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第二十一話:ユニコーンと契約に鈍い痛みを添えて…。

 二人に導かれ、社殿の前までやってきた。

 社殿から漏れる強い光の中で、アカネちゃんを改めて見る。


 アカネは私やサトミさんほどではないが背が高い方だ。

 男性の理想をそのまま具現化したようなスタイルのサトミさんに対し、アカネちゃんはスラットした体つき。服装は同じ巫女服。


 髪型はショートの茶髪。

 その色は、暗闇でよくわからないが多分ミサキちゃんの髪より濃いし、癖毛だ。

 さらにその髪の毛の中から、丸っぽい耳がのぞいている。

 あの耳は…。


「タヌキ…?」


「お?お?お?よくぞお気づきですね!」


 思わず口に出してしまったようだ。

 アカネちゃんからハイテンションな返答がある。


 稲荷の神の使いといえば、狐のイメージだったが。

 明らかにキツネでない耳にびっくりしてしまったのである。


「アカネちゃんは神狸族。つまり、神使の狸の一族なのですよ!」


「意外やった?実はウチの神社におるんは狛犬ならぬ狛狸なんよ。」


「は、はぁ…。」


 考えてみれば、狛犬…狛狸?は確かに獅子でもなければ狐でもなさそうな不思議な見た目をしていたのを思い出す。

 本当に獅子でも狐でもなかったのか…。


 引きこもり期間が長すぎて、自分が住んでいる地域のことですら知らなかった。

 そもそもここに引っ越してきたのも一年前だし、そんなものか…?


「さてと。じゃあ始めよか。」


「は、はい。」


 ニコが返事をする。つられて私も頷く。


 途端に空気が明らかに変わる。


 ミサキちゃんがハコニワシステムとやらを起動するタイミングにも集中力というか気のようなものを感じた。


 だが、この二人はその比ではない。

 言うなれば逃げ出したくなるほどの圧倒的な重圧。

 視界がワントーン暗くなったように感じるのも、日が傾いているからだけではないだろう。


「契約者音羽サトミ、守護者代行として、ここに魔法少女と人間との契約を仲介する。」


「魔法少女第二種、神狸族神使アカネは音羽サトミとともに契約を仲介する。」


 アカネちゃんも、これまでのハイテンションキャラはどこ行ったんだと言いたくなるほどしおらしい。

 むしろこの方が素なんじゃないかと思うほど、静謐な雰囲気を纏っている。


<魔法少女と契約予定者を確認。>

<守護者代行の権限を確認。>

<魔法少女と守護者代行の仲介を確認。>

<契約の儀式を開始。>


 先ほどと同じ、どこからともなく聞こえてくる機械音。


「左手を出してください。」


 ニコが私の正面に立って言う。


 私は恐る恐る左手を差し出す。

 すると、ニコの柔らかい左手が私の左手を取る。

 その感触は、今日のお昼に出会ったばかりの時に感じたものと同じ。

 もはや全てが懐かしい…。


 結果として私とニコが左手で握手する形となった。

 そして、その状態になると機械音が続きを話す。


<魔法少女ユニコーン族ニコと角谷カナコの第三種契約を開始。>


 その言葉と共に、どこからともなく青白い糸のようなものが私とニコの手に絡みつく。


 驚いたが、声が出ない。

 ビジュアルは気持ち悪いが、感触はない。


「私の手を離さないでくださいね。」


 ニコが真剣な表情でいう。

 セリフだけ聞くと愛の告白みたいだが、そんなこと考えている場合でもなさそうだ。

 てへっ!


