純粋に足が生えたような彼女になら心の一つや二つ読まれても問題ないかもしれない。読まれて問題あるようなことも…なくはないか、流石にそれは。お互いと、健全な青少年の育成のために。


 ここではたと疑問が浮かぶ…。

 いや、はたとも何もこの状況に疑問しかないが。

 ここは一旦落ち着いて、一つ一つ問題を解決しよう。


 まずは、ユニコーン族ってなんだ?


 彼女の容姿は、激かわいいのは置いておくとすると、みたところ他の人間と全く違わない。

 一般的に、ユニコーンは一本の長い螺旋状の紋様がある角を持つ白馬の姿で描かれることが多いはずだ。ここまでは長い根暗インキャ引きこもりオタク生活で得た実用性のない実学なので正しいと思う。

 少なくとも人間の姿はしていない、はずだが…。


 あるいは、そういう一族の名前ってだけとか?

 田中・ユニコーン・花子的な?


「ユニコーン族って?」

 どうせ心を読まれるなら口に出して尋ねる必要もない気がするが、それはそれでコミュニケーションとしてどうなんだ、と思い口に出して尋ねる。


 この私(前述)がコミュニケーションを語るのか…。

 という穏やかでない心中はこの際、スルーすることにする。


「ユニコーンはお察しの通り白馬に角が生えたような幻獣の一種ですが。幻獣はそもそも姿形があんまり明確に決まってないんです。あくまでそれっぽい形のエネルギー体ってくらいですね。

 ほら、よく絵画とかでも同じ動物を描いているのに描く人や地域によって見た目が全然違う現象あるじゃないですか。それがまさにわかりやすい証拠ですよ。

 で、幻獣の我々の姿はだいぶ自由に変えられるわけです。我々幻獣としても、特に私は人と関わる役職になったわけですので、人間の方々にも親しみやすい姿を、ということでこの姿をとっているわけです。」


 …思ったよりは長い説明だった。

 相手が野良の厨二病だったらとっくに話を切り上げているレベルだ。

 まぁそもそも未知の他人と話す機会が引きこもりにはないわけだが?


「…つまり、ご都合主義の幻獣擬人化美少女ということでいい?」

「ん?んんん?まぁ、そうです…かね?」


 どうやらそれでいいらしい。

 美少女否定しないんだなぁ。


「なっ、そういうわけでは…。」

 お前………可愛いな。


「からかいましたねっ。そういうのは良くないと思いますっ。」


 ここで、確認のため、改めて彼女の方を見た。

 白いヒラヒラのワンピース。長い銀色の髪は春の穏やかな日差しに輝いており、髪の先の方をゆったりとシュシュで留めている。

 頭上にはレース編みのようなリボン。幼いながらに整った顔立ちにアクセントの青い目。


 改めて浮世離れしている。だが、そもそもゴスロリ衣装がここまで似合う時点で見た目が異次元なのは自明だ。

 問題は、「擬人化」の割にユニコーン要素が白基調の服装以外にないことだ。


 人間に近い姿になっているとはいえ、ユニコーン要素が銀髪だけってのは、流石に少なすぎないか?

 キャラの作り込みしっかりしなさいって言いたくなっちゃうのは、何も私だけじゃないはずだ…。

 まぁ作り込みも何もこれは現実。もしかしたらそこんとこ案外融通が効かないのかもしれないが…。やっぱりリアルはクs…。


「あーあー、女の子なんですからそんな汚い言葉使っちゃ、めっですっ。」

「えぇ…、でも擬人化なのに要素服だけって。それはもうコスプレじゃないですか…。」

 ちなみに私はあまりコスプレは好みじゃない。


 これは完全に個人の見解だが、コスプレは作品世界に自分は入ることはできないという絶対的な壁を感じる行為だからだ。二次創作みたいに自分の世界に浸っている方が、作品の中にいられていいんだ。

 というかここまで要素が少ないとむしろコスプレというよりは、キャライメージの普通のコーディネートか?


