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二十話 地道に基礎を鍛えて

 入学してから三か月ほど経過し、王都内での暮らしには十分慣れた。

 あの誘拐事件での傷も精神も癒え、多少鞭の音がまだ怖くとも、怯えているだけでは前に進むことが出来ない。

 なので、ここは二度とあの事件に巻き込まれることがない様に強くなろうと思い、ルドは地道に体を鍛えることにした。



 とはいえ、そんな急に人が筋骨隆々とした逆三角形のようなマッスルボディを手に入れることはできない。

 そもそもルドの体付きとしてはそんな体型は向いていなさそうだし、まずは体力を向上させることを重点に置くことにした。


「それで、地道にランニングしているけど、ちょっとは体力が付いてきたかな?」

【うんうん、旦那様の体力は順調に向上していますね。息切れまでの時間や持続時間が長くなってきていますよ。でも、他の面ではまだまだなところも見えますね】


 朝早い、休日の学園の運動場内。

 走り込みをして少し休憩してつぶやくと、キュキュッと持ってきた記録帳に記入しつつ、ハクロがそう答えてくれる。

 しっかりと記録を取ることで自身のデータを見ることが出来るのであり、成長をより実感しやすくなるだろう。


 なお、朝早い時間かつ今日は休日だからか、他の生徒たちの姿はこの学園の運動場にはない…わけでもない。

 同じように体力づくりのために走りこむ人も少なくはないようで、他の人の走り方を見てフォームの研究もできていたりするのである。


…まぁ、ハクロの走り方は参考にできないけれどね。滅茶苦茶足が速いのはわかっているけど、流石に人の体に蜘蛛の足はない。

 むしろ、足が多いのによく転ばずに走るなと思う…蜘蛛って普通は蜘蛛の巣を張ってじっと罠にかかるのを待っていそうなイメージがあるから、そう早くはなさそうな気はしていたんだけどなぁ。

 でも、考えたら足が速い種類とかいるから、そんな珍しいことでもないのだろうか。


 あと、他に走り込みをしている人の中には、並走しているハクロを見ている人もいるような…うん、まぁそのぐらいは気にしなくていいか。生徒じゃないから自作のジャージを着たハクロの服装は、露出とかもそんなにない…はずだよね?




 とにもかくにも、朝の走りこみを終えて、食堂で朝食を取ることにする。

 休日のため、まだまだベッドで寝ている人もいるせいなのか、こちらの方も平日よりは人が少ない印象を持つだろう。


 ただし、早く起きないのはもったいないというように、実は先着順限定メニューがある。

 これに気が付いて朝早く起きさせ、しっかり早寝早起きの習慣を付けさせようとしている学園の密かな目論見が垣間見えるようである。健康的な生活は良いが、果たして自力で気が付く人はいるだろうか。


「えっと、今日は教会のほうに行く必要があるっけ」

【はい、一応私、聖女様の養女になっていますので】


 誘拐事件以降、今後の対策として聖女様の養子になったハクロ。

 基本的に戸籍上だけの扱いなので行動が制限されるというわけもないようで、関係者になって少々は聖女様から手配された影の護衛が付いているようだが、生活が大きく変わったわけではない。

 しいていうのであれば、こういう休日の時には、聖女様が王都内で祈りを捧げる教会へ訪れてほしい時があるらしい。


 こまめな接触で状態を確認する名目もあるようだが、やっぱり関係者になったということを印象付ける必要があるようで、こちらも地道な印象操作が必要のようだ。


「教会で祈りを捧げる聖女…ハクロも絵面で見れば、結構似合っていると思うけどね」

【いやいや、私は聖女様って柄ではないですね。そう、旦那様の素敵なお嫁さんになりますからね】


 ぐっとこぶしを握り、力強く言うハクロ。

 お嫁さんと聖女がどう違うのかはさておき…実はちょっとだけ、聖女様の方からその打診があったりする。



 聖女というのは、基本的に癒しの魔法や魔獣の侵入を防ぐ結界を張ることが出来る人であるが、たった一人しかいないわけではない。

 なんでもこの世界にはいくつもの神様がいる信仰があるせいなのか、あちこちで数は多くないが聖女は存在しているらしく、その聖女たちをまとめている聖女連合なる存在もあるらしい。


 連合の目的としては、例え信仰する神々が違えども、人々の生活の安寧を求めるということは一緒らしいので、まとめて各地に派遣し、平和貢献を行うそうだ。


 ただ、近年は聖女の数が多くないのに減少傾向にあるらしく、国の重要な都市などに結界を張れる聖女様がなかなか派遣しづらく、この王都にいる聖女様がそれなりに高齢なお方なのも、新任できるような聖女がいないそうだ。


 いわゆる聖女不足というべき状況で…無くても人の生活に支障はないそうだが、それでも魔獣が襲い掛かってくる可能性を排除ができればということで求める声も多く、中々需要と供給が合わないらしい。



 そんな中で、この王都にいる聖女クラウディア様曰く、どうもハクロにはその聖女になれる素質のようなものがあるので、出来れば試してほしいという打診を受けていたりするのだが…残念ながら、彼女にはその気はないらしい。


 そもそも、人間ならばいざ知らず、魔獣を防ぐ結界を張る聖女の役目を、魔獣がやるのはどうなのかという声もあるようで…前例がないからこそ、動かしにくいことのようだ。

 こうやって聖女様の養子になったことで、多少はやりやすくなった部分もあるが、結局はハクロのやる気次第なところもある。


 彼女が聖女になってもならなくても、意志を尊重されるようだから、無理強いをされることはない。

 でも、なれるならば…というような希望は持っているようだ。


 

 

「世の中の人が求めることって、中々かなわないよなぁ…」


 求めるが求め切れず、希望はするが可能性は低い。

 複雑な事情を知りつつも、彼女が好きなようにやれればいいかと思うのであった…



「…ところでハクロ、一ついいかな?」

【何でしょうか、旦那様?】

「記録を付けているのは良いけどさ、何で距離や時間だけじゃなくて、俺の身長や体重やら細かい情報まで一緒に続けて付けられているの?身体計測、入学手続き中に受けたものしかないはずなのだけど」

【ふふふ、私が旦那様の成長記録を完璧にしようと思いまして、目視でしっかり測定しているのですよ!一寸の狂いもなく正確なはずです!!】


…その後、学園内にある保健室へ向かい、自由に測れる測定器具を使用し、本当のことだと分かるのであった。

 ハクロ、それちょっと怖い。聖女様よりも、重度のストーカーとかに向いてないかな…?


ちょっとは強くなってきていると思いたい

体力があるだけでも、だいぶ変わるもの

知らなくてよかったことまで、知ってしまったような気がするが…

次回に続く!!


…見た目は確かに、蜘蛛部分とかを見ないようにしても聖女様って感じなんだよなぁ

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