第3迷宮 全ての始まりの樹
「うぅ……」
目を覚ますと知らない場所だった。
目を覚まして初めに目に入ったのは、今までに見た事のないぐらい広いなにか。
それは知覚できない程遠くまで続いているようで、吸い込まれるように暗く見えた。
夢かと思って寝直そうと思ったけど、地面が硬くて体が痛いし、寝直そうと思ってる時点で夢じゃなかった。
そう思った瞬間目が覚めた。何が起こったのか分からないけど何かやばいことが起きているのは分かった。
そのまま周囲を見渡すと、周辺には何もなくて遠くに茶色い壁があった。
床は木材なのでずーっと続いているのかもしれない。木の匂いで溢れていてなんだか安心する。
光源は見当たらないのにキラキラと明るくてなんだか見惚れてしまった。
僕の居る位置から年輪が床に刻まれているようで、まるで世界の中心に立っているように感じた。
巨大な樹の中の世界とか?なんでこんな所に居るのかは分からないけど。
そのまま立ち上がると、目の前に光の球があった。
黄緑色に光輝いていて、どこを見ても歪なところの無い水晶球。
それが、その空間に縫い付けられたように浮いていた。
「何だここ。普通にベットで寝てたよな?」
僕が意識して放った声は、どこかに反響することもなく空間に消えた。
突然のことに驚いて混乱しているうちにどのくらいの時間が経ったんだろう?
急に頭の中から湧いてくるように機械のような無機質な声が響いてきた。
【新規ダンジョンマスターの生体情報確認】
【ダンジョンコアとの接続確認】
【新規ダンジョンマスターに必要な情報をインストールします】
「えっ?」
ダンジョンコアやダンジョンマスターなんて聴き慣れない単語が沢山聞こえて来て困惑する。
ダンジョンコアとはこの目の前にあるきれいな球の事なのだろうか?
これがコア……ここの心臓だと思うと、なんだかしっくりきた。
ということはここはダ
「うぐっ……がああああぁぁぁ……ぐっ……あ………ぁ………アァ………」
そう考えていると、急に何かが頭の中から突き破って出て来てこようとしているような理不尽な痛みが、僕に襲いかかってきた。
それに呼応してか、全身が激しい痛みに叫びをあげている。
そんな状況で普通に立っていられるわけもなく、床に倒れ伏した。
もがき苦しむっていうのはこういうことなんだろうなんて関係ないことを考えた。
この痛みを思いっきり叫ぶことで和らげようとするのだが、人体の限界を超えているような痛みは声を出すことすら許してくれない。
「ア………ぁ…ァ……………あ………」
【新規マスターの耐久値が足りていません】
そんな声にすら出すことのできない叫びは、この僕以外に誰もいない空間に吸い込まれて消える。
永遠にも感じる一瞬の時だったが、遂に、いややっとというべきだろうか俺の意識が途切れそうになった。
しかしその時、またもや先ほどの声が脳内に響いた。
【マスターの種族を更新します】
「はっ…ハァ……ァ………」
急に頭がクリアになり、さっきまでの地獄の拷問を全て一身に受けたのかとでもいうような激しい痛みを感じる時間から解放された。
さらに、それによって起こっていた今までの痛みも全て嘘だったのかのように消えてなくなった。
なんだったんだ!と正体不明の声に対して怒りと困惑で叫びたくなったが、それをするにも気力が沸かない。
起きたばっかりなのにこんなことが起こったので、なんか疲れ切ってしまった。
地面に倒れ伏したままでそのまま呆けていると、急に体全体が熱をこもったように暖かくなる。
何が起こったのかと自分の体を見てみると、眩しいくらいに明るく光っていた。
そのまま体がどんどん軽くなっていく、まるで体が一から、細胞の一個一個に至るまでが全て新しくなっていくような。
全身が高次元の存在へ再構成されていくような不思議な感覚。
体の熱がおさまり、僕を覆っていた光もなくなると、頭の中がスッキリしたような気がし、普段よりも調子がいいように感じた。
周りの光景もさっきよりはっきり見ることができる。
そのままずっと横になってるわけにもいかないので、立ち上がることにした。
【続けて情報のインストールを行います】
今必要としていた全ての情報が元々知っていたかのように頭に入ってくる。
今何が起きていたのか、これから自分が何をすべきなのか。
知識が頭の中から湧く様に出てくる。
いつの間にか、僕の中にあった混乱も無くなっているようで、いやに落ち着いていた。
【コアと同期します】
その声がいうには、僕は目の前に綺麗に輝いているダンジョンコアに選ばれ、ダンジョンマスターという職業?に強制的にさせられてしまったらしい。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ようこそダンジョンマスター
マスタールーム
ダンジョンエリア
ダンジョンスペース(小)
10000DP
ダンジョン毎スライムスポーンブロック
を手に入れました
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
全てが終わったと思ったら目の前に黒く半透明な画面が現れ、白い文字で歓迎の文が書かれていた。
それと同時に、幾つかのアイテムの入手を知らせてくれた。
その後、ダンジョンコアはゆっくりだが真っ直ぐと俺の胸に向かって浮遊しながら近づいて来る。
それは、僕の体に触れたと思うと体の中に溶け込んでいく様に消えて無くなった。
ふと前を向くと、ダンジョンコアがあったはずのその場所には、木製でありながらも王者の風格を感じる大きな玉座がいつのまにか置いてあった。
ひとまず今の状況を整理する為にも、目の前にある自分の所有物であろうその玉座にどかっと腰掛ける。
その玉座は、大きく硬い木製のはずだったのに僕の体に合っているのか、何故か心地よく感じた。
「はぁー。なんだろうこれ、夢?じゃ無いだろうなぁ。頬をつねるまでもなくさっきまで死ぬほど痛かったからなぁ」
さて、今の状況を確認するとしようか。
僕は、さっきまで見ていたダンジョンコアという物体に選ばれたことでダンジョンマスターとなった。
そのため、普段生活していた地球とは違う空間に連れ込まれてしまったらしい。
そして今僕が居るここはダンジョンという空間。
今いるマスタールームと外にあるはずのダンジョンエリアからなるこの世界。
これはここのダンジョンマスターになった僕の所有物である。
色々と制限があるもののある程度は自分の好き勝手に弄ることが可能なようだ。
そして、元の世界では、僕や他のダンジョンコアに選ばれてしまいダンジョンマスターになった人達はすぐに元々その世界に存在しなかったものとして扱われるようになっていくらしい。
元の普通の生活をするのは諦めろって事なのかな。
最後に、これが1番大切なことなんだけど、ある程度ダンジョンを整備したら僕たちが元々いた世界にダンジョンの入口を繋げないといけないらしい。
制限は一ヶ月だ。
ここまでの情報を全て要約すると、ダンジョンを造って地球を攻めよう♪ってことかな。
まじか………。
そして、冒頭に戻るのだった。