第19迷宮 ダンマス同盟
「おはよう!大樹!」
「キュー!」
目が覚めたら、目の前に綺麗な女の子の顔があった。
これは夢かな?多分夢なのだろう。
だって僕こんなに綺麗な女の子知らな……
「リディア?」
「うん!」
昨日の無口さとはうって変わっていい笑顔だ。
その笑顔から覗かせる牙が少し怖い気もするけど。
「おはよう」
昨日、真のダンジョンで女の子を拾ったんだった。
僕以外のダンジョンマスターが本当に居るんだとなんだか親近感が湧いて面倒を見ていたのを思い出した。
それにしても、昨日よりも元気そうだ。
僕が返事を返したことに、楽しそうに笑顔を返してくれる。
昨日は、必要最低限の質問には答えますよみたいな感じだったのに。
シンプルに疲れていたのと、栄養と休養が足りてなかっただけだったのかな。
「うーん」
横になっていた床からゆっくり立ち上がる。床で毛布に包まって寝ていたせいで全身が痛い。
「おはようリディア。あれ?服どうしたの?」
昨日と服装が変わってる気がする。っていうかそれ僕の服じゃない?
「あっ、ごめんなさい。服借りてます」
ダボっとした大きな灰色のパーカーを着て、ズボンはベルトを締めて裾を捲ってなんとか着ている。
それに、腕の中にはエメラルドがいた。
あれ?その子僕の眷属……。
なんでそんな所にいるの?なんてエメラルドのことを見ていたら、エメラルドは体を揺らして抗議した。
「キュー!」
それに気づいたリディアが弁明する。
「あっ!違うの!この子は、このダンジョンを案内してくれて!」
エメラルドは僕の代わりに、早くに起きたリディアをお風呂とか果物の木とかまで案内してくれていたらしい。
服もエメラルドチョイスだとか。ナイス!
でもさ、腕に収まっているのは違う話だと思うんだ。
「朝食取ってきたのでどうぞ!」
とりあえず起きたので、着替えて顔を洗って戻ってくるとそう言われた。
女の子の手料理!と思ったんだけど、手に渡されたのはバナナ一本。
そう、バナナだった。
これは手料理って考えていいのかな?
この世界に果物しかなくて、他に料理のしようが無いから、仕方ないんだけど。
朝食を終えて、昨日の続きを話し合う。
リディアにはベットに腰掛けてもらって、僕は机の椅子を移動させて向き合う。
もちろんエメラルドは僕の膝の上だ。
「それじゃあ、まず、あそこで拾ったドロップアイテムを」
「キュー!」
エメラルドにあの部屋で拾った物を全て出してもらう。
Cランクの魔石9個に、アイテムが4つ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ゴブリンキングの剣 C
硬度 B
切れ味 D
魔力伝達 E
小鬼の王が使っていた大剣
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他にもCランクの回復ポーションが3つ。HP回復だけじゃなくて、1つはMP回復ポーションらしい。
「全部あげる」
床にドロップアイテムを広げていると、リディアがそう言った。
この大剣とか絶対に使わないだろうけど、結構高値で売れそうなのに。
「いや、それはダメだよ。これ全部で10万DPは軽く超えるよ?それに、僕はもうBランクの魔石1個もらってるから」
確かに、助けてあげたのだから少しぐらい貰えないかなという思いがなかったとは言えないけど、それは流石にまずい。僕の精神的に。
「じゃあ、半分」
そう言って魔石を5つ手に取った。
5つでも少ないんじゃないかと思って、反論しようとすると、リディアにそれを遮られた。
「そのかわり、また此処に来てもいい?」
もちろん、いつ来て貰っても大丈夫なんだけど、今回来れたのがイレギュラーだったから。
次来る方法ってあるのかな?脳内辞書。
少し知識を漁ると、いいものを見つけた。
案外この世界はこういう状況を予期していたのかもしれない。
「もちろん!じゃあそうしようか」
早速、メニュー画面を開いてお目当てのものを見つけ出す。
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下級誓約書 C
誓約を記す物。
破ったものにはそれ相応の報いが与えられる。
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これ1個でなんと、1万DPだ。
Cランクの魔石一個分に相当する。
もっと高価な誓約書もあったんだけど、今回の目的では必要ないのでこれを購入する。
10000DPを消費して、目の前にはなんだか物々しい羊皮紙と持ち手側が怪我してしまいそうなほど尖っているペンが現れた。
羊皮紙には、見たことのない文字で何かが書いてあったが、何故か問題なく誓約書と読むことができた。
この誓約書というアイテム。色々な契約で使えるらしい。
でもこの場合は。
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同盟
ダンジョンマスター同士で交わす契約
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ってことになるらしい。
もちろん細かく誓約をつけることもできるみたいだけど、相互不可侵とだけ書いていく。
同盟下にあれば他のダンジョンへ移動することも出来るのだとか。
それが目的なので、そこまで細かい設定はいらない。
最低限っぽいことは書いておくけれど。
その下に名前を書くところがあったので、東雲大樹と。
後は……血液か。はぁ、こういうやつってやっぱり必要なんだね。
予防注射ですら躊躇う人間なので、まず1番低いEランクのポーションを買う。
勇気を出して、その尖ったペンで親指を傷つけた。
そして、その親指を羊皮紙に押し当てる。
羊皮紙に移った血は染み込んでいって消えた。
僕の分は終わったので、ペンの血を拭ってリディアに渡す。
「一応ちゃんと読んで、名前と血をつけて欲しい」
「はい」
指の傷にポーションをかけて治しながら考える。
こういうシステムがあるってことは、どこか大きなダンジョンの傘下に降るという選択肢もあるってことだ。
そのつもりはさらさら無いんだけど、もしかしたらそういう手段を取ってくるマスターがいるかも知れないってことは頭の片隅に入れておこう。
今更だけど、今朝リディアが首を取りに来ていたら僕死んでいた可能性もあったのか。
物騒な世界になったのを理解していても、感覚的には平和ボケしていたのだろう。
紙を読んだらしいリディアは、自分の名前を書くと、指をポンっと紙の上に置いた。
それでいいんだ。やっぱりドラキュラ。
そう思っていると、誓約書は光になって僕とリディアの体に吸い込まれた。
これで同盟完了だね。
いつでもリディアのダンジョンに行けるし、リディアは僕のダンジョンに来れる。
「また来るから!」
リディアはそう言い残して光に分解され解けるようにいなくなった。
移動ってそうなるのか。
帰るの早いなとも思うけど、いつでも来れるので問題はない。
色々あったけど、ひとまず一件落着って事で!
さて、次の目標は!
「ダンジョンの解放だな!」
「キュー!」
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暗雲漂う古びた城の一室。
最上階にあるその部屋は外に吹き抜けていて、外の暗い雲がよく見える。
その部屋に少女は帰ってきた。
「おかえりなさいませ、主様」
玉座へ腰掛けると、何処からか長身の男が現れて少女に向かって跪いていた。
「お疲れ様、私がいない間どうだった?」
「侵入者は全て殲滅致しました」
「そう」
それだけ答えると、手には真っ赤なリンゴを持ち、考え込むように黙り込んだ。
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所持 97290
獲得 越日 200
消費 下級誓約書 10000
回復ポーションE 500
差引 86990
これからの執筆活動、少しでも応援して頂ければ幸いです。
平和な松ノ樹