第十四話 広々花々、狭々虫蟲
…王都へ来てひと月も経つ今日この頃。
学園内の寮生活のほうが基本的に生徒たちのメインの生活になっているのだが、この時期になると王都内への自由な散策が活発に行われ始める。
別に、最初から休日で思いっきり探索しても良いのだが、あちこちから集められてきた生徒たちは大抵慣れるまで中々寮から出にくく、この時期になってようやく適応して動きやすくなるらしい。
まぁ、二年生からはそんなこともなく、早々に遊ぶために出る人もいるらしいが…それでも僕らはまだ一年生の立場なので、時期を見て動き、慣れていくべきだろう。
「というわけでルンバ、クレヤン、村と違ってすごい広いし人の多いここで、俺たちが気を付けるべきことは何だろうか」
「やっぱり、不審者だろ?弱っちい子供だと、攫われる可能性があるからな」
「いやいや、親がこの辺りにいないし、裕福な商人の家の子でもないし、貴族の子供でもない俺たちに価値があるか?やっぱりここは、いかに迷子にならないかってことだろ」
「それがここで気を付けるべきことだったんだろうけど…」
「「「ここ、どこだろうか…」」」
村から仲の良い二人と一緒に、王都巡りに散策しに出かけたのは良い。
本日は休日でゆっくり羽も伸ばせるし、平民の学園では実は生徒たちに微々ながらも辺境から来ていることなどを配慮してお小遣いなども支給されており、ここで使うこともできる。
バイトはもっと上の学園から許されているので、それまではこの少ないながらも使えるお金を使って、やりくりしながら楽しめばいいわけなのだが…現在、俺たちはそろって迷子になっていた。
「いや、都市の真ん中のほうにある王城がでっかいから目印になるかな~って感じに思っていたけど」
「遠方から見れば目立つけど、まだ小さい俺たちだと周囲の建物が邪魔で見づらいし、人混みが多くて動きにくいし、どこにいるか把握できねぇ!!」
「おい、ルド。お前のハクロはどうしたんだよ!!」
「彼女なら、大きいし、しっかりしているから助けてくれそうなんだけど!!」
「あー…それがね、本当は今日のお出かけもハクロが一緒に来る予定だったんだけど…王都へ許可を貰った魔獣はひと月に一度の定期検診が義務付けられているみたいで、今日はいないんだよね」
聖女様の許可を貰い、入れるのであれば問題はない。
けれども、人が多い場所で過ごす中で隠していた危険性を発現させ、いつの間にか人を食べていたとかだったら最悪すぎるので、定期的にチェックを行う義務が生じるそうだ。
あとは普通に、人とは違う体のつくりをしている魔獣だから、その体内で未知の毒や病原菌がいないか、健康的かどうかなどの確認も行われて、そのデータは様々な方面で生かされているらしい。
実はすでにハクロの糸に関してのデータも上がっていたようで、普通のものとは違う耐久性や美しさ、切断力などから活用方法が見出されており、そちらの販売などもできないかという交渉も出ているそうだ。
「そのため、今日はちょっと別行動なんだよね」
いつも一緒にいたから、こうやっていない時間を過ごすのは久しぶりな気がする。
彼女が来る前はこうやって他の友人と遊んでいるときが多かったから、何事もなければこれが普通だったのだろうが…うーん、少し寂しい様な気がしなくもない。
というか、この迷子になる状況を防ぐためにも一緒にいてもらったほうが良かったという気さえするだろう。
「とはいえ、悲観的に考えていても仕方がないか…あ、そうだ」
「お?何かあるのか?」
「えっと、ここに…あったあった、生徒手帳」
「ん?それがどうかしたのか?それって俺たちがどこの誰かの証明書になるやつだろ?それが、この迷子の状況を好転させることができるのか?」
「そうだよ。一応、ハクロの収納魔法で持っていてもらうこともできるけど、直接持っていたほうがすぐに出しやすいし、いろいろと便利なものがあるから常備していたんだけど…見つけた、10ページ目に、この王都の地図が載っていたんだった」
