第十四話:そこにドリンクバーがあるから。
何はともあれ、小さな問題も無事解決した。
とまれこうまれ、自分が置かれている現状も多少わかった。
万々歳のバンバンジーである。
まだ若干お腹空いてるな…。
とはいえ、若干の空腹などは、ドリンクで流し込むことができる。
何せ、私たちはドリンクバーを頼んだのだから…。
正確には、勝手がわかっていないニコと私に気を利かせて、イケメンなミサキちゃんが注文してくれたわけだが。
何かにつけて厨二病で可愛くてかっこいいミサキちゃんだ。
「何がいいですか?私持ってきますけど…。」
注文時に続いて、またもイケメンを発揮するミサキちゃんであったが、この提案は御丁重にお断りしたい。
何せ、何があるのか、全く未知数なのだ。
それに、ドリンクバーから飲み物を持ってくるのを他人に任せると、ろくなことがないと、古事記にもそう書いてある。
もちろん、イケメンミサキちゃん(略してイケミサ)がそんなことするとは思えないが。
こういう時には念には念を。セーブはこまめにねってやつだ。
違うな。
「あ、大丈夫です。私も行きます。」
「じゃあ私も…。」
私の言葉にニコちゃんも便乗し、結局三人で行くことになった。
私は野菜ジュース、ニコちゃんはラムネ、ミサキちゃんはコーラを入れてきて会話を再開。
確かに、ドリンクバーは他の注文と違って、店員が会話中にやってきて気まずくなるということがなく、確かに話し込むには理想的なメニューだった。
席も、窓際角の会話を聞かれにくい位置に陣取っている。
「さて、と。」
ミサキちゃんがコーラをガブっと一飲みしてから話を再開する。
「まずは何から話しましょう?ニコちゃんはまだ何も話せてないんですね?」
「はい…。」
「まぁ状況が状況でしたからね。今回はよしとしましょう。ニコちゃんはこの方の…あれ、そういえばまだお名前をお聞きしていなかったような…。」
ここで、ミサキちゃんはこちらを見つめてくる。
確かに私も何も言っていなかった。
ミサキちゃんの名前は聞いたので、すっかり自分の名前も言ったような気でいた。
ストーリーゲームでは別に名前を教えるという選択肢をとらなくとも、自己紹介はAボタンを連打しているだけで済む場合も多いので失念していた。
ニコはなぜか初めから私の名前を知っていたので自己紹介は不要だったのだ。
「角谷カナコです。」
私は初めて自分の名前を自分で名乗った。
こういうのは少しばかり恥ずかしいものだ。
新しい学校やらクラスやらで強制的に自己紹介させられる時を除いて初めて、自分から自己紹介した気がする。
「カドヤ…さんですね。よろしくお願いします。それでニコちゃんと角谷さんは…?」
「第三種の契約です。」
ニコちゃんが答える。
「ですよね。じゃあまずその説明からですか?」
「お願いします。」
今度は私が答える。
やっと長い間の謎が解ける。
長い間、とは言ってもこの二人と過ごした時間はまだ1時間にも満たない。
そう考えると、この一時間ほどは、随分密度の濃い時間だった。
すでにこの二人とは、私が中学なり高校なりの三年間で喋ったのより多くの言葉をかわしている。
くっ。また嫌なこと思い出しちまった。
今日はよく古傷が疼く日である。
「第三種契約は、魔法少女と交わす契約の一つです。魔法少女は、契約者とともに行動するのが基本なのです。
契約の形式は主に三種類。
第一種は最も古典的な形式です。強力な精神的契約で、一度契約してしまうと契約者を変えることもできなくなるような重大なものです。相互に負担や制約がなされます。三種の中では最も高度で、一般性も低い種類ですね。
第二種が対して最もポピュラーな契約。魔法少女とその契約者の本来の目的は世界をより良くすること。そのために魔法少女と人間が協力するための一時的な契約です。私とクロハ…猫耳のちょっと口の悪い子ですが、あの子もこの契約ですね。この契約の場合は人間もなんらかの能力があるものが選ばれ、先ほどのドラゴンのような、ややもすれば人間世界に影響を与えかねない悪性の魔法現象を除去、封印することなどが主な目的となっています。
そしてニコちゃんと角谷さんの場合は第三種契約。これは第一種二種とは趣旨が異なります。社会の中には表側とは別に暗部があります。そしてその陰の気…まぁ悪いエネルギー、負のエネルギーのようなものですね。それが集まってしまう体質の人間がいるのです。そう言った人物を救済するためのシステムが第三種契約。該当人物に集まった負のエネルギーを魔法少女が共に行動することで祓うのです。」
長い。
いや長い長い長い。
相手が厨二病の子なら(以下略)なくらい長い。
まぁ、それでも私には長い間ネタバレを読んで培った要約能力がある。
「つまり、世のため人のための第一種二種の契約に対して、私が該当している第三種は個人の救済のための契約ということでいい?」
「え?あぁ?え?はい、完璧ですが、よく今の説明でわかりましたね?」
「あ、あはは…。」
むしろわからないと思って説明していたのか、ミサキちゃんよ。
それはどうなんだ、という気もしないでもないが、まぁよかろう。
ここは寛容な精神で許すことにしよう。
結果的に私はわかったのだから、それでいいのだ。
〜次回予告〜
カナコ:「事実が明らかになってきましたね。」
ミサキ:「…というか、角谷さんって、思った以上頭が良かったんですね!」
カナコ:「思った以上にって…まぁ、ありがとうと言っておこう。」
ミサキ:「いやぁしかし、この説明結構してますけど、こんなにわかってもらえたのは初めてですよ!」
カナコ:「魔法少女の契約者ってそんなにいるんですか?」
ミサキ:「一つの地区につき年に一人二人って感じですかね…。」
カナコ:「多いのか少ないのかわからん…。」
ミサキ:「それにしても、角谷さんの初出でしたね、地味に。」
カナコ:「あらすじ読んで、この苗字なんて読むんだ?って思ってた人も、やっと謎が解けたことでしょう。」
ミサキ:「そんなこんなで次回は、とうとう明かされるニコちゃんの目的と、角谷さんの謎。」
カナコ:「『第十五話:社会は僕らの手の中ただし悪い意味で!』をお送りします。」
ミサキ:「お楽しみに!」
幕




