第1迷宮 この世界ではない何処か
「どうしてこんなことになったんだろうなぁ……」
そこは、辺り一面、周囲360度のどこを見渡したとしても景色が全く変わることがないような締め切った空間だった。
そこから外へ出ることが出来そうなドアや、裂け目なども一切なく、そこから穴を開けることが出来そうなひび割れなどすらもない。
視界に映る全面が壁であり、一切の途切れもない木目に囲まれている。
それはまるで、この世界に存在するのがありえないほどの巨大すぎる樹があったとして。
そんな巨大な樹の中を、床だけを残して綺麗にくり抜いてしまったかのような不思議な光景だった。
もしこれが本当に巨大な樹の一部なのだとすると、その樹は、この世に存在するどんな樹よりも大きく、逞しく、天を貫き雲上に届くほどのものであろう。
この締め切った空間だけで、普通の学校のグラウンドと比べても大きいんじゃないかってほどに広大だ。
陸上競技だって余裕で出来てしまいそう。
出入口がなく窓すらも見当たらない、直接中へワープしてしまったんじゃないかってぐらいには全てが整っていた。
完全に外界と遮断されているため、外の光が届くわけもなく、この空間の天井に蛍光灯などの光る物質があるわけでもないのに、不思議とどこか暖かい光が満ちている。
そんな空間がここにはあった。
そんな不思議な世界の中心には立派な玉座が存在していた。
この空間の中心には周りと同じく木で作られた、シンプルだけれど立派でしっかりと迫力を感じさせる玉座だ。
その玉座は、この空間の地面から生えてきたかのように、いや、床や壁と同じ樹から直接切り出したのかと言うほど世界と一体化していた。
その玉座は漆でも塗ってあるのか、空間に溢れる光によって綺麗なこげ茶色に照らされている。
そんな玉座には、1人の男が座っていた。
特にこれといった特徴もなく、中肉中背のごく普通の男性だ。
そのほかには何もないため、その人物が何もしないでいると、物音一つもしないようになってしまう。
風すらも通らない上に、音も触感も匂いも感じないその空間は、とても空虚で寂しく感じられた。
もし、人がずっとそこに閉じ込められるのだとしたら1時間と経たず、すぐに気が狂ってしまうんじゃないだろうか。
そんな不思議な世界の中心で、玉座へ深く腰掛けたこの空間の主たる青年が疲れきった様相でぼそりとそう独りごちた。