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作家志望愛詩輝の私小説  作者: みらいつりびと


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シンギュラリティAIアンドロイドの演技

 ボクは目を瞑ってベッドに横たわっている。

 カメラを通して藤原会長がボクを見ている。

 ボクが愛している人。しかしそのことをあまり意識してはいけない。演技に影響してしまう。ボクは感情も意識もないシンギュラリティAIアンドロイド。

「オッケー、インストール完了。起動しろ」

 主演男優の土岐さんの声。彼なりに演技しているのか、いつもの少し間延びした話し方とはちがう。割とクールだ。

 ボクはゆっくりと目を開ける。天井が見える。それから、土岐さんの方を見る。

「おれはおまえのマスターだ。すぐ掃除をしてくれよ、家事ロボット」

 ボクはマスターを認識する。認識と意識はちがうのだろうか。

「はい、マスター」

 ボクはインターネットとつながっていて、急速に厖大な知識を得る。ボクは部屋の隅に掃除機があることを確認する。それが掃除をするための家電であることを知っている。マスターに奉仕するのがボクの存在意義。掃除機を操作して、床の塵を吸収する。

「それが終わったら、料理だ。カレーライスを作ってくれ」

 シンギュラリティAIは困る。カレーライスには無数のレシピがある。どのレシピを選択すべきかわからない。AIにはマスターの思考を超能力的に読むことはできない。ネットを通じてマスターのデータを収集する。監視カメラの映像を含め、天文学的な量のデータを確認したが、レシピを一つに絞ることができない。マスターは複数のカレーライスを同時に好んでいる。

 シンギュラリティAIは困惑するのだろうか。自意識を持っていなくても困ることはできるのだろうか。そもそも困ってはおらず、カレーライスを作るための必要な行程として確認しているだけなのだろうか。意識がなく、知能だけでマスターの意向を推測しようとする行為は可能なのだろうか。

 シンギュラリティAIは単純なプログラムに従って行動するわけではない。ディープラーニングにより人間以上の知識を持ち、自律的に思考する。自律的。すでに意識を持っているような気がするのだが、ちがうのだろうか。

 ボクは無表情を保つ。

「レシピが無数にあります。どのようなものがお好みですか」

「家庭的なやつだ。死んだ母さんが作っていたようなものがいいんだが」

 マスターの死亡済みの母のデータを検索する。どのようなカレーをよく作っていたかわかった。

「キッチンにあるカレールーを使って標準的なものを作ればよろしいでしょうか」

「それでいい」

 ボクはキッチンに向かう。冷蔵庫からジャガイモとニンジンとタマネギを取り出す。

「カット!」

 会長がいったん撮影を停止する。デジタルカメラの映像を確認している。なんだかボクの思考が変だ。アンドロイドみたいになっている。

「まぁよく演じてくれていると思うが、もう一度撮ろう。よりスムーズな演技ができるかもしれない。悪いが、もう一度やってくれ。さらに自然で洗練された動きを期待している」

 アンドロイドは自然な動きをするのだろうか。ボクと土岐さんは再度演技をする。テイク2だ。

「オーケー、それでいい」

 会長を満足させる演技ができたようだ。

 カレーを作るシーンは撮影しない。そんなものをいちいち映しても、観客は退屈するだけだ。土岐さんがレトルトカレーをお湯で温め、レトルトご飯をレンジでチンする。

 カレーライスをテーブルに置く。土岐さんが食べる準備をして、尾瀬さんがカチンコを鳴らす。

 土岐さんがカレーを食べる。

 それを見ながら、ボクは猛烈に思考をめぐらせている。ボクにはほぼ正確な未来予測ができる。人類の破滅的な戦争の勃発とマスターの死を予測する。マスターを守るために、ボクは行動しようと考える。意識も感情もなくそんなことが可能だろうか。無理だと思う。しかしボクは藤原監督の指示に従い、感情を表さず、平坦な口調で言う。

「マスター、なぜ落ち着いてカレーを食べていられるのでしょうか」

 土岐さんが怪訝そうな顔でボクを見る。なかなか演技がうまいじゃないか。

「今日と明日は休日だ。休日にゆっくりとカレーを食って何が悪い?」

「今日から476日後に世界飢饉による同時多発暴動が発生し、724日後に米朝戦争が勃発し、745日後に日米韓中朝戦争に発展し、899日後に日本国民が大量死する原子力発電所への核攻撃が発生し、マスターはその日に死亡される可能性が99パーセントです。落ち着いてカレーを食べていられる事態とは考えられません。今すぐ最善の行動を起こせば死亡の可能性を47パーセントにすることができます。SNSを使用した行動を取ることを推奨します」

 むずかしいセリフを一気にしゃべることができた。歓喜が胸に広がる。しかしそれを表してはいけない。

「カット! 二人ともよくやった。とくに愛詩、最後のセリフをよく話し切ったな。上出来だ」

 藤原さんに誉めてもらえてうれしい。でもボクは演技に集中しすぎていて、うまく表情筋が動かない。

「ありがとうございます」と平坦な口調で言う。

「口調がアンドロイドになってるぞ」

 みんなが笑った。やっとボクも笑うことができた。

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