あざとい笑顔
レオンと対面したアンナは自室で手紙を綴っていた。それはもう一流品の仕上げにかかる職人のごとく真剣に。手紙の送り先はレオンだ。実は明日はレオンの誕生祭であり、アンナが王位継承者であることを発表する大事な日なのだ。そこで初めてお披露目されたレオンは美しい容姿と子供とは思えない立派な振る舞いで評判になり、アンナは傍若無人な我儘な振る舞いで後日から陰で我儘姫と貴族たちから呼ばれるようになるのだ。
(明日の朝いちばんにこのバースデーカードと昨日リタに用意してもらったカスミソウの装飾が入ったしおりをお兄様にプレゼントするわ!)
ちなみにしおりは王室御用達のガラス細工職人に作ってもらったこだわりの品だ。デザインを考えたのはアンナで、カスミソウの花言葉は「幸福」。白く、優しい雰囲気を纏うカスミソウはシンプルで上品だから丁度いい。
(貴族の名前や家同士の関係もきっちり勉強したし、やってやろうじゃないの!)
誕生祭当日
「お兄様、おはようございます。」
「おはよう。アンナ。こんな朝早くにどうしたの?」
アンナは今レオンの部屋の前にいる。今日のアンナは淡いピンクのドレスを着ていて、無邪気に笑う姿はとても可愛らしい。だからレオンも「朝早くにいきなり何の用だよ?!」と言えないのだ。アンナは見た目はまだ5歳の子供。無邪気に笑っていれば大体のことはなんとかなるのだ。
「朝早くにすみません。どうしても一番にお兄様にプレゼントをお渡ししたくて。」
「プレゼント?ありがとう。手紙はあとで読むね。」
兄にプレゼントを渡す可愛らしい妹と妹に眩しいほどの笑顔を見せる兄。使用人たちは微笑ましい気持ちで見守っていた。
アンナが【あざとい】というスキルを習得したのはこの瞬間である。