「「地図があるんかい!!」」
何しろ王都は結構広いので、迷子になる人が子供意外に大人とかでもたまに出るらしい。
王城の目印はあるが、方向音痴だったり人ごみに流されたりしてうまく向かえないこともあるらしいので、そういう時のために王都内の地図が記載されていると聞いたことがあったのである。
生徒手帳が配布された際に、なんとなくその説明を覚えていたが、役に立ったようだ。
「地図だと…ああ、ここまだ学園からそう離れた場所じゃないね。ガルトニア学園から北北西の方向にあるヒトデナシ通りか」
「何だよ、その名前」
「一時期、ウニウニの魔女のライバルだったヒトヒトの魔女の住んでいた地名だったらしい。ウニで埋め尽くされたときに、唯一ヒトデまみれだったのだとか…」
「それはそれで、最悪な感じがしないか?」
とにもかくにも、この辺りはそんな逸話が残っているせいなのか、どうやら食べ物を無事に売りやすい場所として認識されているらしく、野菜や果物、穀物などの食料品類が販売されている場所のようだ。
「奥の方の道を進めば、無事に学園に戻れるようだね」
「よかったよかった…王都内で迷子になって、寮へ帰れなくなったらシャレにならないからなぁ」
「生徒手帳の万が一の対策事項24条だと…その場合、王都内の連絡用の魔道具を使用して、全力で呼びかけまくるらしい。色々と赤裸々に」
「最後の一文はなんだ?」
「さぁ?」
要は商業施設等で迷子になった際に流れるアナウンスが流されまくるということなのだろう。
特徴を流したりして発見率を高くし、無事に回収できるようにということなのかもしれない。赤裸々という一文に奇妙な感じが見えるが…あ、例載っているのか。
「『〇〇村在住のガルトニア君~。特徴は~』の形で呼びかけられます。それでも探しにくい場合は、本人に目立たせます」
「というと?」
「机の上に載ってたりするポエムノートや、最近のテストの点数、失恋話等々、全力で止めさせたいエピソードを流しまくる…うわぁ」
「赤裸々に…トラウマとか黒歴史をほじくりだすのか」
「把握しきれているとは思えないけど」
「「「絶対に流されたくねぇなぁ…」」」
恐るべし、王都の迷子対策。
迷子になった人へ羞恥心を沸き上がらせて、悶えまくらせて見つけやすくするのか。
高学年ほど有効とあるようで、過去の例を見ると貴族の学園の子らも例外ではないようで、数代前の国王はその放送が原因で、学生時代恥ずかしいあだ名で呼ばれたともある。
それなのに廃止していないのは、あまりにも効率的だったともあり…どれほどの人が、黒歴史のようなものを生みだしているのか、この世界の人の業の深さがうかがえるようである。
ルド自身にはそういう歴史なんぞ…いや、転生したって自覚した当初はちょっと…うん、把握されていないと思いたい。
とにもかくにも、このまま普通に地図に従えば、帰れそうでもある。
「そう考えると、ちょっと安心したかな?当初の目的通り、もう少し遊んでから帰宅しようか?」
「んー、遊ぶのも良いけど、小腹がすいたなぁ。良い食べ物のお店とかはないかな?」
「そこまではないけど…お、あそこの屋台とか良いんじゃないかな?」
迷子気分から解放されて、帰宅する目途がついたので、ルドたちはそのまま散策を続けることにしたのであった…
…その背後から、こっそりと追跡してきている者たちがいることも、気が付かずに。
危うく黒歴史放送祭りになりそうだが、回避できそうである
一体誰がそんなろくでもない仕組みを考えたのかと言いたいが、文句を言っても仕方がないだろう
ところで何やら、不穏な影も…
次回に続く!!
…小さい子だと確かに効果は薄いかもしれないけど、年齢が上がるほど効果的にやれるのかもしれない




