第16迷宮 ランクBの怪物
「僕が相手だ!」
少女の方へ向かっていた怪物は、僕が目の前に入って戦おうとしているのを見ると直ぐに相手を切り替えたようで、こちらに襲いかかって来た。
敵はまだ遠い場所にいる。
深呼吸して気持ちを落ち着かせながら、ひとまず鑑定する。
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トロール B
レベル 17
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ランクBだって!?
さっきまで戦っていたゴブリン亜種がDランクだったのに。
2つもランク上の敵と分かった事で更に緊張するが、後ろに負傷者がいるのだから、逃げる事は出来ない。
目の前にいるトロールの武器は、小さな木ほどもサイズがある棍棒だ。
その棍棒を軽々と振り回している。
あの巨体から振り下ろされる巨大な棍棒に当たってしまったら……想像もしたくない。
吹っ飛ばされた子はこれが直撃してしまったのだろうか?
それで本当に生きているのか?助ける必要は……。
いや!まず考えるのは前の敵だ。
「先制!ファイアー!」
こちらに向かってくるトロールの顔面に向かって火の玉を投げつける。
それは目標通り、奴の顔面に命中したが、倒し切るまでの威力はなかったようで、片目を抉るぐらいしか出来なかった。
それを受けたトロールは怒りを込めた叫び声を上げると、手に持った棍棒を地面に打ちつけた。
その威力は凄まじく、欠けることが無いと勝手に思っていたダンジョンの床を抉った。
体がでかいってシンプルに強いな。
そのままその巨体を揺らしゆっくり此方に近づいてくる。幸いスピードは無いみたいだ。
ゆっくり近づいてくるトロールに火球を撃ち牽制しながら、後ろのエメラルドの様子を確認する。
よかった。女の子は息をしているみたいだ。
まだ目を覚ましてはいないみたいだけど、体が微妙に動いている。
ポーションが間に合ったみたい。その隣に転がるポーション瓶が中、小3本。
「3本……?」
あれ?エメラルドさんEランクポーションだけじゃなくて、Dランクのポーションも全部使っちゃった?
おっと、これはかすり傷1つ負えない戦いになった。
もともとまともに攻撃食らったらゲームオーバーなんだけどさ。
そうこうしているうちに、トロールは棍棒の射程に入ったのか、トロールが棍棒を振り上げた。
ここは自分のダンジョン内ではないので相手のステータスを確認する事は不可能なのだが、恐らくダンジョンマスターとしての色々な能力アップを合わせても僕の方が力が低いだろう。
だから、絶対に武器をぶつけ合う事はしてはいけない。
しかし、受け流すなんて高等な技術を自分が使う事なんてできるわけが無いから、相手のトロールの棍棒の横っ面を杖で打って方向をずらす。
そして、棍棒を打った瞬間に木属性魔法で武器破壊を狙う。
一歩間違えば、すぐに潰されて死んでしまいそうだ。
素直に攻撃を全力で避けて背後から一撃加えた方が賢かったかもしれない。
だけど、ここで引けばここに居る全員の命はない。
それに魔法込みの最大火力でもあいつを一撃で倒せる気がしない。
確実にトロールの攻撃を捌いていく。
幸いトロールの一撃は俺の目に追えない速さではなく、その攻撃を数回躱す頃にはそれが落ちる場所がわかるようになった。
ダンジョンマスターの能力か、ここまでで育った能力なのか、トロールの攻撃ははっきりと確認できているので、気を抜かなかければ、打ち負ける事はない。
そして、棍棒と杖が打ち合うときに木属性魔法を使って棍棒の方を劣化させる。
木属性魔法は木を操る魔法なので、木製の杖を強化させることも、木製の棍棒を弱化されることも出来る。
これが僕の今の唯一取れる手段なので、積極的にそして慎重に使っていく。
【受け流しのスキルを獲得しました】
【棍棒術のスキルを獲得しました】
頭に響いてくるシステムメッセージがここが死地であることを知らせてくる。
なんかズレているような気がするのは気にしちゃいけない。
このまま棍棒に、木属性魔法を使い続けて逆に耐久値を下げるようにしていれば、そのうちあの棍棒はぼろぼろになって、最終的に折れるだろう。
数回打ち合っただけで、こちらが吹き飛びそうになる。
ぶつかるたびにこちらのHPが減っている気がする。
魔法を使う度に気力が持っていかれて頭がクラクラしてくる。
そのまま暫く打ち合っていた。
数十分だろうか?いや、数時間かもしれない。僕の疲労度的には。
ついにその時は来た。
すでにもうボロボロだったのか、その棍棒は床に打ちつけた衝撃で砕け散った。
これだけ苦労して棍棒一つか。なんていう呆れも湧いてくるが、これからは僕たちのターンだ!
考えるんだ!この最大のチャンスでこいつを一撃で打倒する術を!
「エメラルド!」
「キュイ!」
少女のことを任せていたエメラルドを呼ぶ。
多分これが1番火力が出る。
「魔石をばら撒け!」
「キュー!」
エメラルドは素早く、武器破壊したことで困惑しているトロールへ向かうと、僕の支持した通りに持っていた魔石をぶち撒けた。
「よしっ!木魔法!」
トロールの周辺にばら撒かれた魔石に向かって、残っていたなけなしの魔力全てを使って木魔法を撃つ!
トロールを包み込み圧殺せんと放ったそれは、僕の杖から現れると周囲の魔石を取り込みながら成長し襲いかかった。
魔石の魔力を利用した、最大の木属性魔法は無事発動した。
そこからニョキニョキ生えてきた緑の蔦は、その巨体に絡みついたのだ。
金属よりも硬く、金属よりもしなやかな蔦。
不壊と言っても過言では無いだろうそれは、すぐにトロールを絡め取ると、その切先を体に突き立てた。
ここからは緑の塊しか見えないが、そこから青い血が染み出していく姿はなかなかに酷い。
僕は呆然とその姿が光となって消え去るまでずっと眺めていた。
「よしっ!これで一件落着っと」
「キュー!」
今日手に入れた魔石は全て消費してしまったけど、なんとかなってよかった。
周囲に落ちている大きな魔石やアイテムを拾ったらここから脱出しよう。
気を失っているあの子も連れて。
彼女にも色々聞きたいことがあるし。
これからの執筆活動、少しでも応援して頂ければ幸いです。
平和な松ノ樹




