第5迷宮 マイダンジョン探索
「うーん……。昨日見た天井だなぁ」
目が覚めても、そこは昨日と変わらずダンジョンの中であった。
どれだけ頑張って手をあげても、跳んだりしても決して届かないだろう、中二階だって作れそうなほど高い木目調の天井。
壁には大きな窓がついていて、そこから差し込む何処からくるのかもわからないけど優しい光。
それが一人暮らしの大学生が住むアパートの光景ではないということぐらいは、今までより無駄にハイスペックになった脳が伝えてくる。
寝て起きたら全てが元に戻っているなんて事を、心のどっかではかすかに期待していたのかもしれない。
何も変わらなかった事に落ち込んでいる自分がいることに気づいた。
つまり、この世界は現実のもので、自分がやらなくてはいけないことは何一つ変わらないことがわかってしまった。
「よしっ!今から状況確認をします。僕は昨日ダンジョンマスターになった。そして、ここはマスタールームで外にはダンジョンエリアがある。これが僕のダンジョンだ!」
目覚めてから、しばらく惚けていた。
ベットから起き上がってからの数分間も、もしかしたらこれは全て夢なのかもしれない。
という淡い思いがあったので、無駄に立派な洗面台で何度も顔を洗ったり叩いたりしたが、何も変わらなかった。
もうやけっぱちだ!と現在の状況を確認をしていく。
「そういれば、種族が変わったのか目が良くなったよな。昨日メガネかけて無かったの忘れてたし。もうメガネ要らないかな?」
元々、ボサボサメガネの猫背でいけてない系の人であったが、種族がダンジョンマスターになったせいなのか眼鏡が無くても生活に不自由がないぐらいには視力が良くなったようだった。
鏡を見る感じ、背筋が伸び、髪質なども色々なところが少しずつ良くなったので、良く見ればイケメン?なところまで外観が良くなっていたのだ。
それを見せる相手がこの世界には誰一人存在していないのが少し残念なのだけれど。
「っと、マスタールームにはまだ玉座とコアしかないし初めての外出と行きますか!」
完全に目が覚めたので早速行動を始めることにした。
昨日は自分のものになった世界を確認することができないままだったため、今日こそは状況確認として必要な情報を出来るだけ集めたい。
「地図的には出口はこっちかな」
外に出ようとマスタールームの出口である筈の壁の前までダンジョン操作のスキルから地図を見ながらゆっくりと移動する。
出口があるはずのその前まで来ると、突然目の前の壁にピキッと縦に1本の線が入った。
それに驚く間も無く、その線を中心として壁が左右に破れ始めた。
「ここが出口だとは分かってたけど、こうなるのね」
目の前にあった壁が完全に破れ崩れると、そこには神話のような昔話に出てきてもおかしくないほど、とても神秘的で綺麗な森が存在していた。
明るく爽やかな緑に染まる目の前の森がどこまでも続いていて。
そこに向かって、見上げるとどこまでもありそうな青い空から優しい光が降り注いでいる。
等間隔で生えている木々は決してその光を遮ってしまうことはない。
その光景は生命が躍動しているような不思議な感覚に襲われる。
しかし、このダンジョンにはまだモンスターはもちろん動物すら1匹も存在していないのだ。
その事実がダンジョンマスターの機能としてすぐに分かり、とても寂しく、そしてとても不気味に感じられた。
「ダンジョンスペースってこんな感じなんだ……ダンジョンって言うからには洞窟とか遺跡とかなのかと思ってた」
ただでさえこんな状況下だ、色々ありすぎて精神が参ってしまいそうだった。
ここで狭い洞窟だったりしたらついには鬱になりそうだ。
実際には新しくなった神経がそうはさせないのだろうけど。
ふと後ろを振り向くと、崩れてなくなった筈のマスタールームの入り口には、いつの間にか木製の大きな扉が出来ていた。
小さな家一つぐらいは入ってしまうんじゃないかってほどの大きな扉。
その扉の表面には、少し不気味で不思議な装飾がこれでもかってほどにびっしりと入っている、しかしそれが無駄と思えないほど綺麗だ。
「探険しますか!」
そんな扉につい見惚れてしまったが、声を出して振り返り、その神秘的な森がひたすらこの先に続いているのを軽く見渡すとその中に足を一歩踏み入れた。
