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実験A 後編

 1人目の客からどれくらいの時間が経ったのか分からないが、何人かはチラホラくじを買いに来ているみたいだ。

『ねぇねぇ。ママ。あのお姉さんお祭りじゃないのになんでお祭りの格好してるの?』

『あれはね。くじ引きっていう何がもらえるか分からない、うーん。ちょっとした遊びをしてくれるお姉さんだからかな』

 間違ってはいない。子供に説明するには少し難しい。というか、子供がいるような場所で僕は全裸で閉じ込められてるのか……。

 子供がいなくても、まずこの状況はおかしいのだが。


『あの?このくじって、ハズレが服って書いてあるんですけど、子供服もありますか?』

『はい!勿論ございます!ハズレですと1万円分の男性用・女性用・子供服。好きな服袋を差し上げます』

『因みに当たりは?』

『内緒でございます。引いたくじの色で決めさせていただいております』

『へー。じゃあ一回引いてみよっ……か?あれ、すいません!娘知りませんか?!』

『え?あああ!ちょっとお客さま!そっちは』

 バタバタと近くで足音がする。どうやら、僕は店先ではなくバックヤード的なところにいて、客の娘が入ってきてしまったようだ。


『何ここくらーい。ん?なにあの大きな缶。開けたら何が入ってるのかな?』

 段々足音が近づいて来る。丸くなってるから足音がすごく聞こえる。

 僕自身は、口と目以外何も動かせないのだが、もし開けてさえもらえれば助けを呼ぶことはできるだろう。

『んー?あ!ここをもてば、上に開けられそう』

 缶が微妙に開いて、外の空気が入って来る。確か気温は冬だったような気がするから、全裸には寒すぎる。

『よいっしょ!』

 小さい女の子の力では難しいのか、少しずつしか開かない。どうやら相当重いようだが、冷気が入って来る分、こちらは寒さで凍えそうだ。

『あ!ちょっと中が見え……ぎゃああああああああ!』

 僕は開いていく缶の蓋を凝視していた。蓋が開いていく希望に縋るためだった。

『お客さま?!それは特商の缶詰です!勝手に開けられては……』

『ああああ……。なな、なんかいた!あああああぁぁ……』

『暗がりで何かと見間違えたのでしょう。ささ。あっちでお母さんがお待ちしておりますよ』

 そうして足音が足速に遠ざかっていく。一つ小さい音だけ。

 開きかけていた缶の隙間が影に包まれて閉じていく。

 その時にボソッと。

「出られると思いましたか?そうでしょうそうでしょう。でも残念」

 そう販売員らしき女性は言って蓋を閉めてしまった。

『寒暖差がありすぎて、咄嗟に声が出ないのは計算済みですので』

 そう言い放って、その場を去られてしまった。

 正直、少しでも開いてしまえば逃げれると思っていた僕は愚かだと後悔した。


 そしてまた遠くから声が聞こえる。

『娘がご迷惑をおかけしました。お詫びと言ってはなんなのですが、二回くじを引かせてください』

『問題は起きておりませんので大丈夫ですが、ありがとうございます』

『さ。この箱の中から紙を一枚つかんで』

『う、うん……ぐすっ』

 どうやら、さっき缶を開けかけた女の子が引くようだ。だが、子供に引かせたら……。

『お客さま。大変申し訳ありませんが、お嬢様が三枚お引きになられたので、代金は三回分となります』

『え?そんな。ま、まあご迷惑おかけしたので、払わせていただきます』

 払わないなんて言ってもきっと意味はないだろうけど、理解のある客だな。

『では、確かめさせていただきますね。……ピンク二枚に、白一枚ですね』

 ピンク……か。なんだかんだ初めて引かれたな。

『白は確か、ハズレでしたよね。子供用の服袋頂けます?』

『はい。こちらです。ピンクのほうは……はい。一応二種から選べるんです』

 へー白以外も選べるんだな。……感心してる場合ではないんだが、気になる。

『ピンクは18禁と子供用となっております。中身はランダムですので同じ物でも問題ありません』

 ……白昼堂々となんてものを景品にしてるんだ!いや、僕のほうが景品としてはヤバいのでは……。

『……じゃあ両方一つづつで』

 って、両方かい!子供の前だぞ。ま、まぁパッと見分からないようにはなってるだろうが。

『お車にお運び出来ますが』

『今日は自転車ですので、カゴに入れて歩きます』

 そう言って、去っていった。


『18時になりましたので、くじは終了といたします。またいつかお付き合いください』

 拡声器のようなもので、周りに伝えているようだ。

 片付けの音がする。ちゃんと撤収はするようだ。

 真横でも音がし始めた。僕もまた運ばれてしまうのだろう。

 ……なんだ。気が遠く……。また眠らされるのか……。

 そこから僕の記憶は、次に起きるところまで無くなる。

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