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第十六話:二人一緒でみんないい。

「って、一日中…?」

 それはつまりおはようからおやすみまでってこと?

 おはようからおやすみまでの魔法ってこと?


 あるいは揺り籠から墓場までってことか?

 魔法少女は人生の墓場ということか?


「一応規定では、そういうことになっていますね。」

 常識人っぽいミサキちゃんまでそういう。

 それは健全な青少年の育成のためにも不味くないのか?


 それともそれほどまでに私の状況がまずいのか?

 いやまぁ一日に五回も六回も死にかけるのは確かにやばいが。


「負のエネルギーが溜まり続けると危険ですよ?」

 ニコもそう言って加勢する。


 なんかだいぶ胡散臭い話だなっ、本当に。

 なんかの宗教みたいじゃないか?

 あの宗教みたいに、あの宗教みたいに!


「特に、ミサキさんは考えすぎるタイプですから…。」

「まぁ、これに関しては基本的に生まれつきの体質ですから、負のエネルギーが集積する体質のせいでそういった性格になる方も多いと聞きますが…。」


 でもやはり納得できない。

 そんなのが自分だけの身の上に起こっているとは思えない。


 自分より酷い環境で育つ人間はたくさんいる。

 自分より辛い目にあってきた人間はたくさんいる。


 現にテレビにしてもネットにしても、毎日のようにそう言ったニュースを運んでくるではないか?

 なのにこの私ごときが他者の救いを受けられると?

 もっと救いを求めてやまない人間もいるのに?


「それは…。」

 ニコが口を開く。

 いつものフワッとした印象があまりない。

 キリッとした美貌に一瞬気後れしてしまったほどだ。


「私たちにできることが、その程度だからですよ。」

「えっ?」


 真剣な表情から放たれる、残酷な言葉。

 それもあのドジっ子っぽくていじられキャラっぽいニコのいうこととなると…。

 あまりのことにフリーズする。


「魔法は万能じゃないですからね。」

 私の心中とニコの会話の内容を察したのか、ミサキちゃんも同じトーンで付け加える。


「魔法でいじめや貧困をなくすことはできないですし、事件を解決できる力はあるかもですが、日本中、世界中の事件を解決するには、魔法少女の数も契約者の数も足りません。」

「それに、我々はあくまで影の存在ですから。表立ってこういった活動をすることもできません。それに、事件解決のために警察などの機関があるように、我々は魔法に関する事件を解決するためにいます。社会に影響する可能性のあるものを事前に除去、あるいは封印する…先ほども言ったとおりです。」


 これまでとはうって変わってニコとミサキちゃんの息がぴったりなのだが、それにつっこむだけの余裕が今の私にはない。

 なんだこの唐突に日常系からシリアス系に一変する感じ?

 これがいわゆるオープニング詐欺的な?

 って、そんなことを言っている余裕もやはりない。


「でもじゃあ、なんで私?」

 人手が足りないなら、より一層もっとやばい人の元に行くべきでは?


「だからこそ、カナコさんなのですよ!」

 ニコが立ち上がって私の目をじっと見て頷く。

 その口調はいつもの、ちょっと間の抜けたニコのものに戻っていた。


 ニコがニコッと笑かけてくれる。

 私の、そしてこの場のシリアスになった雰囲気を一掃するかの如く。

 だがそれは、他人の心を救うための不自然な笑顔だった。

 なんだか、無性に泣きたい気持ちになった。


 それでも、話題が本題に戻ったことで、少しだが、空気が弛緩したのを感じる。

 思わず胸の中に溜まっていたモヤモヤした空気を吐き出す。


「社会の負のエネルギーの総体を減少させるのに、それが集まってくる人物を祓い続ける方が、社会に散り散りの負のエネルギーを一つ一つ祓うよりも遥かに効率的なのですよ。」

「それに、カナコさんがモヤモヤするなら、私たちで問題を解決していくこともできるかもしれませんよ?」

 今度はミサキちゃんの言葉にニコが続けた。


 なんかの広告のようになってきているような…?

 テレビショッピングかな?


 だが、彼女たちの言葉には、普段生きていてはなかなか接することがないくらいの真に迫ったものがあった。

 それは絶望や諦観をも感じさせるもので…。

 私が信用するには十分なものだった。


 それは、何度も死にかけた経験よりも。

 それは、非現実的なものを矢継ぎ早に見せつけられたことよりも。

 私を信用させるに足るものだった。


 …まぁ騙されてたらその時だろう、という気さえする。


「…わかった。」

「うわっ。やったっ!ありがとうございます!」

 ニコの目がきらりと嬉しそうに輝く。

 そして自然な笑顔。


 短いのに長く感じたこの時間の間に、ニコとは不思議な絆ができたように感じる。

 そして、先ほどの悲しい笑顔ではなく、この自然な笑顔を、彼女がずっと続けていられればいいのに、と私はそう思った。

〜次回予告〜

ニコ:「いやぁ、カナコさんがわかってくれてよかったですよぅ。」

ミサキ:「シリアスな話になると、私たち二人では口調が変わらないですからね!」

ニコ:「そこですか!?」

ミサキ:「あぁ、これでやっと私も先輩に報告に行ける…かな?」

ニコ:「そういえば、その先輩って?」

ミサキ:「まぁ、それはおいおいですよ、おいおい。」

ニコ:「まぁいいですけど。とにかくカナコさんと契約できそうでよかった、ほんとに…。」

ミサキ:「その発言本日二回目なんですが…。」

ニコ:「というわけで次回からはとうとう契約本番ですね!『第十七話:ファミレスを捨て契約に出かけよう。』をお送りします。」

ミサキ;「お楽しみに!」

ニコ:「いやぁそれにしてもよかったですよぅ!」

ミサキ:「いや、三回目!どんだけ嬉しいんですか!」

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