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第四十一話 薄氷は儚いもので

…夏季休暇、王都へ戻る馬車が来るのは明日になった。

 

 夜が明けて、昼よりちょっと前ぐらいの時刻に馬車が到着する予定で、それに乗車して向かうことになれば、いよいよ夏季休暇の終わりが近くなる。


「長い休みって、あると良いけど無くなると嫌になるよなぁ…程々なぐらいがちょうど良いのかもしれないけど、やっぱり長期休暇というのも甘美な時間になるのかな」

【そういうものでしょうか。なら、旦那様がお望みなら休みを長くできるようにしましょうか?】

「どうやって?」

【学園を人知れずちょっとだけ…ええ、少し授業が行えない状態にして、少し期限を延ばす感じにするだけですよ】

「明らかにアウトな行為だと思うんだけど!?」

【流石に冗談ですよ。…ほんのちょっと、本気ありましたけど】


 人との生活の中でやってはいけないことをしっかり学んでいるようだが、正直言って冗談には聞こえない内容だった。

 彼女の場合、通う前から王都破壊とかを口にしたりしたので、やろうと思えばできる実力があるから恐ろしくもある。


 けれども、少々怪しい部分があるとはいえ、本当にやらかされては困るのでしっかりをくぎを刺しておきつつ、後は忘れ物がないかの確認を行うだけになっていた。


「と言っても、ハクロの空間収納魔法で大体のものが収納できる時点で、忘れ物はなさそうだけどね」

【でも、確認して損はないですよ。えっと、教科書良し、夏季課題、着替え、お土産…ええ、全部入ってますね】


 ごそごそと空間に手を突っ込み、中身を確認するハクロ。

 どのような仕組みなのかはいまいちわからないが、とりあえず某青猫ロボットのようにどこに入れたのかわからなくなるような状態ではないらしいので安心できるだろう。

 

【えっと、その他色々と…うん、問題ないようです】

「良かった。それなら後はもうゆっくり寝ようか」

【そうしましょう。万が一、忘れ物があったら、旦那様のために全速力でここまで私が駆けて戻ってくればいい話ですしね】


 距離的に、そんな単純に済むのだろうか。

 いや、ハクロならば長い馬車の道のりもたった1時間で終えるとかやらかしてもおかしくはないだろう。

 それに、最初に出会った時よりも何やら実力が向上しているとか言う話も聞いたんだよなぁ…前に会った誘拐事件のこともあって、素早く動ける手段を増やしたらしい。


 まぁ、あんな事件なんてそんなにないだろうし、今は不安要素を考えずに王都へ戻った時のことを考えながら、寝れば良いかな。


 そう思い、ルドは気にしないことにして寝ることにするのであった…







【---ぐっすり寝られましたね、旦那様】

 

 部屋の明かりも消えており、本日はやや曇りの夜空のため、室内に入る明かりもほとんどない真っ暗な中、ハクロはまだ起きていた。

 魔獣であるからこそ人では行動しづらいような暗闇の中であっても確認が取れており、そっと優しくルドの頬を撫で、眠っていることを確認する。


 こういう、眠っているときこそ人は無防備になりやすく、そこを狙う輩が出たりもする。

 ルドの故郷の村…発展しつつある今、街へと変わりつつあるが、安心できる場所。

 それでも万が一を考え、警戒を怠るつもりはない。


 周囲には彼女の糸が気が付かれないように張り巡らされており、何かがあればすぐに感知して動くことが出来る。

 特に、こうやってかなりそばに密着する形でいれば、相手に襲させる隙すらも与えることはないだろう。


【ふわぁ…それにしても、私そこまで寝る必要がないはずなのに、すっかり眠気も得ているような…まぁ、別にいいでしょう。旦那様のためであれば、眠っていても一瞬で目覚める自信がありますからね】

 

 本来、ハクロは眠る必要性がないのだが…ルドと一緒に生活するうえで、いつの間にか眠ることに関しての機能が備わっていた。

 ゆえに、自身が眠ったときこそ一番ルドへの守りが薄くなるという危機感を密かに抱いていたりするのだが…それでも、瞬時に覚醒するだけの手立てはある。

 

 そう、例え魔獣という身を利用されて、悪しきものによって操られる可能性があっても大丈夫なように。

 そうなる可能性が微々たるものだと言われたとしても…いざという時に、動けなければ意味がないのだ。




 あの誘拐事件の時に、ルドのそばにいることが出来なかったからこそ、起きてしまった悲劇。

 すっかり治療されて、表面上の傷が無くなっているとはいえ…彼の中にある心の傷までは完全に癒されていない。

 少しづつ、埋められてはいるだろう。

 けれども、一度傷がついてしまったという事実を消すことはできない。



【だからこそ、そう言うことが二度とない様に…私がしっかりと、旦那様を守らないと】


 事件以来、ルド自身もいざという時に動けるように体力づくりをしている様子だが、そうたやすくいかないのはわかっている。

 着実に実力をつけてもまだまだ弱く、魔獣の身である彼女からすれば人間の強さは象に挑むアリのようなもので、全然足りないとさえ思えてしまう。


 それゆえに、絶対に自分が愛しい番を…ルドを守るのだと、心の底から決めている。



【ああ、それにしても不思議なものですね。番に会うまでは、私自身の命でさえも軽いものだと思えていたのに…何で、旦那様の命はこうも重たいのでしょうか。ええ、私にとって大事な大事な番の…いえ、それでは収められないような…愛しい人】


 眠っているルドを起こさないようにしつつも、そっと彼を持ち上げて抱きしめるハクロ。

 一人で番を求めて放浪していた日々でさえも、自分自身もどうでも良いと思えるほど他者への興味もかなり薄かったはずなのに、たった一人の番がいるだけで、こうも世界は違うのだろうか。


 王都の学園内で、女子生徒たちと仲良くなって話したりすることがあるが、その中で聞いた言葉を借りるのであれば、もしやこれが恋する心から産まれる感情なのだろうか。


【惜しいですね、旦那様がもう少し年齢があれば、大人であれば…もっと、深く旦那様の中へ踏み込めまたのに…むぅ、旦那様旦那様旦那様ぁ…】


 ぎゅううっと抱きしめたいが、力が強すぎると起きてしまう危険性がある。

 そのため、思いっきり抱きしめたい欲求があるにもかかわらずできないもどかしさに悶々としつつ、どうにかして自信を抑えるハクロであった…


【…あれ、もしかして私に睡眠欲ができたのって、もどかしい時間を一晩中感じることが無いように、精神的な自衛のための本能によるものなのでしょうか】


…ルドに影響を与えていることが多いハクロだったが、どうやら逆のものもあったらしい。





自身の本能によって、眠れということなのだろうか

そんな回答を見つけたようになりつつも、朝を迎えようとする

しかし、そう都合よく行くのかは…

次回に続く!!


…そろそろ(仮)外すべきか

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