第21迷宮 日本の王
目が覚めると、そこはなんとも立派な部屋であった。
古めかしくなんとも風情のある空間だ。
王城……いや玉座の間というべきか。
正面にある黒く耀く玉座が強く主張している。
一見豪華に見えるが無駄な装飾なんて一切なく質実剛健さが伺える。
正直好みだ。
こんな状況でさえ無ければ色々見回して感動したりも出来ただろうが……。
今の状態は好きになれない。
いきなりこのような場所に連れてこられたと思えば、痛みとともに理不尽な物を押し付けられたのだから。
このダンジョンとはなんとも恐ろしい物だろうか。
エネルギーさえあれば無限に兵士を創造できる。それも自らの死を恐れない兵を。
こんな物が元の世界に大量に現れる?それもダンジョンマスターとなった者が好きにしていいと突き放して。
そんなもの、どう考えても世界が混乱するに決まっているじゃ無いか!!!
突如現れる未確認の生命体。それらが不明瞭な目的と死を恐れない意思を持って襲いかかってくる。
そんな下手なパニック映画のようなものが実際に起こるんだ。
勿論政府は後手後手に回るだろうし、市民は餌食になるだろう。
さて、俺は今までこの国の自衛隊として半生やってきた。
これまで、いざという時には国民を、人を守ろうという思いでここまで生きてきたんだ。
それなのに、これからは世界を滅ぼそうとする側の一端にいます。なんて、俺の矜恃が許さない。
これまでの人類数千年の歴史を壊し、強盗、殺し、強姦なんでもありの世紀末な世界なんて俺は見たくない。
「はぁ、どうするべきか」
どうにかできぬものか。
目指すのは、このダンジョンというものが日本、いや、世界に広がった時にどこまで混乱を防ぐことが出来るかだ。
俺は最悪どうなってもいい。
コアに攫われた俺たちのことなんてすぐにわからなくなるとあるが、逆に今なら少しだけでもわかるかもしれない。
なら今のうちに行動すべきではないだろうか。
こんなところに座り込んでる場合じゃ無いな。
「俺がこの国を……いや。世界を守るんだ」
これは俺の一生を左右する決断になるだろう。
いや、何だ。
年甲斐に無くワクワクしてくるじゃないか!
そう心を決めると、直ぐに動き出す。
まず玉座の間を抜けた先に広がっていたのはまだ何もない空間だった。
一定間隔に硬そうな柱が立っていたが、それ以外には何もない。
そんな空間をひたすら歩いていく。
色々できる事はあるようだが、やる必要は感じない。後回しだ。
その果てには大きな扉があった。
扉にはびっしりと彫刻がされている。
「これは、王と家来か?」
中央に描かれた王冠を被った人物に、首を垂れて何かを捧げる骸骨達。
しかも王は中央2つの扉にまたがって描かれている。
これを開けたら中心から真っ二つだ。
「悪趣味だな」
しっかりと確認なんてしなければよかった、不吉な彫刻。
下らない悪趣味なものだと吐き捨てる。
その扉に体重をかけると、またあの無機質な声が聞こえてきた。ダンジョンを解放するか?か。
「勿論YESだ!」
場所は自衛隊の訓練場。形はプレハブ小屋でいい。後で変更できない?上等じゃないか!
扉はゆっくりと開いていった。外につながっただろうか?
「モンスターチケット?」
そういえばモンスターはどうしようか。
話し合いがうまくいけば要らないし、上手くいかなかったらお終いだ。必要ない。
【新たな称号を手に入れました】
「称号?なんかしたか?」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
称号
先駆者new
変革した世界で最初に行動した証
経験を積む効率が上がる
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ステータス値という物を確認できたが、スキルや称号やらが沢山載っていてなんだかよく分からなかった。
扉の先には先程の空間よりは小さい部屋があった。
玄関か?それにしては広いな。
だがさっきから変わらず黒い金属で覆われた無骨な部屋だ。
そのまま歩き、恐らく最後であろう扉を開く。
外に繋がっているはずだ。
扉が開くと、その先には見知った建物が見えた。
よしっ、気張れ俺!
外に踏み出そうとした足は見えない壁に弾かれた。
「出られないのかよ」
残念ながらダンジョンマスターはこれから出られないらしい。
この冷たい部屋に1人とか、牢獄か。
その後、自衛隊員がダンジョンへ突入した事でなんとかコンタクトが取れた。
俺の現状とこの世界に起きるであろう悲劇をなるべく伝えようと努力をしたんだが、半信半疑だった。
実際にここから出られないし、この建物が突然現れたので嘘ともいえないって訳だ。
それと、知り合いがやって来たので話しかてみたところ変人扱いされた。
俺の名前に対し少し思うところはあるようだったが、結局知らぬ存ぜぬで通された。
後で知ったのだが、元々アラフォーのさらに老け顔だったのが、二十代で通りそうなほど若返っていたのだ。
顔をよく見ろって言っても変わってるんじゃあ仕方ない。
それはそれとして、俺の名前は名簿になく、戸籍まで消えていたらしく身元不明で、基地内にプレハブ小屋(内装はそんなレベルじゃない)を建てて立て篭ってる変人。
本気の奇人扱いだったらしい。
これも後で聞いた。
初めは全く取り合ってもらえず、3日ほど経つと海外の惨状のおかげというと嫌味があるが、それがあったのですんなり話し合いを行うことができた。
そこで、俺は改めてこの状況を全て話し、考えていた案を提示した。
事態の緊急性、予想される被害やもたらされる資源、ダンジョンの管理者とは会話ができることなど出来る限りのことはしたつもりだ。
事態が事態なので、胡散臭い専門家を集め更に何日か話を詰めると、ある程度の方針は決めることが出来た。
これでも超特急だ。普通新しい政策をたてるのに1ヶ月もかからないなんてことはない。
これも俺が狂人だと思われてもダンジョンの資源を見せつけて、供給したことと、海外が場所にもよるがダンジョンを脅威だと声高に叫んでいたお陰だろう。
これで、国民の命を守ることもでき、ダンジョンマスターになってしまった人の生活も保障できれば、国の今後の資源も解決出来る。
唯一の不安点は、ダンジョンマスター達が賛同してくれるか否だ。
日本全国のダンジョンを管理し、ダンジョンに侵入する探索者も管理する。
両者の命と権利を守る計画。
それが、日本ダンジョン協会だ!
早速ダンジョンマスター達を集めなければ。
掲示板で呼びかけて、賛同してくれた者と直接連絡をとって、地道だがしくじれない。
早速掲示板を開く。
869:初心者迷宮主
結構人数集まったな
東京駅をガチダンジョンにしようの会
870:初心者迷宮主
1人で行くつもりだったんだが、人は居るほどいいな!
871:初心者迷宮主
言うて5人でしょ
872:初心者迷宮主
で、夕方って言ってたけど何時?
873:初心者迷宮主
今日の夕方、サラリーマンの帰宅時刻を狙って6時過ぎぐらいで。




