間話 最初の勇者 下
気がつくと、あたりにモンスターは居なくなり、代わりにいろいろなアイテムが落ちていた。
さっきのモンスターの一部のようなものや、中身の入っている小瓶、タブレットサイズの石板など。
最初の敵が落としたような魔石だけでなく、色々なアイテムが広がっていた。
それらを拾う前に倒れた仲間の体を調べる。
まだ蘇生が可能かも知れないので、そのままにしておくのは忍びない。
残念ながら、彼らが息を吹き返すことはなかった。
荷物を整理し、体を綺麗にしてやる。
流石に背負って行動することは出来ないのでここに置いていくしかない。
もし、ここを突破して安全行動にすることが出来るようになれば体を持って帰ってやる。
「絶対体だけでも返してやるからな」
モンスターに喰われなければいいが。
「周りに落ちているアイテムを回収しろ!」
残った隊員達とその場に広がっているアイテムを拾い集めることにする。
ここにある全てのものは、この先の世界で重要なものになるだろう。
そうでなくてもそう思わなくてはやってられない。
俺は、はじめに目についた水色のゼリーみたいな物体を拾ってみることにした。
さっきのモンスターの一部みたいな物体だ。
触ると手にひっついたが接着したというわけでもなくすぐに剥がすことができた。
触ってる分には気持ちよくずっと触っていたいとすら思ってしまう。
なんだこれは、ハンドガムか?
それに不思議なのは地面に落ちていたはずなのに全く汚れていないのだ。
こんなものが地面についてしまったら土を含んで不透明になってしまうはずなのに水色に透き通っていて汚れが一つも見えない。
そんなアイテムを観察していると、隊員の1人が声を掛けてきた。
「隊長!この石板、自分の能力が数値化されて表示されるようです」
隊員が渡してくる石板を貰って表面を見てみると何やら文字が彫ってあるみたいだった。
ステー、タス?
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ステータス
名前 ディラン・G・バロン 年齢 42
種族 人族 性別 男
レベル 12
HP 1320
MP 440
力 264
魔力 132
敏捷 220
器用 132
スキル
身体強化 魔力操作 精神保護 射撃 短剣術
称号
ダンジョン適性
職業
戦士
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レベルだと?
ゲームの世界になったってのかよ。
そのせいで俺らがこんな目に合うってんのかよ。
笑えないジョークだな。
本当ふざけてやがる。
こんな世界にした元凶はぶち殺してやらないと気が済まない。
神だって構うものか。
落ちているアイテムをまとめる。
それぞれ最低一つを袋に入れて持つことにした。
残りはまとめて置いて仲間の死体の近くに置く。
こんなところ早く出てしまいたいが、これで探索を終わりにするのは死んだ仲間達に申し訳がたたない。
それにさっきの戦闘であいつの倒し方はわかった。
大量に倒したのでこの世界の敵の総数も減っただろう。
「死者の弔いのためにも先に進むぞ!」
『さー!』
いい返事だ!
さぁ、進むぞ!
