第十二話 突撃、隣の生徒会
「…え?貴族側の学園の生徒会長が、この学園にやってくるのですか」
「ああ、そうだ。毎年恒例のようなものだから、大々的に騒ぐようなものでもない」
…学園に来てひと月が経過したころ。一限目の魔獣学の授業にて、講師のメンヘライヤ教師がお知らせとして、そんなことを告げてきた。
名前からしてちょっと危なそうな感じがするが、見た目としては普通の男性教師で、そんな変なところはない。むしろ、その名前にあった人に付きまとわれていることがあるようで、過去にストーカー被害の話をして物凄い同情を買いまくったことぐらいだろうか。
「先生、何かここに問題があったとかではないですよね?私たち平民が通う学園で何かあったから、お偉いさんが直に見に来たとかそういうことでもないのでしょうか」
「それはないだろう。そもそも来るのはあちらの学園の生徒会長であり、立場としては諸君らと変わらぬ生徒でもあるからな。貴族側の学園にはかつてやばい大問題児がいたという話も聞くが、今の生徒会長とは全くの別物だとも言うからな」
(((大問題児って何だろう…?)))
それはそれで気になる言葉も出てきたが、平民側の方には接触する機会はないそうで、今はその生徒会の方々が来る方に意識を向けたほうが良さそうである。
「お貴族側の生徒会長だが、目的としては視察のようだ。平民・貴族で学園が分かれているが、時折交流戦も行っており、行っている授業としては似たり寄ったりだが、何か違うものがないか確認してきた方だろうな」
「なるほど、違うものの視察ですか」
「んー、異なるとしたら貴族ならではの礼儀作法とか…他あるだろうか?」
わいわいがやがやと軽く話し合うが、問題はなさそうだ。
某ガキ大将のような輩が来るならばともかく、悪い評判のないという生徒会長であれば、そこまで困るようなこともないはず。
「とりあえず、適当な授業の合間に訪れるだろうから、いつも通り過ごしてほしい。変に緊張せずに、普段通りの姿で過ごせばいい」
メンヘライヤ先生の言葉もあり、いったんこの場は収まることになった。
誰がどう訪れてきても、いつも通り過ごせば良いだけの話で、特に個人に関わってくるようなこともないはず。
大勢いる生徒たちの誰かに集中するようなこともないだろう。
「あ、ルドっち、ふと思ったけどお前のほうは気を付けないといけないんじゃねぇの?」
「え?なんでさ」
平穏無事で過ごせるならばそれで良いかなと思っていると、隣の席にいた同郷のルンバがそう声をかけてきた。
「だって、お前の場合は彼女がいるじゃん。あの蜘蛛の魔獣」
「…あ」
言われてみれば、そうだろう。
貴族側の学園の人というならば、こっちとは違ってそんなに魔獣と触れていない可能性がある。
そんな人たちの前に、堂々とハクロが出てきたら…どういう反応をするのだろうか。
「とはいっても、今の時間は別室の家庭科の授業に参加中だから、あっちの方で聞いていないかな?」
「あれ?意外だな。彼女自身結構知識欲がありそうだから、この魔獣学の授業にも出てきそうなんだけど」
「今日の魔獣学の講義内容が『ナメクジャク』って魔獣の話だからなぁ。ぬるっとした感じの魔獣が苦手なようで、今回は見送るってさ」
「おや、なんか意外。彼女にも苦手なのがあったんだ」
普段の行動を見ると弱点がなさそうな彼女だが、意外にも苦手なものはあったらしい。
対策方法は用意しているから、いざという時があっても大丈夫らしいが、出来る限り触れたくはないらしい。
「聞いた話だと、過去に無数のぬるぬるしたナメクジの魔獣の襲撃を受けたらしくて…全部焼き尽くしたらしいけれども、その光景がトラウマになって苦手になったようだ」
「なにがあったんだ、その大量の魔獣の襲撃って…」
「というか、焼き尽くしたってどうやって?彼女のメイン攻撃は糸じゃないの?」
「魔法も扱えるから、火の魔法を全力でぶっ放したらしい」
対応できたとしても、インパクトが濃すぎた相手は苦手意識を持ったらしいが…ナメクジ以外にもぬるぬるしたのは苦手と聞くし、他のトラウマ話も掘ればありそうではある。
まぁ、嫌がるようならば無理に聞く必要もないけどね…何があったのかは気にあるけど、トラウマになっているレベルであれば、そっとしておいてあげよう…ちなみに、ぶっ放した現場と思われている場所は今、火山地帯になっているらしいが何をどうしてそうなったのだろうか。
「…ふむ、ぱっと見た感じだと変化が起きているように見えないが、よく見ると生徒たちの集中力などが上がっているようだな」
「はい、彼女が与えた影響がじわりじわりと浸透しているようです」
