第十一話 噂は駆け巡って
「…平民の学園で、生徒たちの力が向上しているだと?」
「そのようです。先日、交流戦が行われたのですが、その際に発覚しまして…」
…王都内にある、貴族たちが通う学園。
正式名称が長いので彼らは貴族園と呼ぶことにしているのだが、その生徒会室ではある報告がなされていた。
「剣術、魔法、料理、その他学問…貴族と平民での無駄なトラブルを避けつつも、お互いの腕を確認しあう交流の場で、実力に差が出ている結果が出ているな」
「やっている科目自体は同じような内容なはずだが、実戦で見るものほどかなり強くなっているようだ」
「貴族側の勝率が下がっているが…ふむ、何かあったかな」
まとめられた報告書に目を通し、学力やその他の科目に関して、平民たちが通う学園と差が開いてきていることを確認する。
例年であれば、受けている科目は同じようなものであり、金がある分家庭教師などから学びやすいから貴族の学園に通う者たちのほうがわずかに高かったりするのだが…それなのに今年はどうも、傾向が異なっているらしい。
まだ今年の学園が開かれてからひと月ほどしか経過していないはずだが、その割には新入生や在校生の伸びがみられるのである。
「そういえば生徒会長、平民側のほうの学園では、今年はちょっと変わったことがあったようです」
「変わったことだと?」
「それが、どうも蜘蛛の魔獣を連れてきた者がいるようで、現在一緒に学園で過ごしているというようですが…それが関係あるのでしょうか?」
「蜘蛛の魔獣…ああ、確か、白蜘蛛姫とかいう噂になっているものか」
白蜘蛛姫。それは、今年になって王都に入って、学園である生徒と一緒に過ごしている魔獣の噂。
蜘蛛の魔獣であり、最近魔獣学会の方では特異性から種族名を付けることにしようということで、アルケニーかアラクネか議論されているらしいが、どうも並の魔獣とは異なる存在らしい。
大きな白い蜘蛛の体を持ちつつ、美しい女性の体も持つその容姿から、まるで異国の姫のようにも見えるということで付けられた白蜘蛛姫。
人の言葉を理解し、その生活に交わり、馴染みまくっているという話だが…
「…どう考えても、その魔獣が原因になっているだろう。思いっきり違う部分として目立つからな」
「しかし、魔獣がいるだけでそんなに差ができるものなのでしょうか?」
「変わるだろう。お、報告書を見ると見学だけではなく生徒に混ざって授業を受けているともあるが…なるほど、経験が原因になるのか」
貴族側の学園も授業をしっかり行っているが、平民側の学園ではその魔獣が参加して実戦形式に近くなっているところがあるらしい。
模擬戦も経験を積めるといえば積めるが、人ならざる者の相手をするのであればさらに経験を積むことになり、普通に過ごしているよりも多くの知見を得られるだろう。
生半可に戦わないよりも、魔獣相手という本格的な実戦を行うのであれば、そちらの方がより自身の腕を磨きやすいのかもしれない。
「過去には、戦闘経験が足りないなら野生の魔獣を連れてきて、戦わせてみるというのもあったが…制御ができないのと、魔獣の異形な外見に嫌悪感を覚えたりするなどの意見があって、やることはなかったとも聞くが…これが今、平民側のほうで実行されたようなものか」
「でも、危険ではないですか?どの程度のものなのかは知りませんが、魔獣を普通にこの人の多い王都内に入れるなんて…」
「聖女の許可が下りたのだろう。そうでなければ入ってこられないだろうし、許可されている時点である程度のわきまえももっているのかもしれないな」
知識があり、実力があり、人との関わりに問題ない…圧倒的な力を持つ魔獣という可能性もあるが、そんなことよりも普通に人と混ざって生活できている方が脅威に感じるかもしれない。
何も言われず、それでいて問題もなく…魔獣なのに、人と普通に生活できているその能力こそが恐ろしい様な気がしなくもない。
「それにしても、ここまで影響を与える魔獣か…一目、見たくなったな」
「会長が、この国の王子が自ら見るのは危険では?」
「いや、実際に目にして見ないとわからないからな。危険だろうとこの目で確認したい。それに、危険な魔獣であればそもそも、こんな人の多い王都内で生活させると思うか?」
席から立ち上がり、動く生徒会長を収めようと他のものが声を上げるも、やめる気はないらしい。
「そもそも、平民の学園に視察しに向かうのも生徒会長の役目…いずれ、この国を治める争いを弟たちから勝ち取り、民の上に立つのであれば下にあるものを確かめなければいけないだろう。この第一王子アレックスの名においてな」
ふふんと笑みを浮かべ、そう告げる生徒会長…もとい、この国の第一王子。
その行動に、他の役員たちは溜息を吐きつつも、ここまでやる気を出したら止まらないと理解しているので、止めることを諦める。
悪い会長、王子でもない。しっかりと人の言葉に耳を傾け、意見を取り入れて実行していくその姿は人気があるだろう。
けれども、時として思いもがけない行動に移されるその実行力に関しては、止めようがないという悟りを開いているのである。
「わかりました、生徒会長。では、今度視察に向かうためのスケジュールを調整しましょう。平民側のほうの生徒会とも連絡を取って、問題なく過ごせるようにいたします」
「むしろ、問題が起きてくれた方が、今後どのように解決するか考えるための種になっても良いのだが」
「こっちの胃が痛くなりますので、無いほうが良いです」
(((うんうん)))
副生徒会長の言葉に、他の役員たちも心の中で深く同意をしてうなずきまくるのであった…
【…ん?】
「どうしたの、ハクロ」
【いいえ、何でもないですよ、旦那様。何か一瞬だけ、面倒ごとがありそうな予感がしただけで…】
人の知らないところから、動くものもいる
どうやらハクロの影響を知って、接触してくる人はいるらしい
まぁ、何事も無いほうが良いのだが…どうなんだろうなぁ…
次回に続く!!
…ひと月経過してやっと思うけど、そこはまぁ平民・貴族での関心ごとの違いなども影響していそうかな