こうは言いたくないが、仲間から死者が出てしまったのが逆に士気が上がっているように感じる
だが、恐怖を感じて士気が下がるよりもいい。
それからは敵も集団で現れることはあまりなかった。
この世界のそこら中に存在しているのか、バラバラに突撃してきたし、集団に囲まれたとしても無難に対処することができた。
それに、さっきのモンスターの名前がわかった。
さっき拾った石板を持ちながらモンスターと敵対したときにそこに相手のステータスを表示することが出来たのだ。
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種族 スライム ランク F
レベル 1
HP 300
MP 150
力 60
魔力 30
敏捷 60
器用 30
スキル
突進
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そこまで強いわけではないようだった。
それもそうだろう。最初の戦闘で全員慣れたので、それからは誰1人傷1つ負うことなく進んでいたのだから。
俺も仲間が死んでムキになってしまったのだろう。
それに、最初の襲撃で慣れてそれから怪我するものすらいなかったのもいけなかったのかも知れなかった。
この世界に踏み入れてから1時間弱、かなり深くの場所まで来ただろう。
俺たちの目の前には、俺たちの身長より大きいスライムがいて、その先の道を塞いでいた。
そのモンスターは、他の奴らみたいに奇襲をしたりしてきたりはしなかった。
湿地帯の俺たちの進行方向の前に待ち構えているのだ。
まるで、これより先には進ませないと言っているようだった。
あれを見るに彼方にも意思があるし目的があるのだろう。
しかし、此方にも意地があるし大義があるのだ。
「12時の方角!撃て!」
俺の声が響き渡る前に銃声が鳴り始める。
鉛の弾があのデカブツへ向かって真っ直ぐに向かっていく。
銃弾が奴に当たる直前。
そいつの姿は宙にあった。
高く飛び上がったのだ。此方に向かって。
「散開!」
しかし、こっちに向かって直接飛んでくるのであれば避けるのは容易い。
今更地面に足を取られることなく走り出す。
少し離れ、範囲から抜けただろうと向き直り、落ちたところを狙い撃ってやろうとする。
直ぐに指示を出そうとすると、奴の体から、大砲サイズの水の塊が放たれた。
それはかなりのスピードで此方に向かって来るようだったので、そのまま走り振り切る。
それは、俺の背後に落ちると、地面を抉り取った。
いくら実地帯で地面が柔らかいと言っても、あれが当たってしまったらひとたまりもないだろう。
体を翻し怪物に向き直ると、目の前には残酷な景色が広がっていた。
奴はあれを全方向に放っていたらしく、避けきれなかった隊員がいたのだ。
足が折れてしまったのかろくに動けないものや、頭を打ったのか意識を失ってしまっているものがいた。
そして、その地面には大きな水溜りが出来ているので、体の半分が水に浸かってしまっていて危ない。
すぐに駆け寄り救出しようとするが、それをさせてくれるような相手じゃなかった。
体から触手のようなものを生やし、追い討ちをかけようとしている。
「やめろぉお!」
俺はつい頭に血が昇って近くの隊員に駆け、その怪物の腕一本を相手取ることにした。
俺の腕ほどのサイズのそれを銃で受ける。
確かに力は強かったが、身構えれば受けられないほどではない。
しかし、反撃にと撃ち返すが、当たっても水になって散るだけで手応えが全くない。
どうするべきか。
「立てるか!」
後ろに庇った隊員へ呼びかける。
「はい!」
動けはするみたいだな。
「よしっ!こいつの相手はどうだ!」
「で、出来ます!」
少し怯んだようだが、こいつの攻撃は想像よりも軽い。
精々成人男性のパンチぐらいだ。
普段鍛えた人間を想定に訓練しているんだ、間違えなければ死ぬことはない。
「隊長は!」
「なんだ!」
「どうするつもりですか?」
どうするか?そんなの決まっているだろう。
「俺は、本体だ」
後ろの隊員が完全に立ち上がるのを確認すると、触手をうち払い走り出す。
初めからこうすればよかったんだ。と背負っていたランチャーを準備する。
もちろん奴に向かって走りながらだ。
それを見た奴はさらに腕を増やして向けてくるが、そんな直線的な攻撃で当たると思われているのだろうか。
いや、そんなに頭があるわけじゃないんだろうな。
走って近づくと、やっと水晶のようなものが確認できた。
