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第三十三話 プチ旅行はプチッとな

…プチ旅行。

 それは、本格的な旅行とは違い軽めの…と説明しても、いまいちピンとこないだろう。

 単純な日帰り旅行と比べるとより深く旅を楽しめるが、完ぺきな旅行かと言われるとそうでもないような、近場のようで遠場を選んでいるような、妙なものになる。


 まぁ、そんなことを気にするのはどうでも良い話であり、ルドたちは今プチ旅行先として選んだ場所に訪れていた。


「本当は大人も一緒のほうが良いけど、ハクロが保護者扱いで大丈夫っぽいな」

【うーん、私は保護者じゃなくて旦那様のお嫁さんなのですが…一緒に過ごせるなら別に良いですかね】


 どこぞやの青狸ロボ扱いに近い部分も感じなくもないが、今、ルドたちは旅行先として海の上ではなく、王国の領内最大の湖であるガルトニア湖…その上に浮かぶ水上都市アクアトニアへ訪れていた。


―――

水上都市「アクアトニア」

表面積がとんでもなく広いガルトニア湖の上に浮かぶ、水上都市。

国の観光地の一つとして成り立っているが、水上ゆえに不便なことも多い。

けれども、その分豊かな湖の恵みにもありつきやすく、そこそこ発展している。

なお、あちこちの川から水が流れ込んでいるが、海へつながるのは一つの川しかない。

―――


「それにしても、メダルナ村…いや、今はメダルナ街へと変わりつつある場所から、ここに来る馬車があったとはね」

【発展した分、他の観光地との連携を強化してより利益を上げるために、便が増設されたそうですよ】


 一か所だけの利益だけではいずれ限界が来るのが目に見えている。

 だからこそ、他の観光地とのつながりを持つことでお互いに旅行客を行き来させまくり、経済的な循環を発展させようという取り組みが出来つつあるらしい。

 そのおかげで、この場所へプチ旅行するという目的ができたのだが…こうやって実際に訪れてみると、他では得られない体験があっただろう。


 広さは琵琶湖よりも広い感じだが、塩湖というわけではないので海と違って浮力は弱く、万が一溺れたら危険な場所。

 それゆえに、あちこちに溺死防止のために浮き輪や小さな小舟が設置されており、うっかり踏み外す人がいないように柵も張り巡らされている様子。


 柵があるのはちょっと景観に影響しそうだが、それでも広大な湖の景色というのはなかなかお目にかかれるものではなく、見るだけでも面白い。


「それに、何もいないわけじゃなくて生態系もかなり豊富らしいね。ほら、湖の下をちょっと見るだけで、色々と綺麗な魚が泳いでいるよ」

【んー、おいしそうなものもありますけど、様々な色があって綺麗だという印象のほうが強いですね。見ていて飽きない感じがありますね】


 ちょっとした水族館…いや、水槽の中には収まらない広大な水が醸し出す水のパノラマというべきだろうか。

 下の方に広がる景色のためにか、下がガラス張りのように半透明になっており、都市の上にあっても見ることが出来るのは面白いだろう。



 なお、普通のガラスだと耐久性やそもそも都市が築けないレベルだとは思うが、どうやらただの透明な板とかではないらしい。

 なんでも、ある魔獣の殻を加工して出来上がった産物らしく、並のガラスよりも圧倒的な耐久性を誇ることから、遠距離からの狙撃に備えての防弾ガラス代わりにも使用されるほどの代物らしい。


【多分、クリスタルワームの抜け殻ですね。マグマの海を泳ぐこともある巨大なミミズのような魔獣でありつつ、温厚な性格で抜け殻を提供してくれやすいそうですよ】

「水とは違う極端な場所で生活している奴のか…抜け殻は土管状になっているって言うけど、どうやってこんなに平らに加工できるのかな?」


 加工技術に驚きつつも、ルドたちはせっかくのプチ旅行なのであちこち見て回って楽しむことにした。


 蜘蛛の魔獣であるハクロは最初こそ訪れたら驚かれるところも多かったが、この水上都市の材料も魔獣のことから、すぐに馴染めた模様。


「それにしても、加工できる材料があったとはいえ、何故ここに水上都市が形成されたんですか?」

「ああ、それはちょっとした理由があるんだよ」


 都市内で観光を楽しみつつ、ある屋台で昼食に焼き魚を頼みながら店主に尋ねると、快く説明してくれた。


 過去、この水上都市は建設する予定はなく、水抜きをしてまともに人が住まえる場所にしてしまおうという計画自体はあったらしい。

 湖ではあるが、ここに水を注ぎこむ大きな川がいくつかあるため、その注ぎ口を防いだり流れをどうにか工事で曲げたりすることで、自然と供給を失って干からびはずだったそうだが…先代のこの湖のある地を治める領主が、乗り気であったはずなのにある日突然やめることを宣言したそうだ。


