第23迷宮 ダンジョン解放
今日こそはダンジョンを解放しようと思う。
なんて考えていたらもう昼を回ってしまった。
つまり、東京駅でのスタンピードから半日以上が経過したってことだ。
色々調べたんだけど、情報規制でもされているのか、みんな混乱しているのか、追加の情報は何もなかった。
ダンジョンマスターによる合同スタンピードの話し合いは初めのうちは公開板にて行われていたのだけれど、途中からグループチャットに移ったみたい。
グループチャットへは自由に入れたみたいだけれどそこに入る勇気はなかったので、彼らから公開される情報しかわからない状態だった。
それも、昨日の5時過ぎから書き込みが減り、開始の挨拶以降連絡もなかった。
実際に行動を起こしたのかどうかも不明な状況で時間が経過してしまったのだ。
10人近くのダンジョンマスターが参加しているそうなので、何かしらの連絡はありそうなんだけど。
何か問題があって忙しいのかな?
あっちが忙しいほどこちらはうまくいく可能性が高いから、向こうは向こうで頑張ってほしい。
という訳で、予定通り。
「目標は成田空港!よしっ、行こう!」
「キュー!」
そう気合いを入れると、歩いて扉まで向かう。
直接移動だってできるんだけど。なんとなく。
少し鬱蒼とした森だが、風は流れて、木のなく音、虫がさざめく音、鳥の鳴く音全てが心地よく聞こえてくる。
しかしそれに気を取られると、命取りになる。
周りをよく見ると、足元にはシードやスライムがいて常に攻撃の隙を窺っているし、周りの木にもプラントが潜んでいて、いまにも襲いかからんとしている。
また暫く歩いていると、湖があった。
周りにはウィスプの群れが飛び回っている。とても幻想的な光景だ。
そして見つかれば周りにモンスターが集まってくる自然の罠でもある。
この状況では十分だろう。おっかなびっくりやってくる冒険者みたいな人達を追い返すぐらいはできる。と思う。
もしかしたら、自分のダンジョンを見て回ることでミスを見つけてそれを理由にダンジョンを開くなんて考えをやめにしたかったのかもしれない。
しかし、今の時点でそれを見つけることはできなかった。
そして、ついに目の前には大きな扉があった。
初めに見た時と何も変わらないのだが、それよりも大きく、立派に感じるのは、僕の心持ちが変わったからだろうか。
何事も真剣になればなるほど、難しく感じるものだ。
「そうだリディアにも連絡しておこう」
先にダンジョン開放した先輩に一報入れておくことにした。
そうするとすぐに返事が送られてきた。
「頑張ってかぁ。よし!」
結構緊張していたのだけど、応援されると少し気分が落ち着いた、いや覚悟ができたのかな。
扉に手を置き押し始める。
ダンジョンの扉は頑丈で重々しいが実際には驚くほど軽い。
【ダンジョンを解放しますか?
ダンジョンを解放した時点で
ダンジョンの出現場所
ダンジョンの外観を決める事が可能です
一度決めると変更は不可能です】
途中またあの声が選択を迫ってくる。
はい。
僕が望むのは、
次の瞬間僕はホールに立っていた。一番初めのダンジョンマスターの部屋と同じような作りの部屋だった。
しかしそこには、初めと違い出口があった。
そしてそこから見えるのは、外の風景。
大きい建物と青い空。少し曇っていたけれど、中がずっと晴天であるのと違いそれが自然だと感じ、なんか涙が出てきた。
つい駆け出して、視界いっぱいに外の風景が映ったとき、見えない壁にぶつかった。
僕がダンジョンから出ることはできないみたい。
これはリディアに聞いて知っていたことだった。それでも結構心をえぐられた。
いつかここから外に出ることができるのかな。そんなことを思った。
すぐに振り返り、外の風景に気を取られないよう玉座に転移した。
さて、ダンジョンの開放はうまくいった。
侵入者が現れるとわかるらしいので、暫くは放置でいいだろう。
まずは、ダンジョン開放と共に手に入ったこれ。
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レアモンスターチケット
現在のダンジョンからは生成することができないモンスターをランダムで生成することが可能
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そうガチャチケットです。このダンジョンガチャ要素あるんだってちょっと虚無ったんだけど、あったらあったでうれしいので、文句はないです。
というわけで、それを使おうとすると胸の中心辺りから丸い光が出てきた。
どうやらそこにしまってあったみたい。
チケットとあるが、紙ではなくモンスター生成の途中の光のようだった。
そしてそれは、光の粒になって空中に溶けるとこれまでのものとは別格の光を放った。
周囲から集まるふわふわの光も一つ一つがバレーボールぐらいあるし、直視すると眩しいくらいの光量がある。
そうして強く光るとそこには、一本? の不思議な形の木があった。
5メートルはありそうな大きな木だ。それも根っこが体積の半分以上を締めている。僕の身長よりも高い所まで根であるようだ。
それが不規則にウネウネと動いている。なんていうかクラゲみたい。
そしてそこには女の人がいた。絶世の美女、いかにも女神様みたいな人だった。あっ、いま目が合ったよね?