…昼過ぎ、ガルトニア学園の廊下で歩きながら周囲を見渡す二人の人物がいた。
返答している人物は、この学園の生徒会長であるゴルベーザ。
そして、質問をしてきたのが本日視察しにやってきた貴族側の学園の生徒会長にして第1王子でもあるアレックス。
生徒会長同士の交流と学園内の案内を兼ねて一緒に見て回っているのだが、ゴルベーザとしては同じ生徒会長の立場にありながらも貴族でかつ王子なアレックスに内心緊張をしていた。
学園内では身分に関係ない様な関係だとしても、貴族と平民の間は暗黙のルールのようなものがある。
お互いに立場をわきまえつつ動くわけなのだが、相手が王子とくればそれこそ下手すれば失礼に当たるようなこともありかねないので、ミスをしないように注意を払っているのである。
「それで、今回の視察と一緒に見ておきたいのだが…噂の彼女はどこだろうか。蜘蛛の魔獣ということは耳にしているのだが、何やら影響を与えていることが気になってな」
「えっと、相手は魔獣ですが、それでも見たいのでしょうか」
「ああ、何事も噂で耳にするだけではなく、実際に目にしたほうが良いからな」
気になって調整を行い、こうやって来たのは良い。
けれども、これで見ることもなく帰ったら何のために視察をしに来たという話になるだろう。
「えっと、今の時間ですと…おそらく、魔法の授業のほうに参加している頃合いでしょう」
「ほぅ、蜘蛛の魔獣なのに魔法を扱うのか」
「ウニウニの魔女に師事を受けていたということですからね」
「なるほど、ウニウニの…かつて王都を震撼させた『グランドウニハザード』の魔法を使うことはないよな?父上から、王都中がウニで埋め尽くされたという恐怖の魔法だが…」
「幸いなことに、相性が悪いから使えないとのことです」
不安要素の一つに、ウニウニの魔女が関わっていたというのがあったが、どうやら杞憂だったらしい。
話でしか聞いたことがないが、それこそ地獄のような光景だったと語り継がれており、万が一でも使えたらやばかったとは思うが…無いなら安心だろう。
そう思いながら移動し、魔法の授業が今行われている運動場のほうへ向かう。
この時間は攻撃魔法ではなく、防御魔法のほうを習っているらしいが…
「そろそろ見えてきますね。ああ、ちょうど彼女が魔法を見せるようです」
「お、それはそれで都合が良い時に…」
いったいどのようなものなのか、曲がり角を曲がって行われている方向を見たその時…王子は思わず目を見開いた。
【キュルル…『ホワイトスノードーム』】
使われたのは、吹雪が周囲を舞うことによって敵の攻撃を弾き、ぶつかればその者が猛烈な吹雪の塊となって相手を攻撃できる攻防一体の氷の魔法。
虫の魔獣は火や氷に弱いとも聞くが、どうやら彼女は耐性を持っているようで、平気で扱えるらしい。
いや、それよりも吹雪のきらめきで見えるその姿は…白蜘蛛姫としての名が合うように、妖艶のような美しさがあった。
普通の人ではない、魔獣としての雰囲気。
蜘蛛の体に人の体というアンバランスなものを有しているというのに、その造形がむしろ個としての美しさをより強めているのかもしれない。
「…美しい」
語彙力がもっとあれば、彼女の美しさを言い表すことが出来ただろうか。
いや、無理だろう。一目見て、心から出せるとしたらその声しかなかったのだから。
「本当に綺麗ですよね、彼女。魔獣で相手がいるものなのが惜しいというかなんというか、これが普通の人間であれば、求婚者が押し寄せそうで…あれ、アレックス様?」
ゴルベーザが感想を言いつつふと目を向ければ、隣にいたはずの王子がいない。
どこに行ったのか改めてみれば、瞬間移動したがごとくいつの間にか魔獣の…ハクロのそばに立っていた。
「すみません!!その美しさに心が惹かれました!付き合ってください!!」
「ちょ、王子!?」
気が付いた時には、全力で求婚をかます王子がいた。
【キュル?すみません、私、旦那様がいるので…ごめんなさい】
「あ”っ」
(((速攻でフラれたぁぁぁぁぁぁぁ!!)))
返答を聞き、ビシッと石化する王子を見て、目撃者たちの心は一つになった。
…これが後に、『王子の求婚悲劇』として長く語り継がれることになるとは誰も思いもしなかったが、今、この時は速攻でフラれた王子に対して同情する生徒が多くいるのであった。
勢いに乗って、その感情の赴くままに動いてしまった王子
悲劇の目撃者が多く出たことによって、語り継がれることになるだろう
いや、そんな悲しい現場を語り継がれるのもきっついだろうが…
次回に続く!!
…マッハで玉砕された王子。ある程度の事前情報があっても、心が素直過ぎたのだろう




