二十二話 生きようがそうでなかろうが、利用できるようにはしている
悪意というのは、目に見えないことが多い。
いや、油断させて隙を見せた瞬間に、一気に飛び出すためには隠匿性が必要なのだろう。
だからこそ、静かに忍び寄る悪意は見つけにくく、気が付いた時には牙をむいて…
「おらおらおらぁぁ!!どうしたぜぇ、騎士さんよぉ!!それで守りにつく役所についているのかねぇ!!」
「ぐっ、黙れ賊ども!!ここから先は通さんぞ!!」
「とはいえ、もうだいぶボロボロだねぇ」
「うぐぅ…」
ぜぇぜぇと息切れをする一人の騎士。
その周囲には戦ってきた仲間たちがまだかろうじて息がある者や絶命したものなどが倒れており、激しい戦闘があったことをうかがわせるだろう。
そして、その戦闘を仕掛けてきた者たち…誰の手によるものかは知らないが、明らかに賊にしては十分すぎるほどの装備を持った集団がゲラゲラと余裕そうに笑っていた。
お互いに消耗しているところはあるが、それでも背後のほうで車輪が砕かれ、中で眠っている彼女を傷つけないように守りにしか徹せない騎士たちに対して、賊たちのほうはあらゆる方向から襲えるからこそ攻撃がしやすい。
そのうえ、もらっている装備品も…
「それにしてもすげぇぜ、この斧!!見た目こそ鈍重で扱いにくそうだが、持つだけでモリモリ筋肉が沸き上がるから、楽々と扱えるぞ!」
「良いな、これ!!ナイフや長剣よりもあっているなぁ!!」
守りに徹する側になっているとはいえ、騎士たちとて鍛錬は怠っておらず、腕には十分自身があった。
たとえ装備品が充実した賊たちが相手だとしても、負ける気はなかったのだが…それなのに、どういうわけか賊たちの強さがおかしい…いや、持っている武器が何かの魔道具となっているのか、普通ではありえないようなパワーを感じ取っており、それによって強さを増した賊たちに苦戦しているのである。
そのせいで今、賊たちはまだまだ健在な身なのに対して、騎士たちは既に倒れていたりするなどのぼろぼろな状況にされていた。
「ふはははは!!そこの馬車の中にいる眠り姫とやらをこのまま亡き者にしろと言うだけの話で、後は好き勝手やらせてもらえるようだが物凄く楽勝だ!!」
「お頭、ここは騎士たちを全滅させたら、中にいる眠り姫さんとやらを引きずり出して、遊ぶっていうのはどうですかねぇ?亡き者にするだけで、ただこの武器でぶった切って終わらせるのはもったいない話じゃねぇか?」
「それも悪くはないと思ったが…まぁ、残念ながらどうやら苦しみを与える間もなく、屠ってしまえと言う話だ。どうも見張っている奴もいるようで、そっちで話が漏れてばれたら元も子もねぇ。ここは安全優先で、やるのが手だろう」
「監視の者か…」
賊たちの頭が漏らした言葉を耳にして、つぶやく騎士。
やはりただの盗賊の類ではなく、何者かの依頼を受けて襲ってきている輩であり、なおかつ今なおこの状況で見張りをしている者の気配も感じ取れないことから、かなり上の者が手を差し向けたのだと推測できる。
だが、誰の手によるものなのかと特定するよりも今は、この状況が不味い。
「何にしても、楽しく遊ぶ時間は終わりだぁ!!」
ガァン!!
「ぐわぁっ!!」
斧が下から振るわれて剣を上に弾き飛ばされ、一瞬無防備になってしまう。
賊にしては早い動きでそのまま、上にあげた斧が下に落とされて鎧事バッサリ斬られるかと思われ、無念と騎士が諦めそうになった…その時だった。
【キュルルルルルルルルルルルル!!】
「「「!?」」」
突然、何かの鳴き声が響き渡り、その場にいた者たちの動きが止まる。
今のは人の声か?違う、そうではない。
もっと別のものというか、鳥や獣の類とは違うような…
「ハクロ、どう見てもヤバい現場っぽいけどどうする!!」
【決まっていますよ、旦那様!!こういう時は何やら不利そうな方々を助けるべきなのと…】
話し声が聞こえてきたかと思えば、次の瞬間には大きな白い蜘蛛のようなものが…少年を背負った、美しい女性が立っていた。
声が聞こえてからまだ数秒も経っていないというのに、瞬間移動をしたような速さで来たのだと理解しつつ、その女性はこぶしを握り締め、賊の顔面に叩きこんでいた。
ドゴメゴバギッ!!