 露骨に残念そうにする私の手をとるニコ。

 そのまま唐突に歩き出す。


「!!?」

 突然のことに驚く私を、彼女はどんどん引っ張っていく…。


 人通りの多い駅前から角を曲がり、たどり着いたのは、人通りの少ない道の端だった。


「なんでこんな…。」

 と尋ねようとする私を制して、彼女は頭のリボンを外し始める。


「これをみてください。」

 リボンを外し終えた彼女は自身の頭上を指さす。

 そこには、小さな一本の角が生えていた。


「お、おう…。」

 なるほど、やたらと大きなリボンはこれを隠すためについていたらしい。

 一角獣と言われてイメージするような長いものではないものの、確かに近付くと目立つ。が…。


 …なんか微妙。


「そして、これですっ。」

 あからさまに納得していない私に、彼女は意を決したように髪をかき分ける。

 するとそこには…。


「なっ…んだと…。」

 長く垂らしていた髪にほとんど隠されていて気づかなかった。そこには人間にも耳がある位置に、馬っぽいとんがった耳が生えていた。

 つまり原理主義的ケモミミというやつだ。

 擬人化好きとして、この可能性に思い当たらなかったのは一生の不覚である。

 ネットのオタク仲間に叩かれること待ったなしだ。親にも叩かれたことないのに!


 現代では頭上にケモミミが基本で、ともすればケモミミだけでなく人間の耳もあるという理想主義的なケモミミが横行している。故に私も、不覚にも、ケモミミが人間と同じ耳の位置についている可能性を失念していた。

 だが本来擬人化をするなら耳は当然一対なはずだし、人間と同じ位置にあるはずだ、というのが原理主義である。

 ちなみにこれには、古典の文献には四つ耳のケモミミっ娘も存在するという伝統を重んじる派閥の反論があったりなかったり…。


 とりあえずこれは衝撃だ。

 今世紀始まって以来の発見だと言ってもいい。

 その世紀の半分も、私は生きていないけれど、おそらくきっとそうだ。

 何がかはよくわからないが、今はそんな細かいことを気にするより、なんだか走り出したい気分だった。


「お、落ち着いてくださいね?走り出さないでくださいね?私は走るのあんまり速くないので。」

 残念ながら、引きこもりの私以上に走るのが遅い生物はカタツムリくらいなものだ。


 ニコと名乗るこの少女と、自分の今の現状を見比べる。

 目の前の存在が非現実的かつ自分にとって理想的な存在であるということに気がついてしまった。

 SANc不可避である。1d100貫通くらいのダメージがあった。


 せっかく上がったテンションがスッと冷めていく。

 まるで盛り上がっていたSNSが悪ノリした誰かのイキった一言で一気に盛り下がった時みたいだ。

 嫌なことを思い出させやがって。


 とはいえこれでまた、冷静な思考が戻ってきたのだった。

〜次回予告〜

カナコ:「…ここで何話せばいいのかな?」

ニコ:「さぁ、作者さんもいないみたいですし。とはいえ、これで二人が出揃ったわけですよ?」

カナコ:「ボーイミーツガールならぬガールミーツガールだね。」

ニコ:「その言葉って、普通恋愛に使うものじゃないですか?」

カナコ:「まぁまぁ。お控えなすって。お控えなすって。」

ニコ:「何話していいか、確かにわかんないですけど、感覚だけで喋らないでくださいっ。意味わかんなくなっちゃってますよう。」

カナコ:「というか、ファンタジー=獣人なイメージで、この時は気が付かなかったんだけど、人間の姿になってるんだったらむしろ、獣要素がない方が普通では?」

ニコ:「ギクっ。」

カナコ:「ギクって自分で言う人初めて見た…。と言うか、やっぱり図星なんだね…?」

ニコ:「そ…そんなことない…んですよ?」

カナコ:「怪しい…。」

ニコ:「と、と、とにかく、次回は、『第四話:これだから物分かりのいいオタクは嫌いだよ!』をお送りします!ん?」

カナコ:「相変わらず、ひどいタイト…。」

ニコ:「あ、あれ、勝手に幕が!?」

カナコ:「職権濫用だな。」

ニコ:「ええっと、と、とりあえず、お楽しみに!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 頭の上に耳がくると人間の骨格的に脳のスペースが減る。だから獣人はお馬鹿説と脳のスペース確保のため大きな頭が必要でバランスの悪い等身か大きな体格を必要説があるで
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