第二十三話:そして今日の日は明日に続く。
ニコはそれからしばらくの間、むにゃむにゃやっていたが、そのうちに起き出した。
半身起こして眠そうに目を擦るニコ。
この子は本当に何をやらせても可愛いな。
というか、昨日出会った四人の女性は、みんな別ベクトルの美人だった。
もしかして私だけネタ枠なんじゃないかと思うほどだ。
あるいは私こそがギャルゲーの主人公なのか?
いやむしろこの展開では18禁ゲームまである。
何それ怖い。
猫耳というバットエンドルートまで準備されている徹底ぶりだ…。
「ま、慣れないこともあると思うけど、頑張ってねん。とりあえず、アカネちゃんはサトミとチサトに君たちが起きたって伝えてくるよん。」
と言って立ち上がり、アカネちゃんは襖を通り抜け、どこか別の部屋へ行ってしまった。
何も告げずに…。
しかし、ここはどこで。今はいつの何時なのだろうか?
周りはよくある和室っていう感じだ。下は畳で壁は漆喰で扉の代わりに襖。
特に豪華とかそういうこともないし、広いということもない。
正確にはわからないが、六畳くらいだろうか。…畳の枚数的にもうちょっとありそうだ。
メートル法に支配された現代人の悪いところが出たな…。
電灯は蛍光灯っぽいが、今は点灯していない。
それでいて室内が薄明るいということは、外はもう明るくなっているのか、まだ明るさが残っているのか?
窓の外は青黒い空だ。これでは朝か夕か判別できない。
体感的には朝よりな気はしているが…。
しかたがないので文明の利器に頼るとしよう。
スマホを取り出すと、日付は翌日、時間は午前五時ごろ。
やっぱり文明しか勝たんな。
とりあえず日時は把握した。
とりあえず把握って感じだ。
…なんで今現代語風に言い直したんだ自分?
しかも略せてねぇじゃねぇか。
ふと、今なお手が握られていることに気がつく。
ニコに握られている件の左手の甲を見ると、そこには焼印のような紋様がついていた。
それは螺旋状の角であり、ユニコーンの角を模したものだとすぐにわかる。
契約の時のあの鈍い痛みはこれのせいなのではないかと、寝ぼけた頭で思い出す。
ん?ちょっとまて。この目立つ位置にこんな派手な刺青はやばくないか?
通常生活に支障をきたすレベルでは?
おそらくご近所さんから引きこもりだと理解されている私だが、そこにさらに厨二病設定まで加わったら、お醤油借りるどころか、部屋を借りることすら難しくなってしまう…。
まぁ、今時のご近所付き合いだ。
そもそも醤油を借りることも、作りすぎたお惣菜をもらうこともない訳だが。
「その点なら大丈夫…です…よ〜。」
ニコがおぼつかない口どりで答えてくれる。でもどの点が?
喋りながらも頭を前後に勢いよく振りっている様子からは、今にも眠ってしまいそうだということが痛いほどよく伝わってくる。
さてはニコも朝に弱いな?
これまで様々な問題を迷宮に誘ってきた私の推測だ。
間違いない。
「ミサキさんも…ありますが、見えなかった…でしょ?一般人には見え…ないん…です…よぅ…。」
聞き取れない声で喋っているのか、そもそも省略されてしまっているのか、眠気のせいで重要な主語がことごとく抜けた追加情報があった。
だが、要は、ミサキちゃんにもこのような文様があったのに、当時の私には見えなかった。
つまり契約をしていない一般のピーポーにはこの印は見えない、ということか。
私はだいぶ頭が冴えてきている。
おそらくホラー映画を見ているときに自分より怖がっている人がいると冷める現象的な。
自分より眠そうな人がいるので、目が覚めてきたのだろう。
それにしても、私はニコと契約して、ユニコーンの紋様が手の甲にある。
ということはミサキちゃんには猫耳の、ついでにサトミさんにはアカネちゃんの紋様が!?
なんか、そこはかとなくいかがわしいな。
「なぁにがですか…?」
と言いながらもニコは眠気が限界に来たのか、頭が前に倒れ、私の体に寄りかかる形となった。
というか、眠いというよりも、酔ってるっぽいなこの動き。
「よってな…。」
そう言いながら、ニコはまた眠りの世界に落ちていったようだった。
暫しの間。
何せ眠る美少女に寄りかかられるという男子垂涎の状況に女の私がなるとは思ってもみなかったのだ。
脳はフリーズする。
とは言えこのままでもいられない。
ここはこういう状況の時お決まりのあのセリフを…。
「寝るなー寝たら死ぬぞー。」
「はっ!」
思ったより早く戻ってきた。
「あ…ん?すみません!カナコさん!」
どうやら私に寄りかかっていたことに気がついて謝っているらしい。
そういえば、もはやこれくらいのスキンシップには違和感がなくなってきている自分がいる。
恐るべし可愛いかつ天然の子の心に入り込む能力とでもいうのか。
「て、天然じゃないですよぅ。」
それはどうかな?
