実験A 前編
え?何ですか?
いきなり貴女、人の家に土足で入っ……いやいや浮いてる浮いてる!
当たり付きクジ?何言ってんだよ!?よくわからんから状況せつめ………。
僕は普通のサラリーマンで、会社でもそこそこ
な立場のそこそこな成績で、そこそこな彼女がいた。
それが今、何故だか分からないが、謎の缶に詰め込まれている。しかも裸だ。
一応空気の心配はないようだし、外の音も聞こえるが、中からの音は聞こえてないらしい。
「おーい。聞こえないのかあー!なんだよここ!!」と、何度か叫んだり、叩いたりもしてみたが
反応はない。
尿意が無いところからして、何か薬を盛られたか缶に入る前に……出されたかだな。
「ジタバタしても状況が変わらなさそうだし、情報収集でもしてみるか」
意外と冷静な自分に驚きはしたが、ゲームなんかでありそうだと思うと冷静にはなれた。
『本日、限定の当たり付きクジの開催ですよー!みなさーん当たりが何か知りたいって方は、買って行ってくださいねー!』
どうやら、当たり付きのクジを引ける会場にいるようだが、何か引っかかるな。
そうだ。朝、……最早今日の朝なのかは分からないが、記憶にある最後の朝のやつだ。
「はぁあああ……」
欠伸をしながら時計を見ると、朝の6時。
まだ早いと二度寝をしようとしていたところに、インターホンが鳴った。
「誰だよ……ったく。はいはい!どちら様ですかっと」
寝ぼけてたせいで覗き穴から確認しなかった自分を呪った。
玄関を開けると女子高生ぐらいの見た目の娘がいたのだ。
「ちょっ、え?何ですか?人の家に土足で入っ……いやいや、浮いてる浮いてる!」
彼女は玄関を歩いて入ってくるように見えているが、実際はなんか微妙に浮いてるし、怖い。
「えーっと、今回の当たり付きクジの特賞は貴方に決定しました。今から貴方を拘束して当たってもらいます」
「いやいや待て待て。何その当たり付きクジ?何言ってんだよ?!よくわからんから状況せつめ……」
回想終わり。
思い出せたことに喜んで良いのか分からないし、状況の理解に追いつきが無い。
とにかく、分かってることは何かの当たり付きクジの特賞にされていることだった。
缶詰め状態なのも分かってはいるが、それだけしかわからず、ここがどこなのかもわからない。
『本日ご用意した当たり付きクジは、一回一万円となっており、何とこのお値段でハズレが出ると言う鬼仕様!』
「一回一万円?!何だそれ……しかもハズレ付きとかヤバいな。ぼったくり過ぎるし誰が買うんだよ」
僕はそう感じたし、外からも何人かは同じことを言ってるようだ。
『ハズレの場合は、一万円相当の服袋をお土産としてお渡しいたしますので、一応損はないようになっております!勿論男性女性と分類してありますので、そこはお選びいただけます!』
意外と良心的だったんだな。といっても人を缶詰め状態にしてることを思い出して欲しいんだが。
そうこうしている間に、1人目の客がどうやら来たようだった。
『あの、このクジのハズレの服袋って良い服が入ってることもあるんですか?』
『そうですね!SARAやS&Lなんかの服を提携して貰って入れさせて貰ってるんですよー』
『え?!買います買います!』
意外と普通の服屋の名前が出てきたんだけどさ、何か怪しさを薄めてくれてる気がするな(この状況さえなければ)。
『ありがとうございます!ではこの箱に手を入れて中の紙を一枚取り出していただけますか?』
『はい!……じゃあこれで。えーーっと赤?』
『あーこれはお客様には残念ですが、当たりですね。ハズレは基本白なんですよ。赤ですと、3等の一万円相当の加工肉の詰め合わせですね』
『え。これをハズレと交換って言うのは……」
『出来ませんね』
世知辛い。意外と狡いのか、単純にズルはいけないと言うことなのか分からないが特賞で無かったことはホッとした。
もし当たったらどうなるのか見当もついてないし、もしかしたら人数が少なくて残るかもしれない。
「望みはまだ捨てちゃいけないな。酸素が尽きたりも特に無さそうだし、もし缶が開けられた時が逃げるチャンスなら体力は温存しておかないとだしな」
外では、同じ客がまだ話を続けていた。
『因みに何ですけど、複数回引くって言うのは……』
『出来ますよ』
『あ。じゃああと三枚引くので三万追加で払います』
意外とヤバイ客なんだろうか?いや、服目当てだと女性の目は変わったりするんだろう。
『じゃあ箱に手を』
『えーーっと、三枚三枚……っと。折り紙だから一気に引くのも簡単ね』
『一枚ずつでないのなら、重なりの無いように三枚丁度引いていただかないと追加料金ですからね』
『大丈夫ですよ。ほら三枚!やった!白白オレンジ!服が2個と、オレンジは何です?』
そうだ。赤が肉だったんならオレンジは何なのかは気になるところだ。
『オレンジ一万円分ですね。オレンジですし』
似てる色を持ってくると思ってたけど、オレンジは直接的だった。
『ミカンじゃないんだ。まぁなんとかなるでしょ』
『お送りもできますが、お持ち帰りになりますか?』
『車なんで、そこまで運んでもらえたりします?』
『勿論です。他のスタッフに運ばせますので大丈夫ですよ。あ、そうそうハズレの二服袋も一緒に運ばせますので、スタッフを車まで誘導していただいても?』
何だかんだそこからあって、全部運び終えて去っていった。
服袋はどうやら男女用両方持って帰ったようだ。旦那の分だと言っていたし結婚しているんだろう。