 とかなんとか考えている間にも、青白い糸はだんだんと分岐し、手のひら全体を覆い尽くす。

 そして、私とニコの手のひら青白い発光する超常物体と化したころ、今度はひりつくような痛みが手の甲に走った。


「うっ。」


 突然の痛みに声が漏れるが、言われたばかりなので流石に手は離さなかった。

 偉いぞ、私。


 ニコを見ると、声こそ漏れなかったが、だいぶ痛そうな顔をしている。

 どうやら、このダメージは二人に同時に入るようだ。


 痛みはだんだんと移動している。

 棘のついたミミズが手の甲を這い回っているような、そんな感じだ。

 あるいは、焼かれているような気もするし、クラゲか何かに刺されているような気もする。


 不思議な感触だが、何にせよただただ痛い。

 痛みが耐えきれないほどではなく、むしろ手加減されてる感じがするのが逆に嫌だ。


 しかも、それが結構長い間持続しているのが不快でもある。

 思わず、手を離したくなるほどだ。

 だが、コックリさんの十円玉を離しちゃいけない的な感じで、離すとまずい可能性もあるので離すに離せない。

 ニコとの約束でもあるわけだし…。


 ニコを見ると、声こそ漏れなかったが、だいぶ痛そうな顔をしている。

 どうやら、このダメージは二人に同時に入るらしい。


 こんなに痛い意味があるのだろうか?

 魔法少女の数など想像はできないが、自分の身の回りに少なくとも一組いたのだ。


 さらに守護者と呼ばれる人間が、一つの町に幾人もいるような口ぶりだった。

 そんな人数の人がこれを経験してきて、なぜ改善しようとしない?

 職務怠慢だ!


 ってそんなことを考える余裕があるくらい時間が長い。


 不敵にも不適なことを考えながらぼうっとしている。

 痛みもやっぱり慣れがあるもんだなぁ。

 とか思っていると、ニコちゃんと目が合う。


 だいぶ初めにあった集中力も切れてきている。

 ぼうっとしている自分がどんな間抜けヅラしてたかとか、そもそもこの思考もみんなニコには伝わってるじゃんとか、今更なことを思って照れる。


 私が苦笑いしていると、ニコが何を思ったか笑い返してくる。

 ニコが可愛すぎて気が回っていなかったが、彼女も案外ボケッとしていたのかもしれない。


 いやしかし握手した手の甲から発光しながら、その痛みに耐えつつ照れるとか、脳のキャパオーバーして爆発しそうな状況だな…。


<契約の儀式を終了…。>


 機械音声とともに、しばらく続いた不快な痛みが消えた。

 と同時に、青白い糸の塊は夕闇の中に弾け飛んで消えた。

 青白い炎で線香花火したら、散り際はこんなかもしれない。

 風流だなぁ。


「…わりとぬるっと終わったね。」


「あはは、まぁそうですね。契約をするだけですから。」


 そういえば、久々に言葉と言葉でニコと会話した気がするな…。

 いやむしろまともな会話は初めて?


 とかなんとか、安心したのも束の間だった。

 次の瞬間には、私とニコは、握手をしている状態のまま腰から崩れ落ちていた。

〜次回予告〜

ニコ:「とうとう契約が成立しましたね!」

カナコ:「そうですねぇ、現在のお気持ちどうですか?」

ニコ:「いきなり実況解説みたいな喋り方ですね!?」

カナコ:「なんか、直前にあったスリリングな出来事が印象的すぎて、契約で起こった出来事が全然記憶にないんですが。」

ニコ:「ついさっきのことなのに!?」

カナコ:「というか、私たち倒れちゃってますけど、大丈夫なんですか?」

ニコ:「まぁ契約の前にも色々ありましたし、契約にも集中力やエネルギーを相当消費しますからね。」

カナコ:「痛かったのもそうだけど、魔法も何かと不便だなぁ。」

ニコ:「まぁ、本当に魔法ってできることとできないことがありますからね。」

カナコ:「ていうか、ユニコーンが神社にいるっていう状態、改めて考えると、だいぶびっくりドッキリ状態だよね。」

ニコ:「なんですかその…?」

カナコ:「あ、これ本当に伝わってないやつだ。ジェネレーションギャップ。」

ニコ:「私今14ですよ!?カナコさんは19歳ですよね?」

カナコ:「まぁそうだけど。そうじゃない。」

ニコ:「ん?ん?」

カナコ:「ところで次回は?」

ニコ:「次回は『第二十二話:眠気に負けてるからネタが繰り返しだけど仕方ないよね?』ですね。倒れた後に何があったのかっていう話ですね。」

カナコ:「お楽しみに。」

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