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第三十四話 夢枕にあらずとも

…ホーホーとどこかの山から聞こえてくる、フクロウのような鳥の鳴き声。

 周囲の建物の明かりは消えており、水上都市の人たちは眠りについていた。


 ルドたちも例外ではなく、宿を取ってその一室で熟睡していた、


 宿の宿泊代金はハクロが持ってくれるのだが、今回はプチ旅行というのもあって、そこまで高い一室ではない。

 魔獣である彼女が一緒に入っても良い部屋があったのかと思うかもしれないが、観光地たるもの観光客を逃してはならないということなのか、種族関わらずに泊まれるようになっているらしい。

 むしろ、羽振りがいい客ということなのか良い部屋を選べたようで、一緒に寝ても十分な広さの部屋を確保できていた。



 そんな部屋の中で、一緒に熟睡していたのだが…


「んにゅ…」


 ふと、なんとなく目が覚めた。

 まだ、室内は暗く夜のままだけど、何でだろうか。


 そう、物凄くふかふかなベッドの上だし、頭のほうも柔らかな枕が包み込むように…


むにゅぎゅぅ

【ふふふ、旦那様ぁ…すぴぃ】

「って、ハクロが抱きしめているのか…】


 どこをどうしたのか、室内に就寝用のハンモックを作り上げて寝ていたはずのハクロだったが、反目から見事に滑り落ちて、ベッドの横にまで来ており、上半身の人型部分でルドの体を抱きしめて爆睡していた。

 大事に抱きしめており、この拘束は抜け出しにくいだろう。


「あ、でもこれ一歩間違えたら窒息死の危機か…だから、本能的に目が覚めたのかな?」


 あとちょっとずれていたり体の向きが間違えれば、かなり情けない死因になっていた可能性がある。

 いや、世の中にはそれはそれでと思う人もいるだろうが、流石自分の身に起こるのはやめてほしい。


 さて、起きて自身の命の危機回避をできるようになったのは良いのだが‥ここからどうするかが問題である。

 物凄く気持ちが良さそうに熟睡しているハクロをここで起こすのも忍びないし、かといって何もせずにもう一度眠りにつけば、そのまま永遠の眠りにつく可能性も否定できない。


 というか、学園の寮で一緒に寝ていたりする時はこんな寝相の悪さはなかったとは思うのだが…環境がちょっと違うせいなのだろうか。

 水上都市は湖の上に浮いているからこそ、完全に消しきれないのか宿の部屋でもわずかな揺れは感じるが、気になるようなものでもない。

 その微妙なものが影響を与えているのであれば…いや、今はそのことを考えずに、命の危機を穏やかにさらさせるほうが良いだろう。


「そうなると、ハクロをもう一度ハンモックの上に戻すか、横へずらすか…できるかな」

【キュル…んにゅ、旦那様好き好きぃ…】

ぎゅぅぅぅ

「…や、やりづらい」


 普段一緒に過ごしているが、こうやってドストレートに投げてくる好意をみると、跳ねのけづらい。

 そもそも、力の差があるので剥がしようもないし、抗いがたい柔らかさと温かさかある。


 ぐいっと腕で押せばふみゅっとした柔らかい感触と…


【にゅにゅ…旦那様ぁ】

ぎゅぅっ

「余計に食い込む結果に…!!」


 ぐいっと引き寄せられて、より彼女に包み込まれる形になってしまった。

 程よい暖かさと柔らかさは本当に抗いにくく、このままでは非常に不味い、


 どうしたものかと悩みつつ、再びやってきた眠気にも襲われ始めた…その時だった。


『---』

「…ん?」


 今、何か妙な声が聞こえたような気がした。

 人の声のようなそうでもないような、何とも言えないような音が聞こえたが、何かをしゃべっているようにも感じ取れただろう。

 こんな真夜中に室内へ届くような音が聞こえるのかと思ったが、ほとんどの住民が寝ているはずなので音の立てようがない。

 