 その領主曰く、ノリノリで計画を進めようと資金集めなどを行っていたある日、夢の中で誰かに会い、湖の水抜きをやめるように言われたのだとか。


「やめなければ、末代まで不毛の大地にすると毎晩言われ始めたようで…これはただ事ではないと思い、調べたそうだよ」


 すると、この湖に生息する水生の魔獣の中に、ある貴重な魔獣が混ざっていたことが発覚したのだとか。


「魔獣『ゴールデンシャケ』…ある魚の魔獣で、人の手で簡単に割けて加工しやすい奴だったんだが、名前にゴールデンが付く通り、金の卵を産む魔獣だったんだ」


 魔獣の中には何かしらの鉱物を精製するものもいるようで、その魚の魔獣はなんと卵を産むがその殻が黄金で出来ているらしい。

 ふ化直後に稚魚がすぐに食べるので量が少ないが、それでも多くの卵を産むため残りかすでも十分な量があり、まさに宝の球を生み出す魔獣だったようだ。



「そのまま湖を干上がらせては、二度と手に入らなくなる可能性が大きくて…ならばいっそ、その卵をより手に入れやすくするための水上拠点を作ってしまうことにしたようだよ」


 その結果、湖を利用するようになり、いつしか拠点は周囲の観光資源を活用し始めて、この水上都市に生まれ変わったそうである。


 今もなお、十年に一度ゴールデンシャケが遡上してくるようで、この湖で産卵を行い、その年には黄金を獲得して大量の資金が住民たちに配分されるそうだ。


 年一とまではいかないが、それでも定期的なボーナス的なものということで、領主の政策に誰も文句を言わず、むしろ豊富な資金を元手にして大型観光地へと変える余裕を持ち、観光客を呼び込んでさらに豊かになりつつあるらしい。


「へぇ、そんなことが…あれ?でも稚魚が孵化する前に卵を確保したほうが、利益が大きくなるような?」

「いや、それがそうもいかないんだよ。ゴールデンシャケ、魚の魔獣だけどどうも自然界ではとんでもなく弱いらしくて、うかつに狩ってしまえば戻ってくるものも戻ってこれなくなってしまうようで…それで、残りかすでも十分だから、見守っているような形になっているのさ」

【水上拠点にしたのは、他から目を付けられて乱獲されないように、監視の目を付けるための場所としての意味合いもあったようですね…】



 色々と考えて作られているようだが、そのおかげでここは旅行先として選べたのはよかったことだろう。


「あれ?でも結局、領主の謎の夢の原因が分からないな。貴重な魚の魔獣がいたことが分かったけど、その魚が訴えてきたわけでもなそうだよね」

「不思議なんだが、今となっては確かめようもないねぇ。何しろ先代は去年、大往生して逝かれてしまったからねぇ…今はそのお孫さんが新しい領主として経営しているよ」


 不思議な話だが、とりあえず領主の謎パワーによって失うことが避けられた話として、美談として伝わっているらしい。

 そんな話を聞きつつ、観光地をまだまだ楽しむことにするのであった…



「そういえば、そのゴールデンシャケって今年は見れないのでしょうか?」

「去年なら見れたよ。惜しいねぇ、あんたら。あの光景はなかなか面白いのにねぇ」

【遡上する大量の魚の魔獣…迫力がすごそうですよね】

「凄いも何も、やばいとしか言いようがないよ。何しろ、全身ムキムキ逆三角マッチョの筋肉の半魚人と言って良い魚の魔獣が、鍛え上げられた肉体を使ってスラムを組んで川を遡ってくるからねぇ」


…どういう光景何だろうか、それ。そんな見た目で自然界をあまり生き残れないって、この世界の自然界って相当厳しいのだろうか。


【あー、それでも確かに海で生活するなら厳しそうですよ。だって、あそこ人の手が入りにくいからこそ、魔境と言って良いほどやばいの多いですもんね】

「え、ハクロは海へ行ったことあるの?」

【何年か前に、海も放浪したことがあって…危うく旦那様に会う前に、死にかけたこともありましたよ。脱皮で今は何もないですけど、足数本ぐらいちぎられましたし…】


 チートの権化のような彼女がそんな怪我を負うって、この世界の海って相当ヤバそうなんだが…




不思議な話も聞きつつ、観光地になっている水上都市

ここで楽しんで、夏を過ごすのも良いだろう

でも、見たかったかもしれないな、そのゴールデンシャケの遡上光景…

次回に続く!!



…わかりやすく言えば、某インクイカに出てくる鉄球を投げてくる奴の鍛え上げまくった姿

いや、わかる人いないかもだけど…

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