根っこを叩いて、口を開閉しているけれど何も聞こえない。根っこの内側に閉じ込められて出られない様子。
「こんにちは」
ひとまず声をかけてみることにした。が反応はないみたい。
「えっと、ここのマスターの東雲っていうんだけど……これからよろしくね?」
「キュ! キュイ!」
エメラルドも挨拶?をしたけれどやっぱり反応は変わらない、いや、根っこのウネウネは少し早くなったかもしれない。
「えー、よろしく。ちょっと鑑定しますね」
女の人を助けようにも、どちらかというと周りの木の方が僕の召喚したモンスターだろうしどうしたらいいのか。最悪命令するとして、らちが明かないのでここで鑑定をかけることにした。
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名前 なし
種族 ケージトレント ランク C
レベル 1
スキル
幻影 エナジードレイン 再生
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女の人に対して鑑定をかけたのだが、わかったのはモンスターの詳細だった。しかし彼女のことも同時にわかった。
つまり、この子は根っこの檻に美女などの幻影を作り相手をおびき寄せて捕まえ、生気を吸い取る樹霊系のモンスターらしい。
初めてちゃんとした樹霊系のモンスターをゲットしたのだけれども、僕のダンジョンの種族ってこんな感じなのか。理解できるけどなかなか性格の悪い性能だった。
初めての高ランクモンスターだけど、眷属化は10レベルごとに1体なので今は名付けできない。
せっかくなので彼女? をダンジョンスペースのボスに設定した。HPMPの倍化だけだけど、元々HPとMPが高いモンスターなので結構強くなった。
ランクCのモンスターは基本生成DPが10万だけど、種族と属性のおかげで1万DPで生成することができるらしい。今DPが10万近く残っているから複数体運用も可能だ。結構強い。
その後、ケージトレントの戦闘方法を確認したり、モンスター達に指示出しをして時間が過ぎた。
モンスター達はマスターの指示には忠実である。
それにしても、ダンジョンを解放してから結構経つのに侵入者が一人もいない。
時間を確認すると、もう4時を過ぎて夕方に差しかかる頃。
都内とまではいかなくても、一日に何百人もの利用者がいるような場所なので誰にも見つからないなんてことはないと思うんだけれど。
外を確認するのはさすがに危険だろうし、何か情報がないか掲示板を漁ったけれど特に僕に関係がありそうな話題はなかった。
それはそうとスタンピード組の情報もないのは少し怖い。今更だけど今ダンジョンを開くのは失敗だったのだろうかと、不安が込み上げてきた。
精神強化なんてスキルがあっても今日一日胸が張り裂けそうなんだけど。人間だったら死んでる。
そういえば外の世界と通信が繋がったようなので、自室のパソコンでダンジョンについて調べていると、とんでもないものを見つけてしまった。
日本 ダンジョンと検索した一番上のニュース。
それはついさっきのものみたいで。
全てのテレビ局で緊急で流されたらしいニュースが僕のパソコンの一面に大きく表示された。
『新しく発見されたダンジョンを包囲! 明日には突入か?』
一拍遅れて脳が理解すると、心臓が飛び出るかというほどの驚きが襲いかかってきた。
なぜならそのパソコンに表示されているのは、まさしくさっき門を開いた僕のダンジョンだったからだ。
コンクリートの上に生える大きな木。そこには洞のような口があった。
そしてそれを囲む即席のバリケードと車たち。明らかに軍隊のような人も映り込んでいた。
記事を読んでいくと、さっきまで緊急会談が行われていたそう。
会談の要約によると、このダンジョンは海外への連絡口で要所である空港を封鎖することによって、日本に混乱を巻き起こそうとか考えているらしい。
恐っ。
それに対処しようと先日の東京侵攻に対して最低限の防衛を残してここに集まって来ているらしい。
恐っ。
それらの第一軍がいま僕のダンジョンの周囲にバリケードを作り、もしモンスターが出てきても外に出さないようにしているらしい。
恐っ
ダンジョンマスターにはこの情報が伝わっている可能性があるので、
うん、がっつり調べてますけど、
大人しく投降しろと。
僕まだ何にもしてないのに。
そもそも投降ってなんですか?
僕外に出れないんだけど、大人しく自衛隊の皆様の養分になれってこと?
この一話を書くのに三年以上かかっているらしい……。
学生時代の作品を社会人になってから再開するという。気恥ずかしいですが頑張ります。
そしてこの一話を書くのに12時間はかかりました……。
読み返して頑張って書いたのですけど矛盾点があったら教えて下さい細かい計算は忘れたのでフィーリングで行きます。
これからの執筆活動、少しでも応援して頂ければ幸いです。
平和な松ノ樹