 中には夜更かしをしてどんちゃん騒ぎをするような輩がいるかもしれないが、そういう騒いだような声ではないというか…外から聞こえてきたというわけでもないようだ。


『---』


 何かが響いているのはわかるが、耳を澄ませてもはっきりとはわからない。

 でも、何かを伝えたいような声なのには間違いなく、このまま聞こえなかったこともにもできないような…


【んにゅ…キュル…何でしょうか、今の声…】

「あ、ハクロ、起きたんだ」

【キュル…ふわぁ…あれ、旦那様が私の寝床に…?水上都市の宿、暑くなりつつ今日この頃でも、夜はちょっと寒かったのでしょうか…ふふ、旦那様、私がゆっくりと温めてあげますよ…】

「違う、そうじゃない」


 まだ眠り足りなくて寝ぼけているのか、的外れすぎることを口にするハクロ。

 ふわぁぁっとあくびをしながらも、どうやら彼女もこの謎の声が聞こえたようだ。


『-----』

【ん?…キュル…何でしょう、この声?】

「あ、ハクロも聞こえたの?」

【はい。私、耳が良いので小さな声も聞き逃しにくいというか…いえ、これはむしろ…】


 ふと、何かに気が付いたようにハクロが体を起こして起き上がり、足の一本を上げてコンコンっと床を叩き始める。


【キュルルルル、キュル、キュル…うん、これ水中からの音ですね】

「何かわかるの?」

【はい。どうやら、振動に声をのせて伝えてきているようです。特殊な発声法ですが、知り合いに似たような方法で連絡してくる魔獣がいましたので…ええ、これはそれと同じ方法でしょう。振動音を解読できる魔獣ならまともな会話に…そうではなく、たまたまは波長が合うような人には、中身が見えるか見えないかのような会話音になるもので…旦那様は後者ですね。波長が聞き取れそうなところをかすめていますけど、ずれているので聞き取れないようです】


 モールス信号とは違う形の、振動による連絡手段らしい。

 ハクロははっきりと解読できるようで、どこから来ているのか、その内容は何なのかわかっているようだ。


【キュ、キュルル、キュキュキュルッ…なるほど、発生源は湖底からです。大きな、魚のような魔獣が伝えてきています】

「何て内容だ?」

【えっと…海から、やばいのが来る。誰か、倒してほしい…とのことです】

「海から?え、シャケかな?」

【違うようで…何やら、こうも言ってますね。『食っちゃね生活、存亡の危機。人いなくなる、湖管理されなくなる、餌無くなる、ぐうたら生活の終焉、嫌すぎる』…ですね】

「湖底に住まうニートの類なのか?」


 異世界にもニートという単語があるのかは不明だが、どうもそれっぽい様な気がしなくもない。

 それでも、こうやって伝えてきている以上、何かがあるのは間違いないだろう。


【どうしましょうか、旦那様。海からもう間もなく何かが逆流して到達してくるようですが…】

「うーん、内容にツッコミどころが多いけど…何かを伝えようとしているのなら、確認してみたほうが良いのかも。ハクロ、ちょっと外を見に行こうか」

【わかりました】


 流石に寝間着のまま出るわけにもいかず、すぐに着替えてルドたちは宿の外に出た。

 真夜中ゆえにあたりは寝静まっているので、そんな危険なものが来るようには見えなかったが、高い場所へ登って、海へつながる川のほうを見て…何が来ているのか、ようやくわかった。


「あれは…なんだ?月明かりで照らされて、見えるのは…巨大な魚?」

【表面が蠢いて…どうやら、魔獣になった何かの魚ですね。しかも、かなり大きいです】


【ジェゲェェェェラァァァァァァァァァ!!】


 姿の目視ができたころ合いに、その巨大魚の口が開き、大きな咆哮を上げた。

 その巨大な音には驚かされて、寝静まっていた水上都市のあちこちですぐに明かりが灯り、人々がドタバタと起き始めるのであった…

真夜中の水上都市に、突如強襲する巨大な魚の魔獣

寝静まっていた人々には寝耳に水過ぎる出来事であり、大慌てになる

さて、一体どうするべきか…

次回に続く!!



…ほのぼの平穏タイム、突然の魚の手によって終了

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