第三話:契約者との正しい付き合い方。
「と言っても、まぁまだ現状を理解できるほどは事情がわからないと思います。契約の疲れもあると思いますから、今日は一度、ニコさんを連れて家に帰っていただいて…。」
いや!
いやいやいや!
なんか邪神が出てきそうだったがそうじゃなくて。
そうだった。現状を理解しただけで安心してそれが招く結果を見ていなかった。
つまり、居候するということは、ニコが私の家に来るということだ。
それはまずい。
非常にまずい。
私の心情を読み取るだけでも相当精神衛生に良くないのに。
さらに私の家に住んだら心身ともに不衛生極まりないことになってしまう。
それは良くない。
非常に良くない。
「あの…角谷さん?」
「はぁ、チサトはデリカシーがなさすぎるな?」
さっきまで話を黙って聞いていたサトミさんが、突然口を挟んだ。
「え?」
「あんなぁ、女子の一人暮らしやで?たとえ相手が女子とはいえ、見られたくないものの一つ二つあるもんやろ?」
微妙に方向性が私が想定している問題点から逸れているが、グッジョブだ。
だが、そのセリフをこんな大衆の前で口にだすのもだいぶデリカシーが疑われるような?
「…そちらにせよ、ニコさんにずっとここにいてもらうわけにもいきませんから。」
「それはそうやけども…。」
「そもそもねぇさんもね、元守護者なんだから、契約立会の前にこれくらい確認してくださいよ。」
「一応確認したんやけどなぁ…。」
久々に、私の知らないところで会話が進んでいる。
それを遠巻きに眺めているアカネちゃんとミユキ。
アカネちゃんはニコニコ、ミユキはむすっとしている。
おそらく二人で言い合っているのは、いつものことなのだろう。
というか、フルネームを言われた時に何となく察していたが、サトミさんとチサトは兄弟なのか。
そういえば名前に「サト」も共通しているし、いかにもそれらしい。
しかし、やっぱりチサトがら関西弁じゃないということはサトミさんはエセなんだな。
「だいたいそこまでいうなら、ここに契約者が来ることくらい分かっとったんやから、あんたがカナコちゃんを迎えに行ったらよかったんやないの?」
「角谷さんがきた時に、すぐに僕のところに通してくれればよかったんじゃないですか?」
「あんたがミサキちゃんと話があるんやないかと思おて気を利かせたつもりなんやけどなぁ?」
「それは小さな親切大きななんとやらですね。」
「なんとやらとはなんや…?」
エセ関西弁と丁寧語の言い合いは静かに白熱している。
サトミさんはこれまであったどの人物よりも偉いのかと思っていたが、チサトとは同格のようだ。
兄弟の上下を、元守護者と現守護者の上下で打ち消している感じか。
というか仲良いなこの二人。
他の二人もこの状況に慣れている感じ。
今は言い争っているが、四人の互いの信頼感を感じる。
私が生涯得られない感覚だ…。
そんな四人を尻目に、ニコがこっそりと問いかけてくる。
「やっぱり、見られたら困るものとか…?」
ニコが無垢な顔でこちらを見てくる。
いや、そうと言えばそうだし、そうでないと言えばそうじゃない…?
ここまで足を踏み入れてしまうと、今更向こうで決まっていることを断るわけにもいかない。
それに正直、ここまできてしまうとこれからの生活にワクワクしている面もある。
ニコも明らかにいい子なので同居人としては悪くない。
それに私は一人暮らしだ。
借家だがあまり厳しくないので、一人住んでいる人が増えても問題ない…のか?
法律上はどうなのかはわからないが。
というか、魔法少女は人間の姿であるだけで、人間ではないようだが、その辺はどうなっているのだろうか?
人権とか?戸籍とか?知らんけど。
「それは大丈夫ですよ。近隣の方には少しだけ魔法で錯乱していただいて、私がいても違和感を覚えないようにできますし。」
魔法は便利なのか不便なのかいまいちわからない。
こういうセリフを聞いたり、時間停止なんかを見ると、全能のように感じる。
しかし、できないこともある、とニコとミサキちゃんは言っていた。
例えば、先ほどのミサキちゃんとの移動の時。
ハコニワシステムとやらも、見えないようにはできるが、距離を省略できるわけではないようだし。
錯乱魔法を打って現実世界で移動するのではなく、システムを発動して移動したということは、その錯乱魔法にも限界があるようだし…。
ドラゴンを倒したがそれも出現を抑えられるわけではなさそうだし。
攻撃は今のところ防御系しか見ていないし。
案外魔法でできることは、その場しのぎ、あるいは対処療法的なのかもしれない。
〜次回予告〜
チサト:「お見苦しいところをお見せしましたね。すみません。」
ニコ:「いえ。カナコも言ってましたけど、四人とも仲がいいんですね?」
チサト:「まぁ、ねぇさんはいいとして、アカネさんもうちの神社の神使なので生まれた時から身近にいましたし。ミユキもあれでいて周りをよく観察していますからね。」
ニコ:「そうなんですか。やっぱり、ミユキさんも優しい方なんですね。」
チサト:「ええ。ところで次回は、魔法少女と社会の関係について話していきます。」
ニコ:「ギクっ。」
チサト:「まぁ、本来なら契約前に説明しなくてはいけないことなんですが、今回は僕の監督不行届でもありますし、不問にしましょう。」
ニコ:「すみません…。」
チサト:「まぁ、第三種の契約なんて、何度もあるものではないですからね。」
ニコ:「というわけで次回は、第四話:『契約と社会貢献についての話。』をお送りします。」
チサト:「お楽しみに。」
幕




