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二十一話 影はどこからでもにゅるっと入り込む

…聖女の存在は魔獣から人々を守るために必要であり、怪我する人々が救われるために欠かせないものだったりと、色々とある。

 だからこそ、聖女が不足しているこの世の中では、聖女の存在が各国で求められていたり、失わないようにということで権限を持たせていたりするのだ。


 けれども、ある程度の優遇が約束されているが…その優遇を自身が利用したり、あるいは他者が裏から操ろうと企んだりする原因にもなりえるだろう。


 聖女になることが出来れば、あるいはその身を手に入れることが出来れば…善意ならばまだしも、悪意を持つ者も少なくはない。


 ゆえに今、その悪意ある者たちの手に狙われるのも当然出てしまうのである…



【キュルル…んー、王都そばのモチネンチャクノ林、良いかも!!結構おいしそうな木の実がたくさんあるよ!!】

「名前が変な林だけど、確かに色々な実があるなぁ」


 教会の顔出しも終えて、本日はどう過ごそうかと考え、ルドたちは王都のそばにある林の中に入っていた。


 モチネンチャクノ林…その昔、王都周辺で大規模な飢餓が発生した時に、当時の聖女が祈りを捧げて生み出された林であり、そこには大量の食用可能な木の実が自生している。

 名前がへんてこなのには理由があり、虫や鳥によって食べ尽くされないようにするためなのか、生えている木々には粘着性が強い樹液が常に生みだされており、下手に手を出せばべたべたとくっつきまくるのである。


 それを嫌って虫たちが寄り付かないために、常にきれいな状態の木の実を手に入れられるようになったようなのだが…逆に言えば、遠くまで種を運んだりするような鳥たちも近寄れなくなったために、そこまで規模を拡大できなくなり、森にまで成長できなかった場所でもあるらしい。


 とはいえ、そんなねばねば地帯を潜り抜ければ美味しい木の実が豊富に実っており、おやつ代わりの甘味として狙うのにはちょうどいいだろう。

 干したり焼いたり、お菓子に加工したりとできるので、来るだけでも十分に価値がある。



…まぁ、出来た当時に比べて年月を経たせいか粘度も相当上がっているようで、ここに足を運ぶ人はねばねばを潜り抜けられるだけの猛者しかいなくなったらしいが…初心者であっても、ハクロがいれば問題はない。


【ふふふ、普通に大ジャンプして飛び込んで正解でしたね!着地地点で葉っぱに突っ込んでねばねばする危険性もありましたが、触れる前に全部刈り取ったので無事に入れました!!】

「ちょっとずるいけど、この手段は一応正攻法…だよね?」


 人間以上の身体能力を誇るハクロであれば、ねばねば地帯の奥にある木の実の場所まで飛び越えることは難しいことではない。

 ねばねばした外装部に守られている林とはいえ、着地する前に刈り取られては意味がないだろう。


 なお、木を切り倒すことは禁止されていないのだが…まともな斧やのこぎりでは、粘度に負けて使い物にならなくなるので、やる人がいないだけだったりする。

 ハクロの糸は色々と使えるようで、今回は武器にもなる切断力が優れた糸をふるい、見事に刈っただけの話なのだ。


「それはそうと、村周辺のものとは群生が違うから、良いのをできるだけ選んでいこうか。こんなこともあろうかと、図書室から図鑑を借りてきたからね」

【甘い木の実が多いそうですが、中には滅茶苦茶渋かったり苦かったりするのもあるらしいですからね。そんな外れを引かないようにしましょう】


 収穫する際は慎重に、ねばねば部分を触れないようにしてもぎ取っていく。

 ちょっと手の届きにくい部分は糸を巻き付けて引き寄せ、周辺を少し刈ることで粘着性のある枝葉を避けて簡単に取れて、狙いたいものを取ることが出来る。


 


 そして収穫を楽しむこと30分ほどで、用意していたかごいっぱいになった。


【本当は、私の収納魔法でどれだけでも入れることが出来ますが…必要なものは、必要な分だけで十分ですからね。無理に取り過ぎることはないでしょう】

「これだけあれば、十分だよ」


 どれだけ大量にとっても、結局食べるのはルドたちである。

 他の人たちに分けたりもするが、それでも食べきれないだけ取る必要もないのだ。


【それじゃ、かごを丸ごと収納して…キュル?】

「ん?どうしたの?」


 木のみがたっぷりと詰まったかごを持ち上げ、ハクロが自身の収納魔法の中へしまおうとする中、ふと、何か気になったのか動きを止めた。


【んー、多分こっちの方向ですが…あまりよくない音が聞こえますね。何かが、戦っているようですね】


 かごをぐっと入れて収納しつつ、ハクロの表情が先ほどの喜んでいた表情から一転して厳しいものへ切り替わる。


「戦っているって、何が何と?」

【…人が、人相手にしていますね。魔獣の攻撃ではなく…この感じは、嫌なものです】


 気が付けばハクロの蜘蛛部分から生えている毛が少し逆立っており、警戒しているようだ。

 結構実力があるはずのハクロが、こうも警戒を示すのは珍しく、何かやばいものでもいるのだろうか。


【旦那様をここに置いて様子を見に…いえ、嫌ですね。悪意ある者が逃れて旦那様を人質に盗る可能性を考えると…こうしたほうがよさそうです】

「っと、固定か」


 ぐいっとルドの体が引っ張られ、ハクロの蜘蛛部分に乗せられる。

 振り落とされないように糸が結ばれて、さらに何重にも重ねて耐久性を高めた布もかぶせられる。



【少々、様子を見にいきましょう。…本当は安全な場所に旦那様を置きたいですが、すぐ近くにはないので、私の背中にしがみついてください】

「わかったよ」


 そうすぐには安全な場所というのはないので、ハクロの背中で守ってもらうのが一番良いだろう。

 固定されている部分もあるが、ハクロから落ちないようにしっかりとしがみついておく。


「それじゃ、行って良いよ、ハクロ」

【キュル、旦那様のぬくもりが直で感じられるのでこのまま過ごしたいですが…放置できなさそうなので、向かいましょう】


 言いながら手を動かし、飛び出すための穴を林に開ける。

 足に力を入れて、助走をつけて飛び上がるのであった…



【キュル、あっちの方向まで糸で木々を利用して加速します!!】

「リアル立体起動装置…こういう場所なら、ハクロの強さが増すよなぁ…」


…元々蜘蛛ゆえに、平地よりも何かと糸を利用できる場所のほうが、ハクロの強さが増すのだろうか。

 でも、そんな彼女が警戒しているとなると、何がいるのか…


嫌な気配を感じ、動くハクロ。

強さを持つ彼女が警戒するのは、どういうことなのか

人同士の争いであれば、彼女が介入すればあっさりと片付きそうなものなのだが…

次回に続く!!



…悪意とは、時として厄介なものになりうる

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