「んな!?」
…というやりとりを一生しているという人生も悪くはないが、そういえばここがどこか今がいつかも私はわかっていないのだった。
「私はいいですけど、これだけで人生終わったら無駄にした気持ちになりませんか?」
いや、私は一向に構わんのだが、とはいえ、ずっとこのままでいるわけにもいかないのはその通りだ。
屋内だし、アカネちゃんもいたし、安全な場所ではあるだろうが…。
とりあえず立ち上がると、自分が昨日の服のままだと気がつく。
スマホがいつもの位置にあるから予想はできていたが。
というか、他の服に着替えさせれてたら結構びっくりするけども。
ちなみに私の服は普通の芋ジャージだが、昨今はジャージをファッションとして認める風潮が出てきて、この服で外に出られるのがありがたい。
いや、そんな風潮なくても、服はこれしかないので私はこの服を着て外に出るが。
というか、自分の服なんて着ている間は普通意識しないが、芋ジャージで魔法少女と契約って面白いな。
「…おかしいんですか?」
前提が通じていない時の質問だなそれは。
確かにニコは貴族らしいし。ファミレスも知らないんだから、ジャージがそもそもそういうファッションと思い込んでいてもおかしくない。
というか、ファミレスどころかレストランの存在も怪しかったよな…?
でも考えてみれば、レストランは高級な食堂とかいう意味じゃなかったっけ?
「いやそれは…。」
ニコは苦笑いをしている。
「おーいお二人さん。起きているんならこっちきてー。」
アカネちゃんの声が、先ほど出ていった襖の向こうから聞こえてきた。
どうやら自分たちから何かしなくとも、ここは敷かれたレールの上らしい。
敷かれたレールを外して歩き出すような人生を送ってきた私だ。
正確には歩き出して遭難するような人生だが。
とにかくそんな私には人の言うとおりにしていればいいというのが驚きだった。
行かねば。
そう思い、横にまだ座っているニコに手を伸ばす。
「ニコちゃ…。」
「ニコでいいですよ?」
ん立って。って言おうと思ったんだけど…。
カッコつけさせてくれよ!
「あ、ごめんなさい。」
と言いつつニコは私の手を取った。
彼女の体を引き上げようと引っ張ると、思ったよりはるかに軽い。
「じゃあ私もカナコで。」
そもそも名前呼びにも違和感があるのだが、それに関しては、どうやらこの界隈は名前呼びの人間が多そうなので諦めるとしよう。
ニコはその言葉を聞いて一瞬驚いた顔をしていたが、やがて嬉しそうに笑った。
そして私たちは二人並んで歩き出した。
〜次回予告〜
カナコ:「これでひとまず『第一章、完!』って感じかな。」
ニコ:「今のところ、契約したこと以外何も話進んでないんですけどね…。」
カナコ:「まぁまぁ、一瞬の出来事を一冊の本にしちゃう小説とかもあるわけだし。」
ニコ:「そうなんですか?」
カナコ:「時空が歪んでるせいである一年をループするというのもあるあるだし。」
ニコ:「時間がループ…すごく高度な時空魔法ですね!」
カナコ:「本職だとそういうコメントになるのか…。」
ニコ:「本職…?」
カナコ:「というわけで次回は総集編的な何か。私とニコが出会ってから契約するまでにあったことや、出会った人をまとめていきます。」
ニコ:「半日でだいぶいろんなことがありましたからね…。」
カナコ:「一日でこんなに人に会ったのすごく久々だったよ。」
ニコ:「いつもどんな生活してるですか!?」
カナコ「まぁまぁ、それはおいおいってことで…。」
ニコ:「それもそうですね…。というわけで次回は『幕間:前回までのあらすじ1』をお送りします!」
カナコ:「お楽しみに…っていうの最近毎回私が言ってるような…。」
ニコ:「じゃあせっかくですし二人で言いますか?」
カナコ:「じゃぁせーので?」
ニコ:「おたの…っじゃないんですね。せーのでいいですよ?」
カナコ:「じゃあせーの!」
二人:「お楽しみに!」
幕