「ぐべばぁっ!?」
【…何か嫌な気配のある武器を持った人を、倒すのが先決です!!】
人が立ててはいけないような音を出し、お頭と呼ばれていた賊の顔面がつぶれたパンのようになり、勢い良く吹っ飛ばされる。
「「「お、お頭ぁぁぁぁぁぁぁ!?」」」
何もできずに後方へ転がって、びくんびくんと痙攣するだけになった頭を見て、他の賊たちは思わず叫ぶ。
その気持ちはわからなくもないだろう。武器の力のせいなのか、かなり強さに自信があったらしい頭が、赤子の手のひらを捻るがごとく、簡単に潰されたのだから。
しかも、その頭を潰したのが少年を背負った蜘蛛の体と人の体を併せ持った美女だというのだから、情報量が多くて驚愕してしまうのも無理はない。
【キュルル…さてと、嫌な気配がしましたが…ええ、間違いないですね。あなた方の持っているその武器、ただの武器ではない様子です】
その場にいた者たちが突然の乱入者に驚愕する中、その美女は賊たちをぐるっと見渡してそうつぶやく。
何やら毛を逆立てて、相当警戒するような様子を見せており、油断をする気はないらしい。
あのお頭と呼ばれた強い奴を一撃で屠ったのであれば、どういう代物にしてもそこまで警戒するほどのものかと思ったが…どうやら、彼女の言っていたことは正しかったようだ。
「うぐぐぐぅ…な、なんばいばのば…」
びくんびくんと痙攣していた頭の体だったが、かなりのダメージを負ったはずなのにすくっと急に立ち上がった。
無事だったのかと周囲の賊たちがほっとしたような顔を見せたが、それは誤りだった。
その騎士は、気が付いた。頭の持っていた斧が、柄の部分から何か蔓のようなものが伸び出したことに。
それは頭が目を向けて気が付いた時には、全身を覆い尽くそうとしているほど素早く巻き付いていた。
「おごごべべぇ!?」
「な、なんだあれ!?何か武器から出ているぞ!!」
「お、お頭が蔓の塊になっちまった!?」
あっという間に巻き付かれて、巨大な蔓の塊となったお頭。
その様子を見て賊たちが騒ぐ中、蜘蛛の美女は眼を鋭くして塊を睨んだ。
【キュル…ちょっとやってしまったかもしれないです】
「え、どういうこと?」
【嫌な気配がいくつかあり、あの武器からしていたのですが…どうやら、健全なら別に良いですが、倒されそうになったら自動で発動するトラップが仕掛けてあったようです】
「つまり?」
【…今の一撃で、発動させちゃいました】
睨みつけつつ、冷や汗をかいた美女。
早い話が、今の一撃が強すぎてお頭は瀕死の重傷になっていたようだが、あの持っていた武器はその条件で発動する仕掛けがあったようで、作動してしまったらしい。
良くてそのまま騎士たちを全滅させ、悪くて軸の誰かがやられたとしてもそこから異常な何かを生み出す仕掛けの捨て駒として利用するようなものがあったようだ。
余計に嫌な予感を抱かされていく中、鶴の塊はどんどん大きくなり…
シュルルルルルルルル!!ドスドスゥ!!シュルルルル!!
「ぎゃああああああ!?」
「襲ってきたぞぉぉぉぉ!?」
「げっ、他の武器も動き、ぎゃああああああああ!?」
塊から鋭く伸びた蔓が一本ずつ賊たちを貫き、中へ取り込んでいく。
賊たちが持っていた武器もまた、同じく瀕死判定を確認したのか、同じように蔓が伸び出し、賊を取り込んで塊になったかと思えば、頭が取り込まれている蔓の塊に飲み込まれ、そして全員が入ったところで、変化が起きる。
ズゴゴゴゴゴゴゴゴ、ドゴォォォォ!!
巨大な蔓の塊が宙に浮かんだかと思えば、いくつもの蔓で出来た手足が生え、植物の化け物へと変り果てる。
塊部分を中心に形成されており、その中心部はばっくりと避けて、巨大な舌をのぞかせる牙だらけの大きな口へと変貌した。
【シャゲガァァァァァァァ!!】
「ま、魔獣になった、だと!?」
【キュル、これまたおっきなものが出来上がったようです!!】
咆哮を上げる、植物の魔獣。
よく見れば上の方にある蔓の先が丸み帯びて目玉のようになり、騎士たちの方へ向く。
そのまま、襲われ始めるのであった…
助けに入ったのは良いが、勢いが良すぎたらしい
相手の罠が発動したようで、やばいものが今、爆誕した
なぜこういう状況になっているのか、話はあとからしか聞けないだろう…
次回に続く!!
…しょっぱなからやり過ぎてしまった模様。