あれを撃ち抜け無ければ全て終わりだな。
なんともなしにそう確信した。
しかし、流石にこの攻撃の中で当てられる自信は無い。
同時にこんな攻撃でやられるなんてこともないだろうが、打つ手がない。
飛んでくる怪物の腕を打ち払いながら、考える。
その時、
「隊員!俺が受け持ちます!」
俺が避けようとした腕が撃たれて四散する。
「レスター!周りの隊員は!」
「全員生きてます!」
流石だ。そのまま用意していたランチャーを構えて狙いを定める。
「撃つぞ!」
直ぐに俺の持っている筒が火を噴いた。
そこから放たれた砲弾は、怪物の体内の水晶を撃ち抜いて反対の地面に突っ込んだ。
これで倒すことが出来たのだろう。
他の隊員を襲っていた触手は重量に逆らえないかのように水になり落ちていった。
本体もゆっくりと崩れ落ちると、光の粒になって消えていった。
その後には、これまで倒したモンスターとは比べ物にならないほどの大きさの宝石と何やらよくわからない瓶が残った。
長い時間動いているように感じたが、戦闘時間はそう長くなかっただろう。
そんな短い間にほとんど全員が負傷しているのだから
幸い死者は出なかった。
かなりの威力の水弾だったが、水である以上そこまでのダメージは出なかったのか、地面が柔らかいおかげで助かったのか、わからないがそんなところだろう。
当たりどころが悪かった奴は幾らかいるみたいだが。
応急処置や奴が落としたアイテムの整理などをし終わると、先に進むことにしたのだが。
あのデカブツが守っていた先に、この世界の入り口と同じような大きさの扉があることに気づいた。
多分あそこが最後だろう。
「おそらく、あそこが最後の関門だろう!気合を入れ直せ!いくぞ!」
『サー!』
他に門番がいないか注意しながら、一歩ずつ進んでいく。
扉は、岩で出来ているようで、びっしりと何かが刻み込まれていた。
泥で出来た巨人だろうか、大きな人形っぽいものでところどころ崩れているようだ。
そんな絵がデカデカと彫られていて、言いようのない威圧感を感じる。
そんな扉は、手を掛けると軽くゴゴゴッと開き始めた。
完全に扉が開くと、そこには立派な椅子が置いてあった。
この空間にはそれしかなく、それはまるで玉座のようだった。
正直、ラスボスのような凶暴なモンスターが待ち構えているものだと思っていたので拍子抜けしてしまった。
そして、そんなものを期待しているというこの状況に慣れ始めている自分にイラついた。
その空間へ足を踏み入れると、椅子の裏に人が居るのがわかった。
誰かは分からないが、この事態に関わっている奴ではあるだろう。
「そこの男!出てこい!」
銃を向けて呼びかける。
男はゆっくりと出てくると、
「いやぁ、俺、善良な市民よ?ここに捕まっちゃったの。ね?」
そう言った。
「手を後ろに組んで後ろを向け!」
男に銃を向け、命令する。
「はいはい。ってするかよぉ!」
男は此方に向かって急に走り出した。
そうするなら、仕方ない。
足に向かって発砲する。
「いってぇ!うわぁ……。今のでHPが5分の1減ったぞぉおお!?」
その身に銃弾を受けたはずのその男は、そう叫びながら、殴りかかってきた。
そのスピードは決して人間に出せるものじゃなかった。その上、力まで強い。
手加減とか言ってられる場合ではなかった。
乱戦だった。とても人間とは思えない力で暴れる男。
戦闘技術も何もないが、取り押さえてもその馬鹿力で一瞬でふり解かれてしまう。
いつのまにか、銃弾が飛び交っていた。
確保する予定だったが、すでにそいつによって何人かの隊員が殺されていたのだ。
数分後。何かが割れる音がすると、男は胸を押さえて倒れていた。
「もう、終わりか……」
その男も、他のモンスターと同じように光の粒になって宙に消えてしまった。
その直後。
どこからか、機械音声のような無機質な声が響いてきた。
【ダンジョンコアを破壊しました。】
【勇者に認定されました】
「ぐっ」
それに反応しようとする前に、俺の頭を割ろうとするかのような鋭い痛みが走った。
脳内に無理矢理知識が流し込まれたようだ。
あぁ、頭がズキズキする。
この世界に開かれる無数のダンジョン?
支配者を打ち倒した新たな勇者?
この奥から繋がる、真のダンジョン?
いや……後でいいか、もやが残るが、とりあえず全て終わったらしい。
「撤退するぞ!」
よくわからないまま、俺の人生を変える初めてのダンジョン攻略は終了した。
クソったれが。
これからの執筆活動、少しでも応援して頂ければ幸いです。
平和な松ノ樹