実際に森の中へ入ってみると、外から見たのとはまた違った印象を感じることができた。
まるで、木々が喜んでいるように、木の間から木漏れ日が降り注いでいて、突然妖精が現れたしてもおかしくないような雰囲気が漂っている。
その幻想的な雰囲気に見とれて、しばらくそこで木々を眺めていたが、気を取り戻すと、奥へと歩いて行った。
正確にはダンジョンの入り口に向かってだが。
本来ならば沢山の生命が生きづいている筈の森の中を1人で進んでいく。
地面は誰も来ない世界なので踏み固められていなく、腐葉土でふかふかだった。
どんどん進んで行くのだが、周囲には何も居ないらしく、自分の歩く際に生じるかすかな音の以外の音が一切聞こえて来ないのだ。
そのせいでこの空間に自分1人しか動く生物が居ないのを否が応でも感じてしまい、それを今更ながらやけに際立って実感できた。
ここから先このまま1人で、ダンジョンマスターとしてやっていけるのかと心配になったが、ここでうじうじしていても仕方が無いので、その考えをすぐに頭から振り払った。
「うわっ。ちょっと不気味だな。まさにダンジョンって感じ。ここで急にモンスターとか出てきても反応出来なそうで怖いわ」
その不気味な雰囲気に飲まれてしまわないように、文句かも知れないけれど声を出しながら先へと進んで行く。
僕はダンジョンマスターだからもし何かいても襲われることないだろうしね。
この世のものとは思えないほど綺麗だが、どことなく不気味な森たったを1人で進んでいく。
「……そういれば、ダンジョン内に生えている木とか草って普通の種類と違うのかな」
ダンジョン内にあるものはダンジョン操作のスキルでステータスとかのさまざまな能力を見ることが出来る。
実際はリアルタイムでダンジョン内全ての情報を入手出来るはずなのだけど、使い慣れていないから鑑定するぐらいしか出来ないけど。
薬草とか何かの材料に使えそうなものがあるといいなとか思いながらダンジョン操作のスキルを使ってみることにした。
まず試しに木々の間にあった中で1番綺麗なもの、それでも見た目は普通の雑草にしか見えない草を調べてみることにした。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
カミューレ草 F
薬草
HPを10回復する
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「おぉ、出来た!本当に薬草か!他にもあるのかな?とりあえず採取しておこう。バック持ってきててよかった」
念のためにナイフや懐中電灯などの使えそうな道具を色々入れて持っていたのがよかった。
そのまま薬草らしいその草に近づき、ナイフでその薬草を根本から切り取ると、リュックに摘んだその薬草を入れてまた歩き出した。
それから暫くその森の色々な木や草、木の実などを鑑定、採取して歩いていた。
その結果、薬草が数種類、毒草・毒キノコが数種類、あとは、食べることが出来る木の実や、家具に使えそうな丈夫な木を発見することができた。
流石に木を摂るなんて事は出来ないけれど、持てるだけ、出来る限りのものは採集していった。
それにしても、これまでに見つけた全てが、今まで見たことのない知らないものだったので異世界と言ってしまってもいいんじゃないだろうか。
異世界と言っても自分の世界ではあるが、まだほとんど未知なので安全に探検できるのはとても楽しい。
そうこうして、2、3時間歩き回り小さくて使えそうなものを詰めて行ったがリュックが溢れそうになる頃についに森の終わりが見えた。
前方に木がなく少し開けた場所と、小さな家がひとつ入ってしまいそうなほど大きな扉が現れたのだ。
その扉もマスタールームの扉のように綺麗な装飾が入っていた。
「うわー、でっかい扉だな。ダンジョンの入り口ってところかな?」
これが目的地だったダンジョンの入り口の扉、これが外の世界、元々自分が居た世界へ繋がるのだろう。
ゆっくりと、その扉の前。手の届くところまで近づいた。
その巨大な扉は僕が手をかけると、重さを全く感じずに少し動いた。
そのまま動きそうだったので、ついその扉をそのまま軽く少し押してみると、ズゴゴッと鈍い音が鳴り響き、開きかけた時脳内に声が響いた。
【ダンジョンを解放しますか?
ダンジョンを解放した時点で
ダンジョンの出現場所
ダンジョンの外観を決める事が可能です
一度決めると変更は不可能です】
「あっ、ぶな、これ今ダンジョン内を何にもしてないのに解放しちゃダメでしょ。それに、早くし過ぎると直ぐに制圧されてゲームオーバーだろうし」
30日の猶予があるんだ、まだ1日ぐらいしか経ってないし、焦る時期でもない。
まだ時期尚早だと思ったので、その場所を後にしてまだ見ていないだろう方向に向かって歩き出した。
それからもしばらくダンジョン内を見て回っていたが、代わり映えしなく、最初は感動した景色でもずっといると飽きてくる。
まさにダンジョンのスペースという感じの土と木と草しか無い空間であり、たまに湖を見つけるのみでその他の物が一切無いという事が分かった。
「うん、本当に何も無いな。これから色々改造していくのか、大変そうだな」
この大きな空間をきちんとダンジョンと呼ばれる位まで整備しないといけないと思うと大変そうに思うが、その反面これからのことを思うと色々できそうで楽しみだった。
結構こういう物作りみたいなゲームは好きだった、だからこそ選ばれてしまったのかも知れない。
「一通り見回ったし、動き回って流石に腹が減った。一旦マスタールームに帰るか」
しばらく、だらだらと取捨選択し、採集しながらダンジョン内をうろついていた。
しかし、一旦足を止めて昨日目を覚めてから何も食べていないことを思い出すと、とたんにとてもお腹が空いた。
今いる場所はマスタールームまで遠く、すぐに帰ることが出来ないかなのと思った時、全身が淡く発光した。
そして、次の瞬間にはマスタールームの前に立っていた。
「おぉ、そういればダンジョン内ではダンジョンマスターは移動出来るんだったね。移動っていうか瞬間移動か、便利だな。それにしても、知識としては覚えているけど、身に覚えが無いって気持ち悪いな」
ダンジョンマスターになる際にダンジョンコアによってダンジョンに関する全ての知識を貰ったが、まだ使用したことも無いことが多く、内容も多いので全てを記憶するのは難しいのだ。
「まぁいいや、何か食べ物があるといいんだけれど…………。全然無いじゃん」
お腹が空きすぎて死にそうだったので、すぐにダンジョン操作のDPショップを開き食料品を探した。
けれど、今すぐ食べれて、お腹を満たすことが出来そうなものはほとんどなかった。
唯一あったのは、某カロリー摂取できそうな固形栄養食のみたいなもの。
それもどきとしか言えないものしか無いと言う事が分かった。
それしかないのであれば仕方ないので、それを2つばかり買った。
せっかくなので、探索中に見つけた水を飲めそうなぐらい澄んだ湖に移動した。
それと、採集してあったそのまま食べれるらしい木の実を何個か持って。
「……すっぱぁ」
固形栄養食は味がしないので美味しくなく、野生の木の実は酸っぱかった。
クルミっぽい木の実が1番美味しかったので後でまた見つけて、たくさん拾ってこようと心に誓った。
そして、湖の水は冷たく澄んでいて美味しかった。
これからの執筆活動、少しでも応援して頂ければ幸いです。
平和な松